第26話



 学園が『自治体』及び教育機関としての運営の基軸にしているのは、独立と平和だ。


 中でも、私たちイレギュラーと呼ばれる存在は、国際的な観点から見れば“どの国からも国民として認められていない人々”のことを指し、国籍という正式な法的結びつきがないために、基本的人権の侵害を受けやすい状態にある。


 スイス領の地方自治体の中で住民権を獲得していても、スイス政府からは正式に“国民”としては認められておらず、イレギュラーにとっての「国」はまだ、存在していない。


 そういった観点から見ても、バラムは国際的な「公の団体」としての独立性をまだ確立できておらず、あくまでスイス領の地方自治体としての運営及び内政しか、果たせていない現状にある。



 「21世紀の創造都市」と銘打たれた背景には、こうしたイレギュラーたちの「個人的な自治権(私的自治)」を確保するために掲げられた目標があるからであり、いつか国際的に認められる立場になることを、最終的なゴールに設定したからでもあった。



 地方自治体ではなく、「国」としての独立。



 学園都市としての最終的な目標はそこにあり、私たちの教育課程は、国の誕生、及びその『独立』に向けてのカリキュラムに集約していると言ってもいい。


 国家が成立するためには、国を支えていくための資金源と領土、永続的な住人や他国との関係を取り結ぶ能力(外交能力)等が必須となる。



 学園都市で教育を受けるイレギュラーたちが目指すべきもの。


 それは国家を誕生させるための下準備に向けた経済的な活動であり、行動。



 学園が管轄している教育課程は様々だが、その基盤となるものは、自治体を存続、成長させていくための組織づくりに向けた、経済的な土壌の形成だ。


 2048年現在、スイス領国としての関節的な外交や貿易が、主な地方自治体(学園都市)としての収入源になっている。


 農業や工業などの分野も徐々に発展を見せてはいるが、それでも国土としての領地が狭い分、物資や農作物の生産性が低く、他国間との連携が欠かせない状況となっていた。


 そのため、私たちは学生としての教育課程を修了した後、外交や貿易関係の派遣業務を主軸として、その主な活動の方針や重要性を指導されてきた。


 

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