夢現
清志郎
第1話 俯瞰的に見た彼
青年はお調子者でクラスの人気者であった。事あるごとに冗談を言い、自ら馬鹿になり、人を笑わせることに長けていた。無論、下品なネタも扱うため、学生時代は特に女性からモテなかった。しかし、嫌われているわけではなく、”人気者”という言葉が似合うような男であった。
彼はそのくせ、なぜかビンタが良く、学年で1、2番を争うほどの学力があった。さすがに彼は、運動ができるわけではなく、歯並びはガタガタで、全てを持ち合わせているわけではなかったが、そんな彼のことを学生時代は羨ましく感じていた。
なぜか彼は、私にだけ神妙な顔で話をする事があった。私以外にも、彼のことを尊敬する仲間もいたのだが、彼もまた、他の人間のことを羨ましがっていた。
どういうところが羨ましいのか、よく彼に質問した。すると彼は、「私はあまり笑わないだろう。なぜか一人傍観しているように感じる事がよくあるんだよ。」と質問の答えになっていないような返しをしてきた。文脈からすると言いたいことは分かるのだが、当時の私にはよく分からなかった。というのも、いつも人を笑わせている彼が、彼自身がまるで外から見ている傍観者のように感じているなんて。それはきっと、輪の中にいない人間が感じるものであって、彼自身がそう感じる感情ではないだろう。と、少しの怒りさえ覚えてしまっていた。しかし、後から聞いた話では、彼が自我をもった、所謂、主体的に生き始めたのは23の歳からであったそうだ。
客観的な思考は持っていたものの、人の目を気にして生きるような男ではない彼が今まで、どういった思想で生きてきたのか、その目には何が見えていたのかをこれから記していきたい。皆が共感できるかは分からないが、少なくとも私は、テレビの俳優や、お金持ち、権力者などは自分と違う人種とまで思っていた。ここまでの書き振りから彼の死を想像した人もいるかもしれないが、彼はまだ生きている。私の中での一人の偉人である、彼のことをこれから記していきたい。
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