第23話 厄介事のしらせ

結局、日の出前の時間にリリィはダミュアンの寝室にいて、寝ているダミュアンに声をかけることにした。

薄暗い寝室だが、目が慣れてくると物の輪郭くらいは捉えられる。


広い寝室には広めの寝台が真ん中に置かれている。

なぜかいつもダミュアンはその広い寝台の端で丸まって眠っているのだ。

この前も同じだったので、いつもそうなのだろう。


寝相が悪いのかな。

リリィは孤児院での子どもたちの様々な寝姿を思い出していた。子どもたちは枕の位置とは反対になっていたり、今にも駆け出しそうに手足を曲げていたり、挙句の果てにはカエルのように丸まっていたりするので、ダミュアンの寝方はとても綺麗な方だ。


それよりも、ダミュアンを起こさなければならないことの方が問題である。

彼はきっと不機嫌そうに顔を顰めて、なんだとかなり重低音で問いかけてくるに違いない。初日に言われた時と同じように。


「おはようございます、ダミュアン様」


そう思っていたのに、なぜか腕が伸びてきて、近づいたリリィの後頭部を引き寄せた。


そのまま、眠たげな声とともに額に唇を寄せられる。


「リリィ……」


髪を優しく撫でていく手のあまりの心地よさに思わずうっとりしてしまった。

密かに息を漏らして、はっとする。


今、何かに思考をもっていかれていた。


いやいや、あれはなにか知らないが危険な奴だ。


しげしげとダミュアンを眺めれば、何故か仏頂面でなく健やかに寝ている。

まさか、寝ぼけてあんなことを?


相手がしっかりと寝ていることを確認して、リリィは小さく呻いた。

何か夢でも見ているのだろうか。それで、誰かと間違えたとか。

だが呼ばれたのは自分の名前だ。


これは考えても仕方ないものだと割り切る。

よくわからないけれど、とりあえず約束は果たした。


艶々の髪に口づけて、リリィは囁いた。


「愛しい寝坊助さん、ゆっくり寝ていてください。行ってきます」


朝を起こす可愛い恋人のミッションはやり遂げた。

リリィはよしっと気合をいれると、扉をそっと開いて廊下に出る。外に控えていた執事はにっこりと微笑んだのだった。



#####


朝一番に職業斡旋所に駆け込んだお陰で、得意の塩を作る作業場の仕事を手にいれることができた。

顔馴染みの作業場だったので、紹介状を持っていくだけで大歓迎された。指示された通りに一心不乱に海水を鋤で広げるようにして天日にさらし、塩を作業を続けていると、昼前になって何故か真っ青になった監督がリリィの元に転げるようにしてやってきた。


またか?


今度は何だと思えば、何故か後ろにトンリがいた。

今日は孤児院の居残り組になっていたはずだったが、何かあったのだろうか。


「リリィ姉、助けて……」

「孤児院が大変なことになってるそうだぞ!」


真っ青なトリンに被さるように監督のだみ声が重なった。


今度こそ孤児院である。

しかも監督まで慌てるほどの。

孤児院が大変なこととは?



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