これが最後の恋になりますように

海坂依里

第1章「夜舞病棟の〈中〉から〈外〉へ」

第0話「お母さんに連れられて歩いた道」

 光きらめく街並みを、母と一緒に眺める時間が好きだった。


『おかあさん、あのね……』


 子どもは、光あるものに惹かれるものなのか。

 それとも、光り輝く世界に憧れを抱いていたのか。

 今となっては、何を理由に心が奪われていたのか思い出せない。


『あなたに、大切な話があるの』


 母は、私のことをと呼んだ。

 たとえ名前を呼んでもらえなくても、あなたと呼ばれたとしても、私はお母さんと血の繋がりがあると信じていた。


『あなたは……』


 大好きなお母さんの声で、私はいつか自分の名前を呼んでもらえると思っていた。


『人を殺す可能性があるの』


 それが、大好きな母との最後の会話。

 大好きな母の声で告げられた言葉は、その言葉だけは、今も私の耳に突き刺さったまま離れることがない。


『今日からみんなの仲間になる、羽乃架はのかちゃんです」


 母と別れたあと、私はを呼んでもらえるようになった。

 母と別れたあと、私はようやく自分の名前を思い出した。

 思い出した……。

 思い出した……?

 私の名前は、本当にでしたか?






もし宜しければ、☆をクリックして応援していただけると嬉しいです!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る