Vサキュバス

@parliament9

第1話

「ああvtuberと、エッチなことがしたーい!」


などと叫んでみても何かが変わる訳でも無い。

しかして俺は大学生、性欲を持て余さざるを得ないお年頃なのだ。中学生の頃は量をこなせば満足していたが、そうしたことに社会的な現実性を帯びた年頃ではまた熱量というものが違うのである。


具体的に、したい、のだ。

まさしく抜き差しならぬ事情というやつである。


だが親元を離れ一人暮らしさせてもらっているのはいいが、援助は乏しく、学業との兼ね合いで出来る範囲のアルバイトでは生活費を稼ぐのが精々である。彼女どころか風俗も厳しい。

そんな俺の支えとなったのがvtuberの方々だった。


彼女達は偉い。


こちらが追いつけぬほどのコンテンツ供給により、いつでも新鮮な姿を見せてくれる。ゲーム、おしゃべり、動画鑑賞…一方的な形ではあるのは分かっているが、それでもそこには無垢な内面を晒す女性がいるのだ。彼女らの一言一言に色めきたち、ゲームなどでの困難を乗り越える姿に感動を覚える。こんなにも人間というものは素晴らしいのだと思い起こさせてくれる。


次第に恋心を覚えるのも無理はなく、大学生故の性欲に接続されていくのもまた無理はない。


そうしてこれほど可憐で美しい魂を持ったものを穢せたのなら、どれほどの快楽が得られるのだろうかという妄想に耽ることも増え、今日はとうとう口に出すこととなったということである。


(まあ本当、何が変わる訳ではないのだけれど)


そう諦めていた時だった。

ワンルーム20平米の自室。その窓側に置いたベッドに寝ころぶ俺の視界に紫色の魔方陣のようなものが描かれていく。

呪文の刻まれた帯のようなものがくるりと一つ、円となったかと思うと、それの外側を囲むように二つ、三つとくるくるくる円が生まれていく。

それは映画さながらのそれで、大がかりなイタズラなのか、それともしたすぎるあまりに脳が異常をきたし幻視を見せているのか?あらゆる考えが浮かんでは消えていき、俺はただ目の前の超常現象に釘付けとなっていた。


「そんなにvtuberとしたいのなら…」


そんな俺の耳に声が届いた。

そしてFANZATVを毎日欠かさず見ている俺は瞬間的に悟った。


これはお姉さんだ。

隣に越してきた社会人二年目のお姉さんの声だ!


更なる衝撃を受ける俺の前に、宙に浮く魔方陣からダークブーツのつま先が降り立つように現れる。

続いてヒールのついた、鮮やかな光沢を魅せるブーツが、褐色のキメ細やかな太股が、見えそうで見えないラインをキープした黒のハーフスカートが、惜しげも無く晒されるへそにくびれが順々に姿を現していく。


そして、おっぱいだ。


俺は乳差別はしない。

小さいものも、大きいものもそれぞれ異なる美しさを持つものであるからにして、みな等しく尊く、ありがたきものと考えている。

だけれども、この目の前の膨らみだけは、別格の極上品であると思わずには居られなかった。下品さを感じさせないギリギリの大きさ、そして何者もを優しく包み込んでくれるかのような安心感を宿した丸みがそこにあった。思わず伸ばしかけた右手を罰するかのように左手で叩く。己のような汚らわしいものが触ってはならない。そう本能が告げたのだ。


黒いタンクトップのような布にぴっちりと包まれたその胸元が全貌を露わにする。そして笑顔が見えた。


白い歯、緑の隻眼。左の目を隠す長い黒髪。

化粧なんてしている訳が無い。そんなものをすれば、逆にノイズになるだろう。ギラついた欲望塗れの美しさ。黄金のような力強さに満ちた女神。黒い羽がなければ、赤黒く禍々しい天輪がなければ天使と見間違えただろう。


そんな存在だった。


「…Vサキュバスといたしてみない!?」


俺の前に現れた、そのサキュバスは。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る