第142話 僕の本分は文官だから


 あれからお城への報告を終えた僕らは、方々との手紙のやり取りを行っていた。

 主にルドレール、マテイ、アデル殿などである。


 遠征に出る前にフランツ殿にはもう既にお願いしてあったし、グランデの人員も動かしてあるので、ある程度の情報は入ってきた。

 と言っても核心を突くような話は入ってきていない。


 彼らが調べてきてくれた情報は魔石のストックは未だ続けていることや、ハーケン国内の上層部が二つに割れている事など。


 まあ流石にハーケンの中枢にいきなり入るというのはまず不可能なのでそこは仕方がない。


「うーん、困ったね。これじゃ手の付け所が難しいな……」


 うん。今入ってきている情報のみだとやるべきことを絞れない。

 戦争に関するアクションすらないからなぁ。

 普通ならば一目散に使者を送ってくるところなのだけど……

 現国王は結構な愚か者のようだ。

 未だに勝てると踏んでいるらしい。


 いや、仮に勝てると思っていたとしても相手方とコンタクトを取り情報を得る方向でいく方が得策なのだけど……

 

「うちが攻め上がればアクションを起こすとは思いますが、難しいのですか?」


 ああ、ウルズに居る兵を動かせば確かに国境周辺は落とせるだろうけどねぇ。


「できないこともないんだけど……戦争に積極的だとは思われたくないなぁ。

 聖騎士たちが前回の戦いに参戦してくれた理由からもわかるだろう?」


 そう。好戦的な国はあまりよく思われない。

 特に外からは。

 そうした不快に思われる要因を避けてきたからこそ、フランツ殿の声に聖騎士が応え参戦してくれたのだ。


 そうした方面で考えれば切羽詰まった状態じゃないなら侵略行為はしたくないところ。

 だが、攻め込まれた直後だし攻め上がろうとも特に大きな問題も無いとも言えるのもまた確か。


 つまりは、やってもいいんだけど周辺はどう反応するかねぇ、と頭を悩ませるところである。


「なるほど。やるかやらないか微妙なところなのですね……」

「うん。それを決める為にもハーケンからのアクションが欲しいところなのにね」

「では、ハーケン王と対立している派閥へのコンタクトは如何でしょうか」


 おっ、いいね。

 それは僕もありだと考えていた。

 ただ、顔を繋ぐ為のコネクションがないんだよなぁ……

 敵国上層部とのコンタクトは外部からのパイプが無いと早々成立しないからな。


「誰か紹介してくれればいいんだけど……」

「ハーケンと繋がりが密だったのはルドレールですものね」


 そう、こちら側でハーケンと密なのはルドレールだけだ。

 ムルグもだが、あそこはそもそもあちら側なので頼むだけ無駄だろうし……


「マテイでは無理でしょうか?」

「うーん、厳しいかなぁ。正確にはできるだろうけどコンタクトを取って当然だと思われるほど密な所からじゃないとハーケン王側に気取られるだろうしね」


 一応、理由は付けたとはいえマテイも魔石の輸出を半分に減らしている。

 そんな中での話。

 マテイ王ならばうまくやってくれそうな気もするが、智謀を得意とする人に大きな借りは作りたくない。

 

「そうなるとお手上げですね。私にはこれ以上思いつきません……」

「そうだね。じゃあ、他の人に考えて貰おう」

「えっ……」

「いや、僕らだけで考えなくてもいいじゃない。

 信じられる味方への相談ならいくらしてもいいでしょ?」


「それはそうですね……では再びお城へ向かうのですか?」と、視線を送るリーエル。


「いや、国側だと秘密裏というのが難しそうだし、今回はレイヒムの伝手を頼ろう」

「あっ、商会方面からということですね」

「うん。いくつか辿る必要があるだろうけど、大商会は横の繋がりが広いからね。

 上手くやれば反国王側の陣営の御用達商会まで辿りつけると思うよ。

 その下準備をして貰っている間にアデル殿にも話を聞きに行ってみようか」


 と、僕らはレイヒムに手紙を送りつつ、出立の準備を整えた。


 そうしてやってきたのは皇都にある大教会。

 幸いにも現状アデル殿は帝国の皇都にて居を構えてくれているので会えるまではすぐだった。

 教会の最奥にて、僕らは顔を突き合わせる。


「たびたびすみませんね。聞かせてもらいたいお話がありまして……」


 と、アデル殿に声を掛ければ「話程度いくらでも構わんさ」と彼は快く迎えてくれたので、早速彼の曾祖母についての話を伺った。


「ふむ……そちらの方面か。何やら事情がありそうだな」

「ええ。口外しないことを誓って頂けるなら、お話致しますが……」


「ああ、それだけでよいなら是非聞かせてもらいたいところだな。

 折角情報を得られるようになったのだ。情勢もできる限り把握しておきたい」


 その言葉に頷き、僕は英雄の墓の向こう側が別大陸に繋がっている話を伝えた。


「なっ!? それはまことか!?」と、お城の時と同様に驚愕した様を見せられた。


 陛下や父上たちも腰が浮くほどだったからなぁ。

 まあ結局は僕の見解と同じで蓋をするという結論に至ったのだけど。


「ええ。そうなるとアデル殿の曾祖母に当たる方はそちらから来たという可能性が高くなりますよね?」

「確かに……そうか。それでエルフの話を聞きたいと」

「はい。接触する気はありませんが、それでも知っておくべき事柄でしょうから」


 その言葉に彼は少し考え込む様を見せたが、すぐに「わかった」と頷いてくれた。


 そうして話を聞いてみれば、少数の種らしく人の町一つ分程度しか居ないそうだ。

 技術的にも当時はこちらが劣っているなどということは無かったそうだ。

 ただ、長寿だけあって強者はとんでもなく強い。

 トップ層は竜種とも単身で渡り合えるほどの実力を持つそうだ。


 故に人では敵わない強さを持つだろう、とアデル殿は語った。


「っと、人種との差は覆らないと聞いていたのだが、貴殿は単身で竜種を討伐しているのだったな……」

「あはは、私も少々特殊な生い立ちでして。

 しかし安心しました。少数の民族であれば土地を求めて侵攻してくるという可能性は低そうですね」

「ああ。私もさわり程度しか聞かされていないが、世界樹という木を守って生きているそうだ。種族全体でそこを離れることは絶対に無いと言っていた」


 どうやら宗教的な問題でもあるそうで、その聖地の守護が最優先と考えているのだそうだ。


 まあ、少なくとも千五百年以上は前の話。

 長命の種だとはいえどこまで当てにしていいのかもわからないが。


「であれば、ますます見なかったことにする方がよさそうですね。

 お国の方で文献として書物に纏めて貰い蓋をしてしまうと致しましょう」

「むっ、私としては少々……いや、結構気になるのだがな」


 ああ、自分のルーツだものね。

 ただ彼の曾祖母である初代教皇も単身で出てきているのだし、色々と面倒そうな事情とがありそうだけども。


「まあ私も気になりはしますが、戦いになってしまう可能性を鑑みれば致し方ありません」

「……そう、だな。うむ。であれば仕方あるまいな」


 そう言って彼は自分を納得させるように頷く。


 そうして話を終えて教会を出た後、聞いた話を書類に纏めてお城へと提出し、今度はルドレールへと赴いた。

 レイヒムからルドレールの支店の方に動いてもらっているという手紙をもらったのでフランツ殿にも動いてもらっているし丁度いいとこちらに足を運んだのである。


 そうしてレイヒム商会のルドレール王都支店へとたどり着けば、今現在、ムルグの大商会に渡りをつけている最中だと言う。

 手紙を送れば二つ返事で会いたいと言われて今、顔つなぎをしているところなのだそうだ。


「ちょっと来るのが早かったかな……」

「教皇様への面通りもスムーズでしたからね。

 執務仕事をしたと言ってもそれも一日で終わってしまいましたし……」

「じゃあ、少し遊ぼうか。よく考えたら僕ら休暇の体で時間を取っているのだし?」


 どうかな、と流し目を送れば彼女はコクコクと嬉しそうに同意を示したので、高級宿を取り、劇を見に行ったりオーケストラを聴きに行ったりと数日使って休暇を満喫してしまった。


「ああ、もう終わってしまったのか……」

「仕方ありませんよ。ルドレール王との面会日になってしまいましたし」 


 そう言いながらもリーエルも名残惜しそうにしていた。

 宿も一部屋だったので一緒にお泊りだし、ルドレールの王都なので割と高水準で色々とできたのだ。

 前回前々回はお城に居たので今回初めてルドレール王都を満喫したのである。


 そんな面持ちのままに僕らはフランツ殿の所へと向かった。


「やぁ……忙しい所、すまないね」

「えっ……あ、はい。ですが、どうかなさったのですか?」

「ごめんなさいね。

 こちらで休暇を取らせて貰っていたのですが、思いの外快適でしたので……」


 と、リーエルが苦笑してフランツ殿に事情を話せば彼は楽しそうに笑った。


「そうですか。ルドレールでお楽しみ頂けたならよかった。

 では、もう暫く時を持ちますか?」

「いや、大丈夫だ。元より時間が余ってしまったから休暇に当てただけでね。

 変な空気にしてすまない。僕も気持ちを切り替えるので、話を聞かせてもらえるかな?」


 その声に彼は頷き、ハーケン内で探ってきた話を聞かせてくれた。

 どうやら魔素発生装置に関しては事実のようだ。

 しばらく前に、魔石から魔素を発生させエネルギー転用の効率化を図ったことを綴った論文が発表され、その学者を国が囲ったらしい。

 そこから魔石を積極的に集めだしているのだとか。


「それなのに魔石を止めてもあの程度の放出しかしなかったのか……」

「ええ。ハーケンは元よりそんな国です。

 王や貴族の為に民が居るという考えが主流ですから」

「あぁ、よくある話だね。互いに支え合っているから成立しているのにねぇ」

「人情のみならず愚かしい話ですわよね。民に恙なく動いてもらえる状況を作り経済を発展させれば、結果的に効率的になるというのに……」


 そんな嘆きの声が入りながらも話を進めていけば、話が本題に入った。


「その件の学者を伴って騎士団が遠征に出たことがあったのですが、恐らくはその時に人工的に魔物を発生させる実験を行ったのだと思われます」

「ふむ。その条件下が気になるな。大気中なのか、密室にてなのか、それと魔石をどれくらい導入したのか、そこら辺はわからない?」

「そこであれば持ち運んだものから推察できます。大規模に建築できる資材は無かったとのことなので外での事でしょう。

 国庫から出された魔石の量まではわかりませんでしたが……」


 なるほど。

 これは結構な技術革新があったと考えるべきだな。

 しかしどれほど効率化されたのかが問題だな……


「やはり、それを使われたらそうとう苦しいのでしょうか……」と、考え込んでいる僕を心配そうに見るフランツ殿。


「ああ、いや……もう既に英雄の墓の魔物は僕らで殲滅してきたからね。一応は問題ないよ。ただ、それでももしもを考えて止められるならば止めたいからね」

「……英雄の墓と言えばかなり広く深層の魔物が群れを作る場所と聞きますが、そこをリヒト様が殲滅してきたのですか?」


「うん。ハインフィード騎士団と共にね」と、彼の疑問に答えれば圧倒された面持ちを見せていた。


「ふふふ、今回僕は殆ど何もしていないよ。主に魔物を討伐したのはリーエルだ」

「ご婚約者様が、ですか!?」

「あら、エルネストさんもですわよ」


 などと話していれば彼は「それほどのお力があればハーケンなど力で黙らせられるのでは……」と、何故攻めないのかと問うフランツ殿。


 その声に「普通、そう思いますわよね!?」と同意しながらも意気揚々と説明を続けるリーエル。


「リヒト様の主目的は平和なのです。その為と考えると同盟設立が一番の近道。

 となると外に見せられる大義が無い状態でこれ以上ハーケンを叩くのは少々問題があるということなのだそうです」

「なるほど。せめて魔素発生装置を使わせた後じゃなければ、大義が生まれないのですね」

「うん。僕としてもやっても構わないのだけど、都合の良さを考えるとね……

 だけどスタンピードが起こるとわかって使わせる訳にもいかない。

 だからできるならば先んじて止めたいな、ってところなんだ」


 そうした説明を入れると「それであれば国境で止められるのでは?」と彼は首を傾げる。

 外国からの物資など検問を強めれば止められるでしょう、と。

 

「そうだね。ただ、通す場所にもよるんだ。グラークの最南端、とかね?」


 そう。グラークの最南端はルドレールに覆いかぶさるように伸びている。

 地理的にはガーハ領と隣接している形だ。 

 もし大量の物資を必要としないのであれば、そちらから未開地の悪路を通って行けば帝国への密入国は可能である。


「それにさ、魔素発生装置は世界的禁忌だよ。

 敵国が使おうとしているのならば目を光らせない手はないよねぇ?」


「――――っ!?」


 どうやらフランツ殿は気が付いたようだ。

 これはただの防衛手段ではない。

 外交的な強い攻撃の手札となり得るもの。


「確かに、突きとめればハーケンは世界の敵になる……」

「うん。特にハーケンはそうなるなんて思ってもいないだろうからね。

 そんな油断があれば大国でもそうできてしまうかもしれないよね」


 そう。世界情勢は移り変わりつつある。


 帝国がハーケンに勝ち、同盟規模でも大幅に勝っている状況。

 それに世界が気が付き始める頃合い。

 そんな時に禁忌を犯して糾弾されるようなことになれば、その流れに勢いが付く。 


 それは値段の相場などと同じで、付いた勢いは実際の力関係を無視して大幅に効果をもたらすこともある。


「あそこは恨まれてもいるからねぇ。

 叩いてもいい状況となったならば叩きたい国は沢山ある」


 そう考えると面白そうだろう?


 と、フランツ殿に問いかけると「あはは、確かにこれは目を光らせねば損ですね」と彼は笑った。


 うん。やっぱりこういった策謀の方が僕っぽいね。

 何と言っても僕の本分は文官だから。

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