第21話 ミリアリアの決断
僕はリーエルと二人、父上へと相談に公爵家へと訪れていた。
「なんだ、最近はよく来るな。また面倒な話か?」
と、父上は笑いながらも少し困った顔を見せて問いかけた。
「はは、そうなりますかね。すみません……
父上がお許し下さるならサンダーツ家へと舌戦を仕掛けようかと思いまして」
「なっ!? なにぃ! そ、それはハインフィード家としてか!?」
「いえ。リヒト・グランデとして、です。ですからお許しを請いに来ました」
この国で文官が舌戦と言ったら中央で謀にて他家への攻撃を仕掛ける事を指す。
言葉を使った戦いとなるので舌戦と言われている。
「まあ、何処までやるかは相手の黒さ次第ですが、もう攻撃材料はありますよね?」
「むぅ、確かに必要だが……子供にそんな事はさせられんぞ。ダメだ。
と、言いたいところだが勝算はどれほどだ?」
本当に止めたそうな様子だが、父上もわかっているのだろう。
何としてもあそこの力は削いでおくべきだと。たとえ杞憂だとしても背に腹は代えられない。
「ええ。先ずは仕掛ける前準備としてロドロア戦でサンダーツ家の戦力を奪いたいと思います。
馬鹿に力を持たせるから調子に乗らせてしまっている状況かと思われますので」
「どうやって前に出させる……」と思考しながらも問いかける父上。
「一番良いのは殿下の軍としてサンダーツから召し上げるのが宜しいかと。
あの方なら乗せやすいでしょうから適役と言えましょう。
次点で国の決まりを破った責ですが、大義だのと言っているくらいですから抵抗を見せるでしょうね……」
幸い僕が提案した策が上手く機能した様で、戦争まで最短でも後一か月以上の余裕はある。
その間に殿下が軍を率いる事にすれば、両者を乗せることは容易い。
「待て! 殿下にロドロア戦に出よと申すのか!?」
「ええ。本人曰く前回の学院襲撃でも立派に戦って敵を退けたそうですから、兵の裏に居るくらいは問題無いかと。
此度は先ず勝てる戦。皇家にとってもサンダーツ家にとっても大きな利となりましょう?」
そう。戦争で活躍というのは圧倒的に有利な状況だろうが馬鹿にならない名声を得る。
当然宮廷内での発言も強いものとなる。中枢に入り込むなら何としても欲しいものの筈だ。
「殿下を守る軍ともなれば全力で出す他ない、か。
確かに弱らせるなら絶好の機会ではあるが、皇太子殿下を囮に使うような真似はできんぞ?」
「やらぬならやらぬでも構いません。ただ奪った領地を返させるくらいはしないと不安ですが」
「む、もうそっちにも調査報告がいっているのか?」
私も昨日読んだところだが、と不思議そうにこちらを見る父上。
「いえ、新しいものは何も……何かわかったので?」
「うむ。それがな……」と話してよいものかとリーエルの方へ視線を向ける。
「当家の秘密であるならそう仰ってください。もうすぐ家を出る僕も聞かぬ方がよいでしょう」
「そうではない。残虐な話を若い娘にするのも気が引けてな。
まあ辺境伯ともなればそうも言っとられんか」
「はい。御聞かせ願えるなら是非」と視線を向けたリーエルを見た後、父上は調査した内容を明かしてくれた。
領地簒奪の始まりはサンダーツ家へと見合いの縁談にて呼ばれていたトルレー子爵家の令嬢が暴行された事が発端だったらしい。
行き遅れの子爵令嬢をサンダーツ伯爵が後妻として迎え入れるという話だ。
その子爵家の令嬢も中々に無礼だったらしく、顔合わせ早々に言い合いになり激怒した伯爵が暴行し監禁して乱暴したらしい。そしてそれは彼女が死ぬまで行われたそうだ。
その後、サンダーツ伯爵は詫び金と共に娘の死体をトルレー子爵家へと送り付けた。
そもそも金で済む話ではないが詫び金は大金貨でたったの十枚だったそうで、ただの煽りとしか取れない額であった。
当然、娘を無残な姿に変えられたトルレー子爵は大激怒した。
先ずは徹底抗議の姿勢を示す為と兵を自領地の境界へと出兵させ、国へとサンダーツ家の愚行を奏上しようとした矢先にサンダーツ兵が奇襲をかけて攻め入ってきたそうだ。
大っぴらに兵を境界線へと出してしまったが故に、先にトルレーが攻め入った風にも見えたのだろう。
元々その予定だったであろうサンダーツ兵の方が圧倒的に数が多かったそうで、簡単に押し切られてトルレー子爵の一族はすべからく惨殺されたそうだ。
状況証拠から見ても、町の封鎖までの時間を考えるに元々考えていたことで間違い無い様だ。
サンダーツ伯爵は子爵令嬢もその時に殺した事にしたらしく、トルレー領内を半分閉鎖状態にしつつ情報統制の為に今も子爵が悪なのだという嘘を振りまき続けているらしい。
「というのが買収したサンダーツ家の兵と、逃げて生き延びたトルレー子爵家の使用人からうちの諜報員が聞いた話だ」
痛ましい話に「なんて、悍ましい……」と口元を押さえ顔を顰めるリーエル。
僕が「国にその話は……」と問えば父上は目を伏せる様に頷いて見せた。
「流石に陛下も目が据わっておった。これを何もなしで終わらす訳にはいかんとな。
それの娘が殿下に纏わりついていると知ってどう動くべきか心底迷われておられた」
「サンダーツ家はそんな暴挙に及べるほどの何かを持っているのですか?」
常軌を逸した異常者だと言えよう。
自ら乱暴して殺した娘の遺体を親に送りつけるなんて真似は……
仮にそうした犯行があったとしても普通犯行は盗賊の所為にするもの。
相当な強みを持った外道の所業でなければそう起こり得ないレベルの策謀。
そもそも目的が見えない。
どういう思惑なんだ……?
「うむ。現段階の情報を精査するに他国と繋がっているのではないか、と踏んでいる。まだ確定ではないがな」
た、他国かよ……それは厄介だ。
国家レベルの兵力が入ってきている可能性が出てくるのか。
それもうちと違ってちゃんとした力を持った王が送った兵が、だものな。
あっ!
それで隣国と地続きになるトルレー子爵領なのか!
あれ……これもうがっつり繋がってない?
「益々兵を減らしておくべきでは……」と、父上に問う。何故迷いを見せるのか、と。
「それは当然理解しているが、誰だって子を戦場に送りたくはなかろう。
溺愛していて甘い親がまだ未成年の子供の出兵を許すと思うか?」
ああ、そうか。陛下が許可を出さないなら無理だわ。
たった一人の皇子だし未成年だしで出ない方が普通な訳だし。
「それはそうでした……
では、殿下が行く必要が無ければ大抵の状況は許されると思って宜しいので?」
「限度はあるがそうなるな。もうサンダーツ家は国としても許すわけにはいかん。
一人の使用人の証言で証拠と断定する事もできぬ故、他方面から責める必要があるがな」
ああ、ちゃんとした証拠は無いのか……
それで何となく繋がったな。
他国からの支援がある上、トルレー家使用人の証言では決定的な証拠とならない。
子爵一家すらも殲滅し隠蔽にも成功したからこその強気の姿勢か。
精神異常者レベルの策謀だと思っていたが、悪党で愚か者ならばギリギリ起こり得そうだ。
「そこで必要となるのが文官としての攻撃、ですのね」とリーエルは一人納得する。
「うむ。表では罪人と出来ぬが故に他家の目も気にせねばならん大変面倒な案件だ」
そう返しつつも、リーエルへと視線を向けて「気丈だな」と微笑む父上。
「サンダーツ伯爵はロドロア戦への出兵に乗り気になっておりますか?」
「うむ。お前の策が功を奏してな。示し合わせて煽れば皆乗ってきたぞ。あれは面白かった。
サンダーツ伯もほぼ全軍の三百を出すと声高らかに宣言しておった。
がしかし、実際には半数にも満たん。調査では七百程度は居るとあった。正規兵とはしていないのであろう」
「まあ、悪党ならば手元に残す戦力こそ本命でしょう。
やはりそれを引っ張り出すには殿下に踊って貰うのが一番丁度いいでしょうね」
少しばかり面倒な案件だが、上手くやれれば父上の顔も立つ。
失敗しても僕が殿下に恨まれる程度。既に嫌われているから元々対策は必要なことだ。
ああ、ならどうでもいいな。うん。
「いや、踊って貰うってお前なぁ……本当に無茶はするなよ?」
「ええ。軽く恋路を引っ掻き回す程度にしておきます」
その程度ですから安心してください、と告げるが父上は大きくため息を吐いた。
あれ、なんで、とリーエルを覗き見ればうふふと笑っていた。
うん。リーエルが笑ってるならいいや。
大丈夫だろう。
そんな面持ちで話を終わらせて屋敷へと戻った。
エメリアーナとも情報の共有をすればブチ切れて、サンダーツ家へとハインフィードの軍を連れて攻め入ろうと言い出し宥めるのが大変だった。
「一応言っておくけど、貴族の犯罪歴を調べれば強姦や殺害なんてよくある話だよ。
領地を奪うまでは先ず無いけど……だからこそ舐められないのが重要なんだよ。
勿論、今回の事件は極めて凶悪な部類だけど、今まで目を向けてなかっただけだよ」
いくら強いとはいえ、キミも例外ではない事を忘れないでくれ、とエメリアーナへと言い付ける。
「それでも許せない! 滅したいわ! そんなの魔物よりも性質が悪いじゃない!」
「えっ……今更?」と、僕は驚いて彼女の顔を覗き見る。
「そうだよ。魔物よりも性質が悪いものを相手にしないといけないのが僕たちなんだ」
そう返せば、顔中に皺を寄せる程に苛立ちを露わにして「うぅぅぅぅ!!」と唸った後、ソファーに寝転んで枕で顔を隠した。
「まあ、僕が出来る限り力を削ぐ方向で動くよ。
武官のキミは戦争になった時に正面から戦ってくれるだけでいい」
「……わかった。戦争になったら任せて」
顔を枕で隠したまま返すエメリアーナ。
気持ちはわかる。
僕も実際、目には目をタイプだ。
子爵家を虐殺したのだから自分も一族ごと虐殺されて当然だと思う性質である。
もし家族が何も知らなかった場合、とかで意見は分かれるだろうが当主の決断というのは一家を巻き込むもの。
皇族だって戦争で負ければ全員首を刎ねられるものだし、貴族だって法律で一族郎党斬首と決まっている刑もある。事の重さは変われど貴族も平民も例外無く起こりうるものだ。
盗賊なんて属しただけで死刑が決まるほどだ。
入るのが強制的だったとなっても経緯なんて考慮されない。
それほどに何かしらの組織に属するというのは重いもの。
選べない立場に居る者は可哀そうだと思うが、組織を支える立場にある者たちにも罪はあるのだ。
その筆頭である領主家がとんでもない悪事をやらかせば一族が死刑になるのは仕方ないと思う。
どこまでもやればいいとは思わないが、ある程度帳尻を合わせる形で罰を与えるべきだと考える。
令嬢の虐殺までであればまだサンダーツ伯爵個人への罰で済んだが、軍を用いて他領へと攻め込んで皆殺しにまでしてしまってはもう家として負う責任だ。
故に、手心を加える必要は一切無い。
盗賊一家くらいの心持ちで当たるつもりだ。
そう考えていると、不意に柔らかさと体温を背中に感じた。
「あまり気負わないでくださいまし。これは本来リヒト様が背負うものではないのですから。
ごめんなさい。私がお友達を助けたいからとあなたを巻き込んでしまって……」
柔らかい膨らみが二つ、背に優しく押し付けられている。
脂肪と一緒には落ちないであるべき場所に居てくれたその偉大なる膨らみ。
甘い香りに優しく柔らかすぎる感触。そして直に伝わる愛する人の体温。
ダメだ、思考がやられる。
突っ撥ねでもしなければ理性がやられてしまいそうだ。
な、何か、何か適当な事を言って切り抜けねば……
「か、勘違いしないでよねっ! べ、別に僕がやりたいだけなんだからっ!」
そう言って口を尖らせてプイっと顔を背ける。
どこかの本で読んだ、突き放す様で愛を感じるという言葉の引用。
それを緊急回避の為にと実現させてみれば、リーエルは目を丸くした後「ふふ、なんですかそれ」と笑い出す。
ソファーで顔を隠しているエメリアーナも「ば、馬鹿じゃないの!?」と声を上げつつも肩が小刻みに揺れている。
そんな空気のお陰で少し気持ちが落ち着いてくれた。
「いや、うん。まあ気にしないで……実際成功させればグランデにも利がある話なんだし。
そもそも国が脅かされそうって状況だしね……」
流石に恥ずかしくなり色々な意味を込めて気にしないでと言っておいたが、リーエルは他の事が気になった様子。
「グランデ公爵家の利ですか……?」と。
そう。
グランデの人間である僕がこの事態を収めたともなれば、賛辞は父上の元へも贈られる。
貴族たちは勿論、皇帝陛下や宰相閣下もグランデへの評価を更に上げねばならなくなる。
何せ、国の一大事に陰で戦った救国の英雄とも取れる功となるのだ。
それで多少は頭が上がらないくらいにならなければそれこそ愛想を尽かすべきである。
「まあ、殿下を戦場に出せないって言われると色々難しいんだけどねぇ……」
「できる事なら手伝うわよ。何するのか言ってみなさい!」
いつの間にか隠していた顔を出していたエメリアーナが珍しく自分も駒になると言い出した。
「うん。とりあえずはライラ嬢と接触してミリアリア嬢との争いを激化させようかと思ってる」
「「ええっ!?」」
「まあ、そんな反応にもなるよね。
正直、出来れば婚約破棄の手前まで持っていきたいくらいだし」
「そ、それは拙いと仰っていませんでした?」
「うん。だからサイレス侯爵も巻き込む。中に入れて情報共有しておけば済む話だから」
その為にはミリアリア嬢に許可を取るのが先ず第一歩だね、と告げるとエメリアーナに続きを話せとせっつかれた。
だが、話してしまうとその通り動かねばと思い小回りが利かなくなる可能性があるから、今回は進捗の少し先まで話す程度にしておくと断りを入れた。
次の日。今日はミリアリア嬢が学院へと登校していたので、朝の挨拶を大きな声で行う。
「ミリアリア嬢、おはようございま~~す!!」
「えっ!? あ、はい……おはようございます」
席もリーエルを連れて彼女の隣へと座る。当然、リーエルを挟んでだが。
突如大きな声を出してそんな行動を取った僕らに教室中から視線が向かう。
当然殿下もこちらを不思議そうに見ていたが嫉妬の様なものは感じられない。
この感じからして、やはり殿下にもミリアリア嬢を想う気持ちは無いのだろうか?
微妙にわからなかったが、これ以上の事もできないのでどちらからも視線を逸らしておく。
異常な行動だが、咎められるような話ではない。
大きな声を上げただけだし、元々リーエルと彼女は友達だ。
この感じなら探りは入れてこなそうだな。
ミリアリア嬢と直接顔を合わせて話しても大丈夫そうだ。
そして僕は隣の二人にしか聞こえない程度の声で「後でお話したい事があります」と彼女に告げた。
ミリアリア嬢は軽く目を伏せる程度に頷き了承してくれたので、その後は僕は口を開かずに授業を受けた。
チラチラと殿下がこちらを伺っている中の授業である。
訝し気ではあるが嫉妬と思える程でもない視線。
浮気している割には気にするんだな。
そうした振る舞いは僕に利用されるだけだからしない方がいいと思うけど、と思いつつも授業を終えて僕らは三人で教室を後にした。
そうしてカフェテリアへと再び訪れての密談。
「突然すみませんね……驚かれたでしょう?」
「え、ええ……それはもう。それで、どうかなさいましたの?」
隣にリーエル、向かいにミリアリア嬢。そんな自然な配置で着いた席で計画を話し始める。
「えっとですね。サンダーツ家が他国と深く繋がっている可能性が割と高いそうで、彼らに軍事力を持たしていてはいけないという結論に至ったのです」
「ええっ!?」と、驚きを見せるが間髪入れずに先を話す。
「はい。ですから、私としましては殿下を利用してサンダーツから出来る限りの兵を挙げさせ、ロドロアとの戦争に出兵させたいのです」
「は、はいぃ!?」と、新たに驚愕する言葉だった様で、驚いた形相で周囲に人が居ないかを確認しているミリアリア嬢。
「その為にライラ嬢を煽って殿下をそそのかさせ、貴方に対して公然での断罪的なものをやって頂けないものかと思っております」
そう言った途端視線が少しキツイものへと変わるミリアリア嬢。
「こちらに話を持ってきたという事は悪意は無いという事でよろしいんですよね……?」
「はい。話を聞いた後、貴方がやめて欲しいと言うのであれば他のやり方を考えます」
正直なところ僕らは視点が違う。
彼女はライラ嬢を。僕は他国の存在をどうにかしたいのだ。
その為には共通してサンダーツ家をどうにかしなくてはならないのだが、視点が違えば取りたい経緯が変わる。
ミリアリア嬢にはリスクの高い策だから受け入れなくても仕方ないが、お国の為と考える人なので直球で問いかけた。
「……私が陥れられる事をどうサンダーツ家の衰退に繋げるのですか?」
ふぅぅ、と息を整えたミリアリア嬢はちゃんと話は聞いてくれていた様で、疑問を投げかける。
「学院での話とはいえ、それほど大きな問題となったならば国が取り仕切る事が出来ましょう。
そこからは陛下にお願いして問題を一度預かって貰い、戦場で功を立てた家の方が皇太子妃を出すにふさわしいとでも仰って頂ければと。今は皮算用ですが一応父には殿下を戦場に出さぬ策ならある程度は受け入れられるだろうと言われておりますので、可能性はあると思っています」
そう。今の段階で騒ぎ立てても意図が丸見えなのだ。サンダーツ伯も警戒するだろう。
殿下が問題を起こして仕方なく陛下が動いたという形じゃないと乗ってこない可能性がある。
「なるほど。うちも全力を出さねば論功行賞でライラ嬢に皇太子妃の座を奪われ傷を負う形となる、という訳ですね……」
と、スンと冷めた瞳を向けるミリアリア嬢だが、それは少し違うと言葉を返す。
「現状からでも殿下の心を射止められると思っているならそうなりますが、諦めているのであれば子に甘い陛下の事。
恐らく殿下が本気で願えば婚約をひっくり返しますよ。どこでかはわかりませんが……」
歯に衣着せぬ言葉で伝えれば苦い顔を見せたが「そう、ですわね」と呟く彼女。
そのまま悲しそうに俯かれてしまい、悲しませる意図はなかったのだと言葉を紡いだ。
「お気になされている様ですが、もう殿下の想いなど要らないと思って行動してませんよね。
貴方がとても魅力的なのはもう学院中が証明していますし、引く手あまたでしょう。
落ち込まれる必要はないのでは?」
「えっ……」と頬を染めるミリアリア嬢を見たリーエルが「リヒト様ぁ?」と責める様な視線を向ける。
「いや、一般論ね」と一応弁解をしつつも話を進めた。
「もし、国の為に一芝居打っても構わないと思われるのであれば、サイレス侯爵閣下にもご相談させて頂きたい。そこでも話が纏まる様なら再度私の父上とも情報を共有し、策が成りそうな段階へきたら陛下へと話を通せればと思っております」
「陛下にお伝えするのが最後だとよろしくない段階で破綻した時、サイレス家から皇太子妃を出す事を断念することになりますね……」
その時何かに気付いた様で「あっ、そうでした……」とミリアリア嬢が呟く。
「それはどちらにしても、でしたね……これは想いは要らないと思っていた私の責でしたか」
「まあふらふらする皇太子相手に皇太子妃の座を得る為の戦いと見るならそうとも言えますね。
ですが人としては当たり前の感性かと。どちらにしても貴方が間違っているとは思いません」
「ありがとうございます」と返した後、彼女は佇まいを直した。
「帰って父に相談させて頂きます。返事はそれから、という事で宜しいですか?」
「ええ、勿論です。もし話の場に必要でしたらお呼びください」
スッと立ち上がったミリアリア嬢にリーエルが心配そうに声を掛けるが微笑みを返して彼女はカフェテリアを出て行った。
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