第2話 取り沙汰

『続いてのニュースです。日本国内において新たなダンジョンの発生が確認されました。国内1178例目となる新ダンジョンは、神奈川県小田原市の――』


 1人暮らし中のアパートで、僕は寝ぼけまなこをこすりながら朝のニュースを眺めている。新たなダンジョンがまたにょっきり生えてきたらしいけど、文字通りスキルなしの無能として生まれた僕には関係なさ過ぎる。無能は冒険者になれないんだ。危ないからって。


 ともあれ――大体50年くらい前から、この世界にはダンジョンが出現するようになったらしい。

 理由は不明。


 でもダンジョンには未知の資源があったりして、それが採取・活用された結果として新エネルギーの開発に着手出来たり、未知の薬草で不治の病の特効薬が出来たり、未知の魔物の肉で美味しい料理が出来たり、結構良いことずくめ。


 だから人類はダンジョンの出現を嫌がることはない。

 特に冒険者として生きてる人たちにしてみれば、新たな働き場所が出来るようなもんだし嬉しいだろうね。


「――おはよー田沼。ちょっと今日の運勢軽く占ってよ」


 やがて学校に登校すると、先日のケルベロス帰還を的中させて以来仲良くなった早坂さんが話しかけてきた。今日も今日とて金髪ギャル。いいね。


「僕の占いそんなに当たらないのに、よくもまあ毎朝尋ねに来るもんだ」

「でも的中率10パーはあるっしょ? 他の人への占い結果も照らし合わせたらさ」


 早坂さんが僕の占いを取り沙汰して以降、僕はクラスメイトからよく占いを頼まれるようになった。テキトーに思ったことを言うだけだから、早坂さんへの大予言が当たったあとはそんなに当たってない。

 でも早坂さんの言う通り、なぜか10パー近い的中率はあるから(しかもその10回に1回の的中が割とホームラン級なので)、評判は特に下落していない感じだった。


 なんでテキトーな占いが10パーも当たるんだろう?

 自分でも怖いくらいだ。

 

「ってことで、とにかく占ってよ」

「あ、うん……じゃあ何かお題を。今日の運勢だけじゃ曖昧だし」

「じゃあさ、あたし今日からケルちゃんと一緒にダンジョン配信やろうかなって思ってるんだけど、その初回配信が上手く行くかどうか占ってくんない?」

「ダンジョン配信? ケルちゃんっていうのは……あのケルベロス?」

「そ。あたしスキルあるから冒険者登録しててさ。あたし個人はD級なんだけど、ケルちゃんがS級のレアモンスターなんだって。だからケルちゃんとのコンビ登録したらA級までのダンジョンは潜れるっぽいから、昨日発生した小田原ダンジョン行ってみようかなって思ってて。あそこA級なんでしょ? 最初に攻略したら有名になれそうじゃない?」


 なるほど……そういう目論見なのか。


「でも攻略組は他にもいっぱい来るんじゃないか?」

「だから占って欲しいんだよね。あたしが成功するか否かを」


 僕のバーナム効果狙いの占いでそんなのが占えるわけないけど、まぁ一応言うだけ言っておこうか。


「大丈夫。今見えたよ。その初配信は成功する」

「――ほんとに?」

「もちろん」

「へえ――じゃあどう成功するのか具体的に言ってみろよ占い野郎」


 そのとき、僕と早坂さんの会話に割って入ってきたのは――


「本当に見えてるなら、具体的に言えるよなぁ?」


 僕を何かといじめてくる飯島くんだった。


「ほら、言ってみろよ田沼。早坂の初配信はどう盛り上がってどう成功すんだよ?」

「そ、それは……」


 僕は所詮ただのテキトー占い師だ。

 具体性の欠けらもない。

 しかし、バーナム効果狙いで乗り切る。


「い、良いモノを見つけて盛り上がるよ……さすがに今日で小田原ダンジョンをクリアするまでは行かないんじゃないかな」

「良いモノってなんだよ」

「ね、ネタバレになるから言えない」


 何も占えてないんだからネタバレもクソもないものの、そう言えば誤魔化すことが出来る史上最強の呪文だ。


「は、早坂さんだってネタバレは望んでないはずだよ……そうだよね?」


 言いながら早坂さんに目を向けてみると、「もち」と頷いていた。


「さすがにネタバレはNG。飯島、あんたお節介すぎ」

「ちっ……」

「それより占ってくれてありがとっ。じゃあ今日の配信観といてよ!」


 そう言って早坂さんが離れていった。


「けっ……お前の占いなんざ何度も当たるわけねーだろ」


 飯島くんはそう吐き捨てて立ち去っていく。


 ……はてさて、どうなることやら。


   ◇


 放課後。

 僕は自宅アパートに帰ってから、PCで動画サイト「お前のテレビ」を開いて、早坂さんのチャンネルを探してみた。


「あった……これか」


 いのりんとケルちゃんの冒険ちゃんねる、というチャンネルを発見。

 まだ初回配信すらしてないから、登録者数は100も居ない。

 むしろ100近く居るのはなんなんだ。

 SNSの繋がりとかリアルの友達だろうか。


「あ、もうやってる」


 すでに始まっていた配信ページに飛んでみると、石畳の通路を歩く早坂さんとケルベロスの映像が流れていた。これは多分、自立型ドローンの映像かな。


 場所はもちろん、小田原ダンジョンの内部だろうな。

 僕らの街から小田原は結構遠いけど、ダンジョン資源のワープ技術が公共交通機関として確立してるから移動は楽だ。


 この配信、結構観られてるな。

 現状の視聴者数は300。

 S級のケルベロスって結構珍しいから、それがウリになってるのかもしれない。

 早坂さんも可愛いし。

 あとはゲーム配信なんかと一緒で最新ダンジョンの攻略ライブは気になって観に来る人が割と居るから、視聴者数を稼ぐチャンスなんだよな。


『わ、300人も観てんじゃん。みんなありがとうございます! チャンネル登録といいねもお願いしま~す!』


 そう言って自立型ドローンに早坂さんが手を振ると、チャット欄が『かわいい』『JKなの?』『オタクにやさしそう』といった具合に賑わい始めていた。


『せっかくこんだけ観に来てるんだから撮れ高欲しいなぁ。そういえばウチのクラスに占いが出来る男子が居てさ、結構当たるのね? で、その男子が今日の配信は成功する、良いアイテムが見つかって盛り上がるよ、って言ってくれたんよね』


 あ、僕の話題だ。


『実際、新ダンジョンって漁られてないから良いアイテムが見つかったりするし、なんかないかなぁ――あ、どうしたのケルちゃん?』


 お、ケルベロスが勝手に先行してどっかに行き始めてる。


 その末に早坂さんは脇道の隠し部屋みたいなところにたどり着いていた。


『ぐるる』


 その部屋の奥には宝箱。

 ケルベロスがそれを示すかのように小さく鳴いた。


『わ、宝箱に案内してくれたんだ。ありがとケルちゃん』


 早坂さんが宝箱に近付いて、開ける。

 すると中身は――


『えっ、これって刻暁石こくぎょうせきじゃない!?』


 こ、刻暁石!?

 ……日本の新エネルギー開発において、刻暁石の化学反応が取り沙汰されていることから、政府が躍起になって採掘・回収している超絶レア鉱石がそれだ。

 採取率や宝箱の中身として入っている確率が極めて低いことから、政府は刻暁石を発見した一般冒険者に対して刻暁石の買い取りを行っている。


 1㎏あたり……時価にして1億と言われている。

 宝箱の中身は、パッと見でも10㎏はありそう……。

 うわ……すげ……。


 ――刻暁石のゲット配信初めて観た!

 ――実際今までないんじゃなかったっけ?

 ――一応編集された動画としては上がってるのあるけど、ライブは初だと思う

 ――いのりんちゃんやべーじゃん

 ――何億ゲットしたのこれ!?

 ――そういえば例の占い男子くん当たったじゃん


『あっ、そうだよ観てるかなたぬ――じゃなくてTくん!! ヤバいよ君!! また当たったじゃん!!』


 こうしてこの日のSNSトレンドは、刻暁石ゲット配信をした早坂さんの話題と、謎の占い男子Tくんの話題で席巻されることになったとかならなかったとか……。


   ◇


隠しスキル:【予言】……現実的な範囲内において、言ったことが現実になる。

現状レベル:2

言霊実現度:低+1

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