シンデレラの継母

堀江ヒロ

灰かぶりの少女

〈※次話との対としてアップしているので、本話は流し読みで次話へ進んで下さい〉



 むかしむかし ある王国の立派なお屋敷に金髪のとても美しい少女がいました。


 彼女は幼いころ母を亡くしていたので、家族は長いあいだ父親とのふたりきりでした。


 それを不憫に思った父親は再婚して新しい家族をつくるとにしました。


 新しく継母となった女性にはふたりの連れ子がおり、家族は父、継母、姉ふたりの五人となりました。


 しかし、しばらくすると父親が亡くなってしまいました。




 すると、継母たちは少女にイジワルするようになりました。


 彼女が美しかったので、嫉妬したに違いありません。




「ほら、起きたなら竈に火を入れて朝食を作るのよ」


「それが終わったら洗濯よ」




 継母と義姉たちは朝から晩まで少女につらく当たって下働きをさせるようになりました。




 家にお客さまが来た時も、娘あつかいはせず、まるで下女のようにあつかいます。


 さらに下姉は彼女めがけて灰塊を投げつける嫌がらせまでしてきます。


 美しい金髪が灰まみれになってしまい、まるでネズミです。




「ここにいるのは灰かぶりの小汚い娘です」




 灰まみれになった少女を見て、継母も周りに「灰かぶり」蔑んで呼ぶようになりました。


 近所の人が見かねて注意しても、


「この娘は修道院へ入ることが決まっているんです。これは家事をおぼえるためにやっているんだから構わないで」


 周囲の人たちには彼女自ら下女のまねごとをしているように広め、改めようとはしません。




 しかし、彼女はそれでも明るく仕事をこなして日々を過ごしました。


 仕事の合間にはネズミや小鳥たちといった動物たちと仲良くなり、屋敷の外のことも教わりました。


 


 義姉たちはきれいなドレスを着て連日パーティーへ参加しているそうです。


 継母や義姉たちが浪費するので家はだんだん貧乏になっていきました。




 義姉たちはおいしいものを食べ、素敵な男性たちとダンスを踊っているというのに、彼女の日々の食事は不味い安い豆スープが続きます。


 心優しい彼女でも、さすがにネズミに愚痴をこぼしてしまいました。


 すると、それを偶然聞いて怒った継母は彼女を狭い部屋に閉じ込めて庭に出ることもできなくなってしまいました。


 出られるのは仕事を言い渡された時だけです。




 涙に暮れても時は過ぎます。


 いつものように下働きをしていると、継母たちが忙しなく、いつもより念入りにお化粧をしていました。


 小鳥が国中の娘たちを招く舞踏会がお城で開かれることを教えてくれます。


 食事を運んできた継母にお城に連れて行ってくれるようお願いしますが、すげなく断られます。


 継母たちは彼女を置いてお城へ行ってしまいました。




 ―――しくしくしく




 ひとりぼっちになってしまった少女は悲しくなって泣き出してしまいました。




 そうしていると、どこからともなくローブをまとったお婆さんが現れました。


 ビックリして涙が引っ込んだ少女へ、そのお婆さんは望みを聞いてきました。


「お城の舞踏会へ行きたいのかい」


 返答に頷くと、お婆さんは不思議な術を使います。


 すると、豆ばかりでしばらく遠ざかっていた甘い匂いがしてきました。




 ―――きれいなドレスに装飾品。ガラスの靴。




 義姉たちも持っていないような素晴らしい装いに着替えた少女は楽しい気分になってきました。


「この魔法は十二時を過ぎると解けてしまうしまうから、それまでに帰ってくるんだよ」


 お婆さんの言葉にうなずき、カボチャのような馬車に乗ってお城へ向かいました。




 お城へ到着するとダンスが始まっていました。着飾った女性たちが思い思いに踊り、舞踏会を楽しんでいました。




 少女の美しさにみんながくぎづけになります。王子さまも例外ではありません。


 たちまち一目ぼれしてしまった王子さまは彼女に近づき、ダンスを申し込みました。




 周りの空気にあてられて、日ごろのうっ憤を晴らすように少女も羽目を外します。


 素敵な王子さまとダンスを踊り、舞踏会を心ゆくまで堪能しました。




 しかし、楽しい時間はあっという間に過ぎてしまい、鐘の音でハッと気づきました。




 お婆さんと約束した十二時を知らせる音です。


 慌てて少女は、いとまを告げました。


 あまりにも慌てていたため、ガラスの靴を片方落としていってしましましたが、戻ることもできずにお屋敷へ帰りました。


 部屋へ戻ると、お婆さんはおらず、継母たちも戻っていませんでした。


 少女は家族に見つからないよう寝床へ潜り込みました。




 一夜の夢が終わると、再び下女のような日々が再開したかに思われました。


 しかし、ネズミが教えてくれました。


 お城の家来たちがガラスの靴の持ち主を探し回っているというのです。


 なんと、王子さまは昨日少女が忘れていったガラスの靴にぴったりあった女性と結婚するという、事の次第を聞いた少女は頭の中が真っ白になりました。




「このガラスの靴にぴったりと足の形が合う娘を探している」




 家来たちは彼女の屋敷にもやってきました。


 義姉たちが履いてみますが、ガラスの靴に足の大きさが合いません。


 無理に履こうとして血が出てしまいまうありさまです。




 昨日王子さまと踊っていた女性がこの少女かもしれないと気づいた継母は、試すことができないよう、いつもの部屋に閉じ込めて出てこられないようにします。


 なんて嫉妬深い継母でしょう。部屋でめそめそネズミへ訴えます。




 家来たちは誰もガラスに靴にぴったり合う女性が現れないので途方に暮れてしまいます。




 そこへ、ネズミにカギをかじってもらって外にでることに成功した少女が名乗り出ます。


 抜け出した少女に気づいた継母は偶然を装って家来を転ばせてガラスの靴を粉々にしてしまいました。




 これでは昨日の女性を探し出すことができないと真っ青になる家来へ少女は言いました。




「そんなにがっかりしないで。だってもう片方のガラスの靴をわたしが持っています」




 少女は残っていたもう片方のガラスの靴を取り出すと、履いて見せました。


 当然ながら、あつらえたように彼女の足にぴったりです。




 こうして彼女に再会したお城に迎えられ、王子さまにプロポーズされました。


 少女は喜んでうなずきました。




 心優しい少女は意地悪をしていた継母たちを許し、お城に呼び寄せました。




 そして、美しい少女は王子さまと結婚して幸せに暮らしました。

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