流星群の彼女と心のクレーター

六月之羊

流星群の彼女と心のクレーター

僕が恋する彼女は、文武両道才色兼備の学校一(僕の中では、宇宙一)の美少女であり、僕の幼馴染。


小さい頃は、いつも一緒にいた。

だけど、中学生になってからは、僕と彼女との交流が減っていった。


理由は、僕にとって彼女は眩しすぎた。僕は、暗くて何の取り柄もない平凡。そんな僕と、一緒にいたら、彼女の評判が下がってしまう。

だから、彼女との距離を少しずつあけていった。


そんな、軟弱で自分勝手な僕に対して、同じ高校に通うようになっても、彼女は顔を合わせれば、いつも夜空に輝く星のような笑顔で話しかけてくれる。


それが僕の学校生活での、一番の楽しい時間であるけど、僕は、周りの目が気になり、すぐ会話を終わらせてしまう。

それでも、その流れ星のような一瞬の出来事に僕は、ずっと支えられている。


だけど、僕の心と彼女の心は、惑星同士のような、縮まらない距離を保ち、人生の軌跡を描いていくだろうと思う。


そんなことを思う日々は、唐突に終わりを迎える。


その日は、放課後、担任の先生から資料を運ぶお手伝いを頼まれ、いつもより遅い下校になった。


校舎内に生徒はほとんど見当たらない、静かな放課後。


僕が下駄箱で靴に履いていると、


「あ、今から帰るの?久しぶりに一緒に帰ろうよ。」


彼女が僕に話しかけてきた。僕は、周りを一通り見渡し、彼女の吸い込まれる瞳を見る。


「君に、話しかけてるんだけど…。」


彼女は、僕のキョロキョロする姿が可笑しかったのか、クスクス笑いながら言った。


「ご、ごめん。いいよ。一緒に帰ろうか…。」


「うん!帰ろう。小さい頃、いつも一緒に遊んでた公園、寄ってもいい?」


「え、別にいいけど?なにか用事でもあるの?」


「用事は、ないけど…なんとなく、寄りたいだけ…。」


「わ、わかった。」


彼女にできる限り迷惑をかけないように、僕は、適度な距離を保ち、彼女の横を歩き、帰宅への軌跡を描いていく。そう、惑星同士のように。


寄る予定の公園が見える辺りにくると彼女が僕に、


「なんで、そんなに離れてるの?」


と、話しかける。僕は、あわてて、


「えっと、僕なんかと一緒に帰ってるって、周りに知られたら、君に迷惑かけるし、君の評判が下がるからさ。」


そう答えた僕に対して、彼女は、距離を一気に詰め、僕の腕を掴み、


「そんなこと、言わないで!」


彼女は、憤る顔で強く言った。僕は、そんな彼女に気圧され、


「だって、僕と君じゃ住む世界が違うんだよ。君は、とても素敵で、学校でもいつも、輝いてる。

だけど、僕は、暗くて何の取り柄もない。惑星同士が縮まらない距離を保っているように、僕と君は、交わることない軌跡を描いているんだよ。」


と、彼女に僕の本心をさらけ出した。


すると、彼女は、瞳から涙を流しながら、拳を握り、僕の胸をドン!と力強く叩き、


「惑星同士の距離、交わらない軌跡がなに?なら、私は、隕石になって、君のその凝り固まった心に、思いっきり、ぶつかってやるよ!

小さい頃、人見知りで、引っ込み思案な私を周りと繋げてくれた君が、

困っている人を放っておけない君が、誰にもでも、平等に優しく接している君が、

私は、ずーっと大好きなんだよ!

そんな、優しくて頼りになる君の横に立てるように自分を磨いてきた!同じ高校も選んだ!なんか文句ある!?」


そして、彼女は、僕が尻餅をつく程に、隕石のように思いきり抱きついてきた。


僕の凝り固まった心に、彼女の気持ちの隕石がぶつかる。

僕の凝り固まった心は、呆気なく、砕け、射ぬかれ、心にクレーターができる。

そのクレーターは、どんどん拡がる。彼女への気持ちが、愛しさが、拡がる。


僕は、僕の胸に抱きつき顔を押しつけて、泣き続ける彼女を抱きしめ返し、伝える。


「ありがと…。僕も、君のことが昔も今もずっと大好きです。何億光年たっても大好き…。」


彼女は、僕の胸から顔を上げ、吸い込まれる瞳で、僕を見つめて、


「あはは、何億光年ってなに?それに、君のことだから、明日には、また凝り固まるでしょ?だから、私は、流星群になって、いつも君の心に降りそそぐよ!」


と、語る彼女の夜空に輝く星のような笑顔に、本日2つ目の隕石が、僕の心に墜ち、新たなクレーターができる。



僕は、流星群の彼女に何回、恋に墜ちるのだろうか…。














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