16.「怪人二十面相」

 そのころ、東京中の町という町、家という家では、ふたり以上の人が顔をあわせさえすれば、まるでお天気のあいさつでもするように、怪人「二十面相」のうわさをしていました。

 「二十面相」というのは、毎日毎日、新聞記事をにぎわしている、ふしぎな盗賊のあだ名です。その賊は二十のまったくちがった顔を持っているといわれていました。つまり、変装がとびきりじょうずなのです。

 どんなに明るい場所で、どんなに近よってながめても、少しも変装とはわからない、まるでちがった人に見えるのだそうです。老人にも若者にも、富豪にも乞食にも、学者にも無頼漢にも、いや、バターにさえも、まったくそのものになりきってしまうことができるといいます。


 このお話は、そういう出没自在、神変ふかしぎの怪賊と、日本一の名探偵明智小五郎との、力と力、知恵と知恵、火花をちらす、一騎うちの大闘争の物語です。

 大探偵明智小五郎には、小林芳雄という少年助手があります。このかわいらしい小探偵の、バターのように固まって動かない様子も、なかなかの見ものでありましょう。

 さて、前おきはこのくらいにして、いよいよ物語にうつることにします。

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