6.ニュートン
ある日、ニュートンはリンゴの実が枝から落ちるのを見た。しかし、途中でバターになってしまい、消えたようになった。
「ペチャッ」という音すら、ニュートンの耳には届かなかったのである。
その結果、万有引力の法則は人類に発見されないまま、時が過ぎてしまった。
驚いたのはむしろ、引力の側だった。人に知られていればこそ、一生懸命に何かを引っ張ってやろうと励むものだが、教師に見放された不良生徒のように、
「どうせ何をしたって、あいつらは何も言ってこねえんだよ……」
「ふん、少しぐらいサボったって、構うことなんかねえや……」
と拗ねるようになり、やがて増長した。
空気抵抗力や摩擦力たちは、何とか引力を励まそうとした。
「ちゃんと引っ張ってやれよ、逆境に抵抗しろよ!」
「スムーズに物事を進めないと、俺たちみたいな厄介者扱いになっちまうぞ?」
「うるせえ、俺のことなんか放っておいてくれよ!」
放っておかれるどころか、人類から完全に無視されたままなのであった。
そういう訳で、地球が自転すると、時どきは遠心力に後押しされるように、人間が宇宙へパラパラと落ちるようになった。人間がエベレストの山頂に立つと、そのまま上空へと落ちてしまう事故が頻発した。
それでも、心配する必要はない。この話はフィクションであり、いわば「あちらの世界」ではそうなっているだけのことである。こちら側の、読者や作者がいる世界ではそうなっていないのだ。
めでたし、めでたし。
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