第19話 魔王討伐
力を開放してすぐに見えたのはいつもの肉塊ではなく。傷だらけのイヴと樹だった。
昔、イヴと樹は海を眺めながら話をしていた。
『イヴ。こっちに来て間もないけど。生活は大丈夫』
『うん、樹のおかげで』
『俺は何もしてないよ。イヴが頑張ったから学校のみんなとも仲良くやってけてるんだよ』
『そう、でもクラス替えになっちゃうんだよね』
『そうだけど今のイヴなら大丈夫だと思うよ』
『だけど......』
『大丈夫さ。きっとなんとかなる』
『そうだよね。君に感じたこの心。忘れないよ』
そんな感じで時間がゆっくりと過ぎて行った。傷だらけで二人で何を話しているのかも聞こえた。
「樹。あたしの言うことを聞いて」
「未霊はもう死んだ。もう十分じゃないのか。君を嫌いになりたくない」
「そんなのずるいよ。貴方が私を思ってくれていたことには感謝するけど独り占めしたいのよ」
「もう俺達は一つだろ。ならこれで十分なんだ。葬ることぐらいはさせてくれないか」
「分かったわよ」
幻覚のようでないはっきりとしたその映像は自分の中で作り出されたものだった。なんせ俺はこの二人自身なのだから。
「魔王。お前は殺す」
そう言って間合いを詰めて剣を振りかざす俺。過去の二人の間の傷が塞がるように俺の力の結束も強くなっていた。
「そんな力ごときで私を倒そうとはいい度胸だな」
近くで衝撃波が繰り出されるがその攻撃が俺には見えて躱した。
「魔王様。私の体、お使いください」
カインが自分の体を真っ二つに割って言う。何か儀式でもしようとしているのだろうか。
「カイン。そなたの忠義受け取ろう」
「魔王様のお役に立てて光栄です」
カインの肉が魔王に食い尽くされる。魔王は食べ終えた後黒い光を放った。
「さて、第2ラウンドとしようか」
肉を食べた魔王はさっきよりも魔力が増大している。そんな状態で衝撃波が放たれた。
俺は無事だったが、他の面子が危ないと思った時だった。
「ああ、第2ラウンドだな」
「アルマ‼」
「気合入れていくぜ‼」
「ボッツ‼」
「魔王の魔力は見切りました。行きましょう」
「ネル‼」
全員が起き上がって戦おうとしていた。
「小癪な。カインを食った割れの前では無意味」
衝撃波が放たれるが。それをかき消す衝撃波がネルの前で放たれる」
「すいません。もう魔力の限界です。次は放てそうにありません」
「十分だ。肩を付けるぞクリフ」
「ああ」
アルマの斧が魔王の左目を潰す。そして俺はその死角から剣で魔王を切り裂いた。
「グハッ」
「やはり、聖剣が魔王を倒せる武器でしたか」
「聖剣?これがか」
「勇者に抜かれるものでしたが、貴方が扱えているということは聖剣も貴方を主だと認めているようですね。クリフさん。貴方は勇者を名乗ってもいいのでしょう」
「馬鹿な。勇者はお前が殺したくせに。そんな奴が勇者になどグハッ」
魔王が絶叫している間にさらなる斬撃を振るう。完全にとどめを刺すために聖剣を魔王の心臓に突き刺した。
「グアー。私の力が......」
魔王の体から魔力が抜けていき完全に消えた。俺達は勝利したようだ。
「クリフ。お前が眠っている間。たくさんのことがあったが、勇者は殺してしまった様だな」
「ああ、これは俺のせいだ。俺の中の一人の魂がそうすると決めていたらしい。信頼されてたのに俺のせいで」
「まあ、自分を責めるな。魔王の復活で犠牲になる多くの命は救えたはずだ。クリフ。お前は魔王を討伐したんだ」
「分かってる。でも俺は許されないと思う」
「許す許さないなんて誰が決めるんだよ。少なくとも俺はお前を許すぞ」
アルマからは慰めとボッツから優しい言葉が出た。仲間を信じてここまでこれたのだ。少しは喜んでもいいかもしれないと思った。
「みんな。ここまでありがとうな」
俺はここまでついてきた皆に感謝した。そうして集落に戻っていく。この旅は終わりになった。最後に力を使った時見えた会話は、俺自身の物だったが、互いに傷つきながらも信じあう仲間のようだった。
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