第5話 アルマ・ネフィリム

「うっ。助けてクリフ」

「お前はクリフに頼ってばっかりだな。少しは立ち向かうことは知らないのか」


 翌日クレスがまた、ボッツ達にいじめられていた。ボッツが言うこともそうなのだが、俺は助けに入る。


「クレス。お前も戦うんだぞ」

「ちっ、クリフ。今日こそはお前を屈服させてやる」

「さて、できるかな」


 ボッツが俺を殴る態勢を取った。その殴りをかわし一発殴りを入れる。だが殴られてもあっちは殴り返してきた。


「ぐっ」

「糞が」


 俺達はそうやって殴り合った。虎人族の一撃は重い。まともに食らえばまた気を失うことになるだろう。俺は殴りを致命傷にならないようにかわしながら殴り合いを続けた。クレスも昨日のことを思い出したのかボッツのことを殴りに行っている。


「2対1は卑怯だぞ。ハロルド。こっちに来いクレスの相手をしてやれ」

「ひっ」

「へいへい、ボッツ。クレスの相手なら簡単っすよ」

「勇気を出せクレス。お前なら出来る」


 ハロルドは緑色の肌をした、ゴブリンの亜種ホブゴブリンで、本物のゴブリンとは違い人と同じような理性を持った存在だった。この村に住まわせてもらっているのは外だと迫害されることが多いからだった。そんなハロルドがクレスの相手をするようだ。


「ボッツ。お前のクレスに対して言っていることは正しいこともあるが、それでもその暴力的なやり方にはついていけない」

「そうかよ。ならお前を屈服させるまでだ」

「そう言って屈服させられずに何日戦っているのかな」

「うるせえ」


 ボッツとの殴り合いが激しさを増す。お互い傷だらけになっても引くことはなく長く戦いは続いた。


「面白そうな喧嘩してるじゃんか。私も混ぜてくれよ」

「げっ」

「何だ。驚いてボッツお前の知り合いか」


 後ろから声がして振り返る。そこには綺麗な赤髪に角が生え透き通るような青目をしていて、尻には竜の尻尾を生やした竜人族が立っていた。


「私はアルマ・ネフィリム。赤竜族の生き残りだ」

「糞、何でここに」

「ボッツ。やっぱりお前の知り合いなのか」

「......そうだが、ここは引くぞお前ら」

「そうはさせないぞボッツ。一旦お前をぶちのめしてからだ」

「げっ」


 アルマはボッツを殴った。すると1メートルくらい先にボッツは飛んで行った。大将がやられてハロルドを含む他の面々は散り散りに逃げて行った。


「よろしく。クリフ・サンドワーム」

「ああ、よろしくアルマ。助かったよ」

「お前。人間なのによくボッツと戦ってるな」

「父さんの暗殺術を殺さない程度に使ってるだけだから。戦ってるのはそこのクレスのためだよ」


 アルマは興味深そうに腕を組んでこちらを見ていた。クレスのためと聞いてうなずいていた。


「ボッツの悪事は知っている。あいつから正面から戦いあえるのは凄いことだよ」

「君はそのボッツを殴り飛ばしてたけど」

「ああ、それは私の身体的なスペックが高いからでそんな凄いことではない」


 さっきの殴りを思い出すが、とても威力が高いように見えた。敵に回してはいけないと思いつつもボッツを倒してくれたことに内心とても感謝していた。


「そういえば、ボッツとはどういう関係なの」

「いや、どういう関係と言えるほど付き合いは長くない。昔あいつをこてんぱんにしたことがあっただけだ」

「アルマは凄いな。あいつをこてんぱんにするなんて」

「まあ、そんな感じだが、お前について教えてくれクリフ」

「俺について。そんな話すことはあるかな」

「お前はこの集落で唯一の人間じゃないか。そんなお前がどういう風にこの集落に入って来たのか知りたい」

「俺は今の育ての親に拾われたんだ。記憶があいまいなほど幼いころに」


 そうして、俺はアルマに昔話をたくさんした。興味深そうに聞いていて聞き入っていた。彼女がこの喧嘩に入ってくれたおかげで今日は早く遊んだりできそうだった。その後、アルマとかけっこをしたりして遊んだが、俺が全敗したのだった。クレスの方も無事だった。ハロルドの攻撃を全部躱かわしたようだった。そんな感じでアルマと出会った日は平穏に過ぎて行った。

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