第4話 喧嘩の後
俺クリフ・サンドワームは夢を見ていた。肉塊が交じり合い合わさる夢を。
「#$&*+**」
「*+<#$%&%」
肉塊同士が何かをしゃべっているが何かは分からない。ただそこで俺は傍観者として見ている。そんな夢を何回見たことか。だが、その内容は全く理解できない。肉塊が肉塊を求めあうそんな夢しか俺は見たことがなかった。そしてその内容のほとんどは目が覚めると同時にいつも忘れていた。今回のこの夢もほとんど覚えられないのだろう。覚えていても意味がないかもしれないが。
目が覚めた。俺は虎の亜人のボッツ・ライガというガキ大将と喧嘩していてそれで気を失っていたようだ。夢の内容はほとんど覚えていないが不快な夢だということだけが残っている。
「クリフ。良かった死んでなかった」
「あの程度で死ぬことは無いだろクレス。お前も少しはしっかりしてくれよ」
目を開けると弟のクレスがいた。クレスがボッツからいじめられるのをやめさせるために戦っているのだが、クレスは弱虫だった。その部分を改善できれば優しくてかなりいいやつなのだが、なかなか上手くいかない。
「仕方ないだろ。ボッツ達が僕を集団で殴るんだもん」
「びびって逃げてばかりじゃいけないっていうことだよ。少しは戦ってくれてもいいだろう」
「それはそうだけど」
クレスは猫耳と尻尾を後ろめたそうに揺らしながらこちらを向いていた。黒い艶やかな髪に黒い猫耳と尻尾。目は空のように青くかなりの美少年だった。
「ごめん。僕も次は戦うよ」
「ああ、頼むぜクレス」
決意のこもった眼をしてクレスは言う。
「クリフは何でそんなに勇敢に戦えるの?人間でボッツ達より身体力が弱い筈なのに」
「クレスを守るためだ。俺は人間だが父さんに学んでいる暗殺術もある。もちろん殺さないが立ち回りは上手く使えてね」
「あの鍛錬に耐えられてるのは凄いよ。僕はだめだめだから」
「そうかな。クレスの方が才能自体はあると思うけどな」
クレスは逃げることが上手い。逃げにおいてはこの集落で誰よりも秀でているとも思えるくらいだった。俺はその動きを暗殺術に生かすことができたのならば最強になりうるくらいだと思っている。
「そう言って。いつも鍛錬でしぶとく残ってるの君じゃないかクリフ」
「まあ、あれくらいは根性があればなんとかなる。お前には動きはできるからその根性を付けてほしいんだよ」
「まあ、頑張りはするけど」
「そうだ。それでいい」
俺の黒髪が風で揺れ黒目がクレスを直視する。クレスの肩に手を当てた俺はクレスを励ました。
「あっ、そうだクリフ。竜人族の子が君とボッツの喧嘩を興味深そうに見てたよ」
「竜人族?気づかなかったな。俺も暗殺者としての道は遠いかもな」
「だいぶ遠くの方からだったけど赤い髪に緑の目をした角と竜の尻尾を生やしたかわいい感じの子だったよ。後で聞いたけどクリフのことが気になってたみたいだったから言っておくよ」
「そうなのか。その子とも挨拶しておきたいな」
俺のボッツとの戦いの記憶は完全にボッツしか見えていなかった。ボッツは力が強くまるで獣のような動きをしてくるのでこちらが隠れていない状態だとてこずるのだが、これではいけないと思った。
夕日が俺とクレスを照らす。
「今日は帰ったらごはんは何かな。母さんの料理はいつも美味しいから楽しみなんだよね」
「そうだな。これが大人になった後も続けばいいのにな」
「そんな暗い話じゃなくて今はこの瞬間を楽しんでいこう。ね、クリフ」
「そうだな、今日の夕食はー」
たわいもない話をしながらクレスと家に帰った。夕日は金色に輝き、いい景色の帰り道だった。
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