第15話
掲示板【過疎と言うな】奥多摩迷宮スレ3
・嵐にはティルトウェイトの祝福を
ささやき - いのり - えいしょう - ねんじろ!
そして灰になれぇぇ!
:大ニュース! とうとう日本でも地下5階突破!
:速報が来たから何かと思えば奥多摩迷宮で5階踏破だとぉぉぉおぉぉぉぉぉ!??
:ま?
:ま
:なんでこんな過疎った迷宮で!?
:過疎ってるからじゃねえの? 知らんけど
:迷宮ギルド本部の発表キタコレ
:本日奥多摩迷宮で地下5階のオーガロード撃破が確認されました
:うわ、まじかよ
:ようこそ6階('◇')ゞ
:オーガロードのドロップは悪のサーベル
:おー、いいやつじゃん
:お高そうだな
:トップ探索者で争奪戦の予感
:海外だとなんだったっけ
:悪の鎧だったかと
:悪の盾もあったろ
:悪シリーズなのかもな
:なんにせよめでたい
:6階のフロアボスてなんだっけ
:フラック
:マジか
:唯一倒してるインドはこいつのために500人の探索者を盾にして倒したとか聞いたぞ
:無理ゲー
:死んだのはカースト下位の奴ら
:命が安いな
:トップ探索者が血眼で探してるぞ
:主だったトップパーティーは自分のとこじゃないと否定してる
:ギルド本部にはすごい量の問い合わせが来てそうだな
:俺が倒したとしたら黙ってるな
:フラックには勝てる気がしねえ
:インドの地下7階まであと1階だ
:世界に追いついたか?
:おいおい、嘘だろ?
:いきなりどうした
:奥多摩でイーターを見かけたやつがいるってよ
:は?
:イーターが?
:あいつ、スライムから出られないだろよ
:奥多摩に安口女史もいたらしいぞ
:ミス魔女が?
:それ、本人に言ったらクッコロされっぞ
:なんで魔女様が奥多摩に?
:見間違い乙
:知らないやつのために書くけど、安口女史は迷宮黎明期に最前線で戦い続けた魔法使いな
:偉大なる先駆者やで
:尊敬の念から魔女と呼ばれてるからな
:識者タスカル
:魔女を知らない探索者はもぐりだろ
:すいません、初耳でした
:知れてよかったな
:そうか、魔女も遠くになりにけりか
:おっさん乙
:おいおい、安口女史は迷宮ギルド創設メンバーだぞ
:すぐ迷宮に駆け付けられるようにエリア長以上には興味ないんだったな
:漢前すぎる
:なお男にはモテない
:言ってはならぬことを
:灰になれ
:迷宮でもパンツスーツだったらしい
:うぉぉぉシコシコシコ
:おい、↑はKILLしとけ
:ィエッサ!
:スライム迷宮に魔女がいるってよ
:は?
:それどこ情報よ
:スライムスレ
:見にいってきた、マジだった
:スライム迷宮は大騒ぎだぞ
:俺の憧れだぞ魔女さんはいまからスライム迷宮にいてくるひゃっはー
:落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け
:俺さっきまで奥多摩にいた
:お、現地民発見、どんな感じ?
:ギルド職員メディア対応で大忙しでギルド長の髪が減りそう
:配信者も押しかけてそうだな
:ギルド長の髪よ永遠なれ
:イーターも見かけたぞ
:詳しく
:そこんとこ詳しく
:俺が朝早くに迷宮にいったら迷宮から帰ってくるイーターと剣を抱える魔女とエンカ
:は?
:なに言ってんの?
:パンツスーツだったし間違いない、イーターは見たことあるし
:色は?
:黒
:羨ましいから磔だ
:安口女史って安産型だよな
:いいお尻してるよな
:ギルティ
:確かに立川からだったら行きやすくはあるか
:ギルド本部の広報じゃ誰かまでは言ってねえのな
:しっかしよぉ、だれが6階にチャレンジするんだ?
:しかも過疎の奥多摩で
:もしかして何の影響もなかったり?
:大草原不可避
ネット掲示板が大賑わいなころ、奥多摩迷宮ギルドも大賑わいだった。押しかけるメディアと配信者たち。野次馬の探索者らも合わせれば普段の20倍ほどの人がギルトにあふれていた。
「繰り返しますが、個人情報ですので5階踏破に関しては何も教えられません」
ギルド内では田中ギルド長が声を張り上げている。
「ネットではイーターの姿があったって情報があるんですが」
「関東エリア長の安口女史もおられたとか」
「別にばらしちゃったって問題ないでしょー?」
メディア関係者と配信者はめいめいが勝手なことを言う。無責任の塊だ。だが田中の応対は変わらない。個人情報の一点張りだ。
探索者は実名だが記者や配信者は匿名。そもそもフェアではない。害しかない者たちへは塩対応で十分なのだ。
「6階に行ってもいいのか?」
「皆さんのレベルはいくつですか?」
「ちょっと6階を見たいだけなんだよね」
「申し訳ありませんが許可できません」
「イーターがいけたんなら余裕っしょ?」
「あなたはイーターではないでしょう?」
受付には6階に行きたいという無謀な探索者やメディア関係者が押しかけている。職員も対応に声を荒げる場面が多かった。
「田中ギルド長ー、本部から電話でーす!」
カウンターにいる職員から声がかかり、田中はこれ幸いと事務所奥に入ってしまった。もちろん電話などは嘘である。ある程度対応したら放置で良いと、ギルド本部から通達が出ていたのだ。
「いやいやまったく。こんなことになるとは思わなかったなぁ。ボーナスの査定だけじゃ安すぎる」
田中は寂しくなっている頭に手を当てた。ギルド職員も振り回されて疲労が見える。頑張って耐えているが、支えるものがなければ続かないだろう。
田中は職員が嫌がる夜の当番を自ら買って出るくらいは部下想いだ。それ故に奥多摩迷宮のギルド職員は田中を信頼している。彼らの査定と特別手当くらいはもぎ取らないと、と決意した。
一方、柊と安口が帰ってきたスライム迷宮も大騒ぎだった。
安口が職員としていること自体が話題だったが奥多摩迷宮で姿を見られたことも、そしてその奥多摩で5階突破の報があったことが重なっていた。
「師匠、なにしてきたんだよ」
「ちょっと柊君の実力を見たくてね」
「だからっつって5階ボスモンスターに当てることはねえだろ」
「瞬殺だったのには驚いたよ」
安口と茜はカウンター内で迷宮に押しかけてきた探索者の対応をしながら小声で言い合っていた。大半は安口を見に来た野次馬だが一部メディアと配信者は柊を探しに来ているようだった。
奥多摩でイーターを見たという報告が掲示板で流れたせいである。
「しっかし、柊のステータスが他迷宮でも反映されるってのが世界に知れたらやべえんじゃねえか?」
茜はじろりと安口を睨んだ。柊との安寧をぶち壊しやがってと恨みが相当込められている。
「世界中でスライムイーターの価値が爆上がりだな。もっとも
だが安口はサムズアップして応じた。茜のこめかみに血管が浮き上がる。
「インドのスライムイーターが一階を探し回ってもスライムキングの部屋に辿り着けないとの情報もある」
その差が分かればなと安口が零す。
「…………それ、たぶんだけどな、ある程度強くならないとダメなんだと思うぞ。柊みたいに地道に努力してないとここみたいな現象は起きないっぽいけどな。それにスライムキングもかなり強かったわけだし、弱い挑戦者だとすぐに死ぬだろ」
茜はしばしの沈黙の後、自身の考えを述べた。スライムキングのステータスこそわからないが、その後のコボルトキングのステータスを勘案すれば相当な強さだろう。
だが、それは
スライムイーターとは何なのか。迷宮は何故急に出現したのか。考えても答えが出てこないのだ。
「なるほど、その情報はぜひ秘匿したいな」
「公開したってかまわないと思うぞ。柊は2年耐えたんだ。スライムの核を毎日食べ続けた。1日かかって上がったステータスが0だった日もあった。イーターは無能だ
頑張ったヤツにしかその
「そうか、権利か……柊君は頑張ったんだな」
「頑張った結果が毎回ボロボロになって帰ってくるんじゃ割にあわねえけどな」
「その頑張りは自分のためだけなのか?」
安口がにやりと茜を見た。暗に、他にもあるんじゃないか、と。
茜はスッと視線を逃がした。
「それは、柊にしかわからねえよ」
安口にも聞こえないほどの小さなつぶやきは、ギルドの騒音に紛れて消えた。
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