平和

鈴乱

第1話


 別に大した話じゃないけど、さ。


 僕の世界は数年前から変わってしまって。


 人間が化け物に見えるようになって、僕は僕の形を見失って。


 そうじゃなかった頃のことなんて、もう、見えなくて。



 ここに、放り込まれて、もう何か月も経っているのに、ちっとも前なんて向けないや。


 ……っていうか。前ってどっちだっけ?



 あーぁ。頑張ってやってきたのになぁ。ひとりで。


 ひとりで何とかしようと思って頑張って頑張って頑張ってやってきたのに。


 結果なんて、皆バラバラになって、繋げたかったものがばらけて散って。


 それは、全部、僕のせいでさ。


 

 逆戻りだ。


 人生が逆再生されてるみたい。


 ここには戻ってきたくなかった。


 ここにいると、ここにいた過去の僕を思い出すから。


 怯えて、泣いて、布団を被って、ただ時が過ぎるのを待った。


 無力で、弱くて、情けない、自分。


 誰のことも助けられない、ヒーローになれない、僕。


 それを思い出すから、ここには帰りたくなかったよ。


 ……ただ、僕が僕として在ることを、許されない場所だったんだ。昔から。


 僕はずっと、『平和』を願ってきたんだ。


 『平和』に笑って、『平和』に活かし合って、『平和』に誰も泣かない世界。


 『平和』に在れるなら、僕の思いなんて要らないって。そうやって、思ってきた。


 誰かが喜ぶんなら、僕の喜びなんて、二の次・三の次。誰かの笑顔や喜びになれるんなら、僕が消えたって構わない。


 本気でそう思って生きてきたよ。



 でもね。外を知った僕は、あの頃より随分我がままになって、随分変わってしまったんだ。


 知ってしまったから。『平和』を外に求めれば求めるほど、僕の中が『戦争』になるんだ。


 誰かの『平和』のために、僕の中身は『戦争』になる。


 だからかな。僕は僕に対してよく嘘をついて、それが癖になった。


 『平和のため』を大義名分にして、僕の中の戦争は決して終わらない。終戦の日は永遠に来ない。


 『平和のため』なら、僕は自分にも他人にも平気で嘘をつく。


 それが、僕にとっての”誠実”ってやつ。


 目的の前に、言葉の定義なんて、いともたやすく変わってしまう。

 そんなもんなんだよ。



 まぁ、でも。


 それでも、やっぱり僕は『平和』を求めるよ。

 『世界平和』を。


 今度は僕も含めた『平和』をね。


 理由はどうあれ、原点に帰ったんだ。

 たくさんの宝物だか、ガラクタだか、分からないものをたっくさん、この頭と体に抱えて。


 宝物もガラクタも、使いようってヤツでしょ。


 だから、今度は、それらをいい感じに使って、

 僕の幸せっていう『平和』を求めさせてもらうから。


 ねぇ、いいよね?


 ずっと……、我慢してきたんだからさ。

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平和 鈴乱 @sorazome

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