春の息吹は
富山屋
第1話 いまわしき我が運命と嘆く中年男・白田
北陸に居を構える中年男・白田の毛髪は、いまや両耳の上に綿毛じみた弱々しいのがわずかに残っているだけ。
アラフォーの若さでこれっぽちとは全く情けない。それよりもっと情けないのは、令和のこのご時世になってなお、未だにこの外見を揶揄する連中どもだ。たとえばKとか……。
ある日、白田は学生時代の友人、Kと連れ立ってサウナに入った。当然のように無言のうちに我慢くらべが始まる。先に出た方は相手より根性なしと認めねばならぬ。
並んで腰掛け、ぐっと耐える。
時間がたち、先にへたばりそうになったのはKの方だった。白目をむいて涎を垂らす白田を見てKは驚愕した。「おれは額から汗が一滴、垂れ落ちるだけで体から水分の漏れ出たことを惜しむありさまなんだぜ……だのにこいつ、涎なぞ垂らして水分をこれっぽっちも出し惜しみしちゃいねえ」
Kの動揺を察した白田が黒目を正常な位置に戻して微笑んだ。
「なんだおめえ、ずいぶん無理してんじゃねえか……この糞虫が……救急車騒ぎを起こす前にとっとと出ちめえよ……なあに、おめえが根性なしだってことは、ずっと前から周知の事実。いまさら見栄はったって、そのヘタレぶりは覆えやしねえよ……」
Kは激怒し、サウナの熱気も災いして正気が失せた。奇声をあげるや、白田のわずかに残された鬢をわしづかみにして、力の限り引き抜いたのだ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます