イギリス海岸へ

安保 拓

共に歩んだ川の流れ


その昔、今も付き合っている彼女と岩手県にあるイギリス海岸へ、当時乗っていたスズキのカルタスと三人で訪れた。イギリス海岸と聴いてピンときた方は、今は答えを内緒にしてくださいね!?


 何時頃、イギリス海岸へ自動車で着いたか忘れたが、なかなかすんなりと旅行雑誌の地図通り到着した。まだグーグルマップがない時代に、彼女と喧嘩もせず川へ着くと、お互い思い切り背筋を伸ばして川を眺めた。俺は一瞬、何処がイギリスと思ったが彼女は何故か満足そうだった。川らしいゆったりとした流れは、最高だとは思った。


「何処が、イギリスなんだろうね。」


「え、ここはイギリスの運河だよ。」


そう言われると運河の方へ、彼女は降りていった。俺も続けてカルタスを置いて彼女の跡を追った。その場所には、石畳がありまたイギリス海岸を近くに見つめた。すると彼女は気持ち良さそうに、こっちを向いて一言、二言話し始めた。


「ここって良いところだね、東京には無い。」


彼女の顔を見ながら東京で出会った景色を思い出した。


「多摩川みたいに普通の川だねー。普通に。」


すると彼女は、少しすねたようにこう言った。


「私、夢がない人は嫌い。イギリス海岸だよ。」


イギリス海岸は、そこそこ大きいな川で、だんだん俺もイギリスへ渡航したように見えてきた。その海岸には、その時、二人しか訪れたていなかった。そっと彼女の手に、手をやるとギュッと掴んできた。その瞬間、一切の音は消えた。気持ちが廻る。気持ちが躍動する。時間が速く流れる。


「いや、ここはイギリスだね。ビートルズ。」


「いや、そのころビートルズは、まだ居ない。」


時間の流れが元に戻ると、彼女は満足したようにイギリス海岸を見渡した。そして繋いでいた手も離れて言葉を失った僕は、急いで彼女の跡を追った。


「いつか、結婚しよう。東京に迎えに行く。」


彼女は、何も言わず相棒のカルタスに乗り込むと、次の目的地を旅行雑誌で探し始めた。もう岩手県の運河は、夕方の陽射しに照らされていた。


「ねえねえ、さっきの言葉は本当に?ねえ。」


僕は、彼女の言う次の目的地へ向かった。人生の最後に居て欲しい人が、側に、何時までも居て欲しいと願った。時間は、丁度、銀河鉄道の出発時刻だった。


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イギリス海岸へ 安保 拓 @taku1998

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