58話 立ちはだかる暴君竜
「こ、ここがジン君の部屋なんっすか? なんかいっぱい本があるんっすけど」
「部屋はもっと奥ね。本当に危ない場所だから絶対に私から離れないでね」
【生態系の迷宮】の一番深層にあたる10階層。この階層は、天井まで届くような高い書棚が並ぶ広大な図書館として形成されている。
書棚の書物は、古代においてこの地を支配したという学問と叡智の神が、この世の全ての知識を記したものだと言われている。
「この本は全てジン君のなんっすか?」
「うん、大昔にジン君が書いたものだって言われてるわね」
「へー日記なんだ。チャラい様に見えてマメなとこあるんっすね」
「あー! 触っちゃダメ!」
それらの書物に触れることは許されていない。もし触れてしまったら、記された叡智を守護する任につく神聖なるクリーチャーやゴーレムが瞬く間に召喚され、知を盗み汚そうとするものを排除する仕組みになっている。
「ひいいい! なんかごっつい鎧が出てきたっす!」
「今、聖女の結界の張るわ」
「アキさんのバリアやっぱすっげえっす! あッ鎧だったらキモくないからウチでも……」
「ここのは本当に別格よ。絶対に死ぬからやめて」
血気流行るレナを諫めながら、アキナは思った。
(全力で聖女の結界張ると、魔力の消費が激しくて疲れるわ。攻撃の衝撃も強いから腰も痛いし)
相手が強いだけでなく歳のせいもあるのかと考えながら周りを見渡すと、少し先に良いものを見つけた。
結界を展開して攻撃を防ぎながら、ゆっくりとそこに歩いていく。
「ひえええ! 白骨っす!」
レナは叫び声をあげた。普段配信者が良く利用する1~3の初心者向けの階層では、中々人は死なないし、実生活で誰だか分からない人間の白骨死体など見る事はまず無い。この反応は至極妥当だ。
しかし転移していた時に白骨死体など見慣れていたアキナは、なんとも思わなかった。それよりも白骨死体が持っていたであろ物に、強い関心を向けた。
(あの人、魔法使いだったみたいね。折れちゃってるけど、ないよりはマシね)
元は魔法使いであったであろう白骨死体が持っていた折れた杖の一部を拾う。
「うわ!? 鎧の剣がバリアにあたって折れたっす!」
(ふー。思った以上に魔力のコントロールが楽になったわ。最終階層に来るだけあってこの人、良い杖使ってたのね)
魔法の効果が上がり、魔力の負担もかなり楽になったアキナは、鎧の攻撃を適当に聖女の結界でしのぎながら図書館の中心に向かった。
「うわあああ! オニヤバそうな顔した、超でけえドラゴンがいるっす‼」
10階層の中心には、【生態系の迷宮】のすべての生物にとって絶対的な存在である暴君龍、エンドレスワイバーン佇んでいる。
暴君龍は龍種の中でも特に凄まじい戦闘力を持つ。反面、知性は龍種とは思えないほど低く、人間と意思疎通ができない。
しかし、このエンドレスワイバーンは学問と叡智の神が残した書物に触れ、それを学習したために暴君龍とは思えないほど高い知能を誇る。
「ひいいい! こっちに気づいたっす」
咆哮を上げながら、エンドレスワイバーンはブレスを吐いてきた。
先ほどから攻撃をしてきている鎧は、ブレスを浴びて跡形もなく溶けて無くなった。
だが、アキナは難なくそれを聖女の結界で防ぐ。
(折れた杖がなきゃ、疲れて、腰も痛くなって大変だったわ。あ~良かった)
「ひいいいい!」
ブレスを防がれたエンドレスワイバーンは、考え込む様な表情で鼻先を近づけてきた。
「大丈夫よ。臭いで誰だか判別しようとしているみたい。昔、私に会った事あるって気づいたんだと思うわ」
エンドレスワイバーンはしばらくアキナを臭い続けた。しかし、再び何かを考えこみ、変な動きを始めた。
「どうしたのかしら?」
「なにかをジェスチャーで伝えようとしているみたいっすね。えーと。おい、おばはん、お前、は、誰だ……」
しばらく、辺りに静寂が立ち込めた後、レナは顔を青くしながら、アキナを見てきた。
「……やーね。エンドレスワイバーンは日本語なんて分からないでしょ?」
「な、なんかウチ見ながらグッジョブみたいなジェスチャーをしてきてるっす」
「エンドレスワイバーン。私よ。アキナよ」
エンドレスワイバーンは、また変な動きをし始めた。
「レナちゃん。なんて言ってるの?」
「う、嘘つくな。聖女、アキナは……もっと……若くて……可愛い。……でも、お前は……オバハン……絶対、べつ、じん……」
「……」
アキナはグッジョブといった感じのジェスチャーをするエンドレスワイバーンを見ながら、ひきつつった笑みを浮かべ、持てる全ての魔力を解放した。
「ガアアアアアアア!」
「ひいいいいい!」
エンドレスワイバーンが、天高く飛んでいく。
なんとか自分がアキナだと気づいてくれたようだ。
だが、泣いて怯えていた事が気になる。
どうしてなのだろうか?
(レナちゃんもどうして私から逃げちゃったのかしら? もう、ここは危ないから一緒にいてって言ったじゃない)
「あのう、もう大丈夫なんっすか?」
だいぶ離れた場所からレナが声を掛けてきた。
「もう、どうしたの? ほらエンドレス・ワイバーンは、私がアキナだって分かってくれたみたいで階段の前を空けてくれたわ」
「階段っすか?」
「ええ、この階段を降りていくとジン君のいる所につくの。早速行きましょ」
「そうなんっすね。ところでアキさん」
「なに?」
「ジン君のいる所に直接ワープする事はできなかったんっすか?」
「ジン君は男の子なんだから1人で変な事してるかも知れないじゃない。そんな時に突然、女の子2人が現れちゃ気まずいでしょ」
「そ、そうなんっすね……」
アキナの気の使い方は少し変だった。そして“女の子”というフレーズを、不自然に強調しながら喋っていることも気になった。
だが、色々な意味で深掘りして聞くことはできないので、レナは無言のままアキナと共に階段を降りていった。
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ご拝読いただききありがとうございました。
最近は仕事以外寝てばかりです!……やべえな。
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