48話 返り討ちにされた勇者、聖女の力で逆転

「グルルルル」


 ライオン顔のモンスターは、ゴンザレスを見て激しく興奮し始めた。それを肌で感じたのか、こはくの震えは更に激しくなっている。


(昔から感受性が強い子だったけど、これが分かるのね。でも、理性や意識が吹き飛んでるモンスターに、こんなに憎悪を向けられるなんて。ゴンザレスは、いったい何をしたのかしら?)


「ア……なつめさん! 無事だったんっすね! 良かったあ」


 ゴンザレスと距離をあけて、スマホを構えたレナもこちらにやってきた。


「れなちゃんダメ! 危ないわよ!」

『心配ねえ。俺が守るからな』

「すいません、入れて欲しいっす」


 ライオン顔のモンスターの注意がゴンザレスに行っている隙に、レナはアキナに近づいてきた。アキナは一旦聖女の結界の一部分に穴を空けてレナを結界の中に入れる。


「なにをしているでござるか! ギャル! 拙者を信じるでござる!」

「うるせえ! てめえ絶対ウチをこいつの餌にしようってしてるだろ!」

「……あのう、いったい何があったの?」


 訳が分からないので、理由を聞くためにとりあえず間に割って入った。


「こいつが9階層のミニマムドレイクを2階層に放した主犯みたいでござる」

「それはなんとなく分かるけど……」

「こいつのせいで、チケット代は返金しなきゃいけなくなった上に、弁償とか、ややこしい問題が出てきて大赤字でござる。なんでコイツぶっ殺して、死体バラシして、それ冒険者ギルドに売って、損失補填することは確定でござるが、それだけでは穴埋めできないでござる」

「なんで退治する所を、こっちのchでLIVE配信して、スパチャの利益を折半する事になったっす。勝手な事してすいません」

「私は攻撃で相手を倒す力が無いから別に良いけど……」

「商人の奴、倒す気満々っすね。弱く癖に。アイツがボコボコにされると視聴者は皆大喜びするから、これは期待できるっす!」

「あの……れなちゃん」

「大丈夫っす! 商人が死にかけた所でなつめさんが、治癒魔法と補助魔法使って商人を強くすればアイツは倒せるっす! チンコはちゃんと映らない様に撮るからBANの心配もないっす!」


 話しを聞きながら、レナのスマホをチラリと見る。


(嘘!? 60万人も見ているじゃない!)


 こんなに多くの人が見ている中でみっとない姿をさらしてしまうのは可哀想すぎる。そして結果的にではあるが、ゴンザレスは自分たちを守る為に戦おうとしている。

今はライオン顔のモンスターの攻撃が止まっているので、別の魔法を使う余裕がある。

アキナはゴンザレスに身体強化魔法をかけようとした。

 しかし、ゴンザレスはジェスチャーで、それを拒絶した。


『余計な事すんじゃねえ』

『ちょっと余計な事って! いくらアナタでも……』

『おいおい、俺を誰だと思ってんだ? 負けるわけねえだろ』


(いや、誰なのよ。仮面つけてるから分かんないわよ)


 しかしアキナは、この言葉に何故か強い安心感と少しだけ懐かしさを感じていた。


『キサマハ……ユル……サン』

『ああ!? そりゃこっちの台詞だ』

『カトウナニンゲン……』

『大人しく言う事聞いてりゃ労働力として生かしてやったのよ』

『コロス!』

『俺に大損させた罪を命で償え!』


 どちらが悪者か分からない言葉を互いに吐きながら、ゴンザレスが相手目掛けて拳を放った。


「ぎゃー!」


 体格が大きいライオン顔のモンスターの拳がゴンザレスを先にとらえる。

 

「痛てえでござる! 何も着てねえからメチャクソ痛てえでござる!」


殴られたゴンザレスは、吹き飛んで地面を転がりまわっている。


(さ、さっき一瞬かっこよく思えたのはなんだったの?)


 アキナが呆気にとられる中、ライオン顔のモンスターはのたうちまわるゴンザレスに猛突進し、顔や頭を何度も踏みつけた。

 大きな地響きが鳴り地面が揺れる。


「ぎゃ! ぎゃ! ぎゃああああ! 誰か助けてでござるうううう!」


仮面の下や頭部から、沢山の血が流れ出ている。

やがて、絶叫は鳴りやみゴンザレスはピクリとも動かなくなった。


「あ、ああ……」

「……」


 絶命したであろうゴンザレスを見て、レナの顔色は真っ青になっていた。

こはくは終始目をつぶって、耳を塞ぎ震えている。

 動かなくなったゴンザレスの顔をライオン顔のモンスターは何度も踏み続けた。


「ひ、ひいいいい」

(首から上の原型が無くなるまでグチャグチャにしようとしているわね。もう殺してるのに。随分恨まれてるわね)


 しかし、ゴンザレスの首から上は硬いようで、一向にグチャグチャになる気配がない。

 ライオン型のモンスターは、しびれを切らして、こちらに向かって来た。


「や、ヤバいっす! ア……なつめさん! ワープ使って皆で早く逃げるっす!」

「……ねえあの死体、大事なところは、お盆で隠したまま死後硬直してるわよね? どうしてなのかしら?」

「そんなの分かんねえっす! それがいったい何なんっすか!?」

「……」


 不自然なのは、それだけではない。あのライオン型モンスターの体重で顔を踏まれてたら、普通の人間ならば、1回で原型が無くなってしまう。

なのにゴンザレスの頭は原型をとどめている。

 アキナの中に、とある事が浮かんだ。


(コイツは早く駆除しなきゃ色んな被害がでるし。ジン君も助けにくるだろうけど時間はかかると思うから……)


 聖女の結界に、もてる魔力の全てをそそいだ。


「ガアアアア!」


 ライオン顔のモンスターは、再び体当たりをしてきた。

だが、先ほどとは違い結界はビクともしない。


「ガア! ガア! ガア!」


 今度は結界を何度も殴打してきた。その動きは先ほどよりも激しい。


(壊そうと躍起になって完全に周りが見えてないわね。もし私の考えている通りなら……)


 ライオン顔のモンスターの背後を目掛けて、驚異的なスピードで走ってくる人影が見えた。


「おらあ!」


 人影はライオン顔のモンスターの後頭部を掴み、勢いよく結界に叩きつけた。



☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆



ご拝読いただききありがとうございます。

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