36話 やっぱり、真っ白に燃え尽きた悪徳商人

(ええ!?)


 ゴンザレスにビンタをした次の日。この日もアキナは本業が休みだったので、【生態系の迷宮】で冒険者探しをやっていた。

 探し始めて約5分。あちらの世界の入り口付近で、冒険者の魔法使いらしき魔力を感知する。

 歩いてもそう時間がかからない場所にはいたが、また知らないうちに妨害をされるわけにはいかないので全速力で走った結果、戦士の男と魔法使いの女の2人パーティーと簡単に鉢合わせにした。

 これまでどんなに探し回っても出会えなかったにもかかわらず、あっという間にあっけなく出会えたことにアキナは驚きが止まらなかった。


(昨日の動画もすぐに削除されるかと思ったけど、今日まで残ってたし。いったいなにが起こっているの?)


 強い疑問を心に抱きながら冒険者2人の言葉に聞き耳を立てる。



『あーやっぱり資源ほとんど無くても、人が減ってる今なら結構稼げるみたいに思った俺らみたいなのがいたか』

『違う、よく見て。このおばさん異世界人よ』

『マジかよ。こいつら貴重な部位をとらずに、延々と喋りながらモンスターを殺す事だけしてるヤバい連中なんだよな。ヤベえ、何されるか分かんねえから目合わせんな』

『ちょっと聞こえたらどうすんのよ』

『大丈夫だよ。言葉は分かってねえだろうから』


(言葉が通じないと思って言いたい放題ね)


 とても腹が立ったが、せっかく見つけた適正価格が分かるかも知れない人間達をここで逃がす訳にはいかない。


『ねえ、聞きたいことがあるんだけど』

『はあ!?』

『え!? その……こっちの言葉が分かるの!? ううん、分かるんですか?』

『このローブってだいたいいくらくらいなの?』

 差し出したレジリエンスローブをしばらく見て、男の冒険者が口を開く。


『随分、古い型のローブだな。そうだな、いいとこ、200Gくらいじゃねえのか?』


 やっぱりかとアキナが思ったとき、横の女の冒険者が大きな声をあげた。


『もしかしてこれレジリエンスローブ!?』

『そうだけど……』

『だったら――』

『ええええええ!?』


 金額を聞いたアキナは、驚きが止まらなかった。

 


ヒセキ・コウスケ。

初代勇者の末裔が多く住む勇者の里に生まれ、勇者の称号を継承した彼は15歳の時に、魔族との戦争にその身を投じる。

巨大で強靭な魔族軍に連戦戦勝する彼の姿は、当時圧倒的劣勢に立たされ戦意喪失していた人類に大きな希望の光を与えた。

彼の元には、後にこの世界を背負って立つ若者たちが、彼を慕い集まり共に戦い大きな戦果を残し、いつからか勇者パーティーと呼ばれるようになる。

その後、勇者パーティーは、魔族を統べる魔王、そして今までの勇者たちが討伐できなかった魔族の神、邪神の討伐に成功。

そして、過去のどんな偉人たちも成し遂げられなかった人類と魔族が和解にも中心的に尽力し見事にそれを実現する。

戦後、邪神殺しの勇者と呼ばれるようになったコウスケは、その圧倒的な強さと高潔な人格から異世界に住まう全ての人々から多大なる尊敬と賛美を集めた。


 ……と、ここまでがアキナが知っている当時の彼氏であったヒセキ・コウスケである。

 アキナが帰って以降のこの男は、沢山の人間にチヤホヤされたせいで調子乗り、散財と色欲の限りを尽くしたため、それまで培ってきた名声を地に落とす。

 また地に落とした後も反省することなく、再び欲望まみれの暮らしをおくるため、悪行と呼ぶことすら恥ずかしくてみっともない事ばかりを繰り返し、異世界中の人々から、嫌われ馬鹿に存在になっていた。

 ちなみに今は邪神殺しの勇者などと呼ぶ者は1人もおらず、老若男女全てからゲス勇者と呼ばれている。

 しかし、今回のレジリエンスローブの件に限っては、アキナのビンタのおかげで自らの愚かさに気づいたようである。


(【生態系の迷宮】の支配者はジンだから一番悪いのはあいつだな。丸坊主にしてスーツ着せて謝罪動画を撮ることは確定だ。あと他にも中心的に加担した奴を数匹一緒に謝らせる必要があるな)


 自分の愚かさに気づいた彼は、自分以外の者に責任をどう擦り付けるかを、家で一生懸命考えていた。


(問題はカネだな。一銭も返金しねえ方法を考えなきゃいけねえ。なんかねえかな?)


 しばらく考えたが思い浮かばない。


(……ここは気分転換に違う儲け話のこと考えるか)


 丁度すぐそばに、変な女に押し付けられて仕方なく育てている自称、自分の娘が買ってきた羊皮紙のファッション誌がある。なにか儲かるネタはないかと思いながら手に取りペラペラとめくる。


「な、な、なんじゃこりゃーーー!」


 あるページが目に留まった時、コウスケは大声をあげた。



「ええ‼ あのローブ20万円もすんの!?」


 ジン君からレジリエンスローブの異世界での一般的な金額を聞かされたレナは、驚きで大きな声をあげる。


「デザインが人気だったみてえだから、ビンテージ物になってプレミアがついてんだったよ」

「でも、どうして商人はそれ知んなかったの?」

「潰れたいい加減な商会が大量に安売りしてたから安物だって思ってたみてえ。あのオヤジ魔法専門職じゃねえから、そんなんは、よくわかんねぇんだ」

「ジン君もしかしてそれ知ってたわけ?」

「いいや。俺モンスターだから人間の社会の事とかよくわかんねぇ」


 ジン君と話し終えたレナは、アキナに目をやる。

 なにか商人と話しているようだ。


「ごめんなさい。私てっきり、アナタが古くて使い物にならない安物を法外な金額で売りつけているって思ってたの。」

「……」

「それなのに、本当はあんなに安い値段で販売していてくれてただなんて」

「……」

「そうね。利益なんか度外視だったでしょうから大変だったわよね」

「……真っ白に……燃え尽きたでござる」


 アキナは必死に謝った。しかしゴンザレスは抜け殻の様にブツブツとあしたのジョーの最後の台詞を呟くだけだった。



☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆



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