33話 悪徳商人のせこくて小さい野望が判明
『お前らも知っている通り、この【生態系の迷宮】は、俺たちの世界では売りもんになんねえガラクタを、知識や情報をなんも持たない情弱な異世界人に、あり得ない高値で売りつけて大儲けをするためのダンジョンだ!』
【生態系の迷宮】の営業時間終了後、強制的に運営を手伝わせている比較的高いモンスター達を受け付けフロアに一堂に集めて、ゴンザレスは演説をしていた。
『し、知らねえよ。そんなの』
『ダンジョンを占領するなんて大それたことを、そんな理由でするなんて……』
元々は、ここで命を落とした人間である4階層の死霊やスケルトンたちは、言葉の意味を全部理解して、どよめきはじめた。
『つまり今は、【生態系の迷宮】と、ここに住んでいるお前らの存在意義が問われている緊急事態だ! だから一致団結して戦わなきゃいけねえ!』
『無茶苦茶だよ、あの人』
そんなゴンザレスとモンスター達の様子をアストラル・ジンは、冷めた目で伺いながらスマホをいじっていた。
(俺はダンジョンの生態系を維持できりゃ良いわ。もう後は勝手にやってくれ)
少し前なら、真の支配者としての面子のために、ゴンザレスの発言に猛反発していただろうが、1周まわってどうでもよくなっていた。
(しかし、あのオヤジ、だいぶ衰えてるはずだよな。それで、今日みたいな無茶苦茶な動きができるだとかどうなってんだ? やっぱ、よっぽどの事がねえ限りは表立って逆らわねえ方がいいな)
『やあ』
闇のローブを纏い、禍々しい杖を持った骸骨の魔法使いが声をかけてきた。
確かコイツは……
『僕はリッチ・ザ・リチャードって言うんだ。エンドレスワイバーン様に承認されてから、一応4階層の守護者を300年位やらせてもらってるかな』
『俺はアストラル・ジンって言います。1階層のザコを1000年くらいやってるッス』
【生態系の迷宮】の影の支配者であるアストラル・ジンの存在は、表の支配者であり、ジンのペットであるエンドレスワイバーンと、ダンジョンができた当初よりいる、とある1匹のモンスターを除いて完全に秘匿されていた。
例外としてエンドレスワイバーンを倒した者の前には、素性を明かして現れるが、ここ400年で、そんなのは、勇者パーティー位しかいない。
そういった事情から普段は、ザコモンスターの1匹として振る舞っている。
エンドレスワイバーンがリッチ・ザ・リチャードを守護者に任命したのは、ジンの指示があってのことだったが、当然リチャードはそれを知らないかった。
『す、すごい! ダンジョンの設立当初からいるんですね。これは、馴れ馴れしく失礼しました』
『ハハハ……勘弁してください。逃げ足早いんで、たまたま生き延びれてるだけッスよ。そんなんより階層守護者の方が100万倍すげえじゃないッスか』
『はは、ありがとう。でも守護者になれたのは本当に運みたいな感じで実力は伴ってないからね。所で僕より長く、ここにいるなら知ってるかも知れないけど、あの人って勇者だよね?』
『ええ、そうッスね。俺も昔、遠目から見たことがあるッス』
『だよね。随分キャラが変わっちゃってるから、驚いちゃったよ』
『ハハハ。でもあのオヤジ、あれで完璧に変装できてるって思ってるから、それ言ったらボコられるんで止めた方がいいっスよ』
『ほ、本当かい。ありがとう、気を付けるよ』
ここでジンは、あることを疑問に感じる。
(そうなんだよなあ。あのオヤジのこと知ってたら、普通は誰だか1発で分かんだよなあ。なんでアキさんは気づかねえんだ?)
そんな事を考えながら楽しくリチャードと、ひそひそ雑談をする中、けたたましい怒鳴り声が耳に入ってきた。
『ふざけるな!』
雑談を中断し大声の方向を見る。声をあげたのは、アンズィールのようだ。ライオンの顔と鷲の足と羽をもったごっつい人型のモンスター。確か3カ月前まで6階層の守護者をしていた奴である。
『訳が分からぬ事ばかり言って! 人間の貴様になんで守護者まで勤めた我が従わねばならんのだ!』
『な、なんだよ、てめえ……』
『この場でなぶり殺す!』
『ひいい! 命ばかりはお助けを~』
詰め寄るアンズィールに、ゴンザレスは怯えながら土下座をする。
『●×△□~』
『ハハハ……みっともない姿だな。訳が分からぬ事も言って、ついに気でも触れたか』
ゴンザレスの日本語での問いかけにジンは、首を縦に振る。
(なーにが “ジン、このでくの坊をボコっていいでござるか” だ。俺がダメだって言ってもやるだろうが)
『愚かな人間には相応しい最後だ! し……!!!!』
拳を振り上げた瞬間、ゴンザレスはアンズィールの睾丸を強く握った。
『おら! おら! おら!』
そして股間を抑えながら地面に、ひれ伏すアンズィールをゴンザレスは、蹴り続ける。
それを冷めた目で見ていると、リチャードが再びジンに話しかけてきた。
『なにやってんだろうね。彼の実力ならあんな事しなくてもアンズィール君を簡単に倒せただろうに』
『よく見てください。昔よりだいぶ弱くなってるッス』
『言われてみれば……でも一般的には、まだまだ強い部類だと思うけどなあ』
『弱くなったのは心ッスよ。そのうえ汚くもなってるッス』
『なるほど。でもアンズィール君は勇気あるね。彼が怖くないのかな?』
『アンズィール様が6階層の守護者になったのは11年と54日前っスからね。その頃勇者パーティーは、ここには来なくなってたから、あのオヤジの事、知らなかったんじゃねえッスか?』
『もうそんなに経つのかい!? 死んでると時の流れが早く感じるなあ。でも君、よくそんなに細かい日にちまで覚えてるね!』
『ハハハ。俺、地頭は良いんっスよ』
(……あのオヤジの強さに気づかねぇようじゃ、守護者は力不足でやらせらんねえな。エン吉に言ってクビにして正解だったわ)
そんな事を考えながら、リチャードと再び雑談をしていると、ようやく暴行をやめたゴンザレスがアンズィールを踏みつけながら叫んだ。
『見ろ! コイツは死んでねえ! これは俺がとてつもなく優しい人間である証拠だ!』
(こんだけボコボコにしておきながら、なに言ってんだ。殺さねえのは労働力を失いたくねえからだろうが)
『だからお前らは人格者である俺に絶対服従しろ!』
呆れるジンを尻目に、ゴンザレスは更に言葉を続ける。
『先ずはこのダンジョンと、ここに住むお前らの存在意義そのものを否定する邪悪なる企みと戦わなきゃいけねえ! 恐らくこれから仕掛けてくるはずだ。全員今から配置につけ!』
集められたモンスター達はやる気が無さそうに、事前に伝えられた持ち場につき始めた。
『え? 邪悪ってどういうことなの? あの人と勇者は仲間じゃなかったの!?』
『早くいきましょう。いうこと聞かなきゃ、あの邪悪なオヤジに、なにされるか分かったもんじゃねッス』
困惑するリチャードと連れ立って、ジンもめんどくさそうに持ち場に向かった。
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ご拝読いただききありがとうございます。
昨日のお酒のせいで二日酔いになり今、ガチで苦しいです!
いやあ今日、本業が休みで良かったあ~
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