32話 真っ白に燃え尽きた悪徳商人
『ぜえ、ぜえ……』
『は? なんだお前』
『おらあ! ……うっぷッ』
ジンからの無線を頼りに、冒険者がいる場所にゴンザレスは駆けつける。
そして、見つけるなりぶん殴って気絶させていた。
しかし、空間転移魔法より早く着くために全力ダッシュをしたせいで、激しい息切れと吐き気を催していた。
『はあ、はあ……』
(よし処理は完了だな。次は隠ぺいだ)
汗だくだくで、肺の痛みにも耐えながら、腰に下げたポーチ型魔道具の紐をほどく。
この魔道具の名前はシュリンクサック。容量制限はあるものの色んなアイテムを縮小して沢山収納する事ができるレアアイテムである。
なお、生きている生き物を収容することはできない。もし収容した場合は凄まじい力で自動的に吐き出す様になっている。
しかし、ゴンザレスは……
『おらあてめえ! 入りやがれ! こらあ!』
力任せで強引に冒険者をシュリンクサックの中に入れて、紐をきつくしめた。
これで【生態系の迷宮】にいる冒険者は全員シュリンクサックに収容した。後はカネめのものを全て奪ってから、外に開放するだけである。
ふらついて千鳥足になりながら、ゴンザレスはトランシーバーアプリを使い、スマホからジンに無線を入れる。
『おい、ジン。こいつで【生態系の迷宮】に入ってきている冒険者は最後だよな?』
――のハズだったッスけど、今、正規の入り口から3人組のパーティーが入ってきたッス。見た感じ職業は全員魔法使いッスね。で、3人とも結構強そうなんでBからA級っぽいッス。
『マジかよ……』
ゴンザレスは不摂生、喫煙、運動不足で若い頃に比べて大幅に衰えている。
さらに何回も全力ダッシュをしたせいで、身体は疲弊しきっていた。
(しかもここ6階層だぞ。ここから1階層まで、全力ダッシュすんのかよ)
こんな状態で上級冒険者と戦ってしまったら、負けるどころではすまないかも知れない。
――俺がいきましょうか?
『お前がそこ離れたら全体の様子を把握する奴がいなくなるじゃねえか』
しかし、ここで投げ出して、アキに色々な事を知られては非常にまずい。
『うおおおお!』
なので、渾身の力を振り絞り1階層まで全力ダッシュをする事にした。
余談だが、生態系の迷宮の階層は全部で10階層と他のダンジョン降下型ダンジョンに比べて階層の数は少なめである。しかし階層ごとの面積の広さは、この世界で1番である。
◇
「おかしい。またいなくなってる」
空間転移魔法を使う前に魔力感知をした時には、確かにここに冒険者はいたはずだ。
だが、いなくなっている。
こういった事が今日、何回も続き、結局冒険者には会えていない。
これが偶然だとは、とても思えなかった。
(どうしてこんな事が起こってるの? 妨害をしているにしても、どうやっているか分からない)
アキナは目を閉じて、再び神経を集中させ、魔力探知を始める。
これをやるのは今日、何回目になるだろうか……。
◇
アキナの額からは、沢山の汗がにじみ出てきている。
レナにはよく分からないが、ダンジョン全域から魔力を探りあてるのは、とても大変なようだ。
「アキさん。これじゃ埒があかないっす。ウチがジン君に聞いてみるっす」
集中しているせいか、アキナから返答はない。
だが、これ以上は負担を掛けたくないので、取り急ぎジン君に電話する。
「もしもしジン君。今モニター室にいるよね。どっかの階層に冒険者の人いない?」
――ああ……どこにもいねえな。
「マジ?」
――マジだよ。嘘つく理由ねえじゃん。
ジン君と話し終えて、スマホを切る。
丁度アキナも探知を終えたようだ。
「はあ、はあ……ごめんなさい。違う階層の魔力を探知するには、凄く集中しなきゃいけないから話しを聞いてなかったわ。どうしたの?」
アキナはかなり疲れているようだ。
今日の探索は、もう中止した方が良いだろう。
そう思いながら、ジン君から聞いたことをアキナに伝えた。
「もう冒険者はダンジョンにはいないってジン君が、言ってたっす」
◇
「……入り口の近くに3人いるわ」
「え? じゃあジン君が嘘ついたってことっすか?」
レナの言葉で妨害されているという疑いは、確信に変わった。
(やっぱりレジリエンスローブは法外な値段で売られていたのね。でも、どうして私が疑っていることに気づいたの?)
いずれにしても、妨害をかいくぐり、冒険者に接触して詳しく話を聞かなければならない。
だが、どんな方法で妨害してきて来ているのか全く見当がつかない。
そして、すぐ近くに転移することはできない。
空間転移魔法を使える者は聖女のみである。異世界の人間は皆それを知っている。 相手の視界に入る場所に転移してしまったら、聖女だとバレてしまう。
前回の様に人の命が今すぐにでも奪われそうな場合ならば、それでも仕方がないかも知れないが、今回は違う。
更に今回見つけた3人は、皆かなりの魔力を持っているので、それなりに名前が知れた魔法使いだろう。慎重にやらなければ、かなりの距離をとって空間転移をしたとしても、周辺の魔力の乱れを感知されて、そこからバレてしまうかも知れない。
(いつも以上に距離を空けて、使う魔力もできるだけセーブしなきゃいけないわね)
アキナは気を使いながら慎重に空間転移魔法を使い始めた。
◇
「結局、会えなかったわね。私、感知力が凄く落ちてるみたい。長く付き合ってもらったのに、本当にごめんね」
「そんな事ないっすよ。きっと商人の奴が、またなんかあくどい事したんっすよ。ウチはアキさんを信じてるっす」
あの後も何回か冒険者の魔力を感知した。
だが、レナと駆けつけた時には、人っ子一人いなかった。
もっと調査をすれば、今度こそ冒険者に接触できるかもしれない。
しかし、こはくの事もあるので、家の事を疎かにするわけにはいかない。
アキナは自分の不甲斐なさに意気消沈しながら受付に帰ってきた。
「ウチが商人の奴にガツンと言ってやるっす!」
「ダメよ。証拠がないし、どうやって妨害してるか、まだ検討もついて……」
血気はやるレナを必死に止める中、アキナの目に、とんでもないものが入ってきた。
「ねえ、ポーション売って」
「燃えたでござる……真っ白に……燃え尽きた…でござる。……拙者は真っ白な灰に……」
「いやそんなのどうでもいいからポーション売ってよ」
汗まみれでボロ雑巾の様に汚くなり、椅子に座って、あしたのジョーの最後の台詞をボソボソと吐くゴンザレスが、とてつもなく不気味で2人は近づく事すらできなかった。
「ひいいい! このまま本当に灰になってどこかに全部吹き飛んでいってほしいっす」
「ダ、ダメよ……レナちゃん、そんなこと言っちゃ……」
レナをなだめながら、ボロ雑巾の様になっているゴンザレスを横目で伺い、とある可能性を考えていた。
(もしかして、走って私の空間転移魔法に先回りをしたって言うの。それならあんなにボロボロなのも……)
と、ここまで頭の中で考えて、ため息をついた。
(はあ……そんな訳ないじゃない。普通はそんな事考えても実行しないわよ。実行しても絶対成功するわけなんてないし)
とはいったものの元彼ならば、実行して成功してしまうかも知れない。
しかしアキナの知っている元彼は、ゴンザレスの様に卑怯でカッコ悪い人間とは正反対の人間であるため、元彼=ゴンザレスという考えには、ならなかった。
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