19話 バズる企画を提案するアキナ

「ただいまー!」


 帰宅した家には、電気はついていない。誰も迎えに来ない事も分かっていた。

 それでも自室にずっと引きこもっている娘のこはくに帰った事を伝えるために、ただいま、お帰りの挨拶はできるだけ大きな声でするようにしている。


「ごめん、こはく。今日もお仕事で遅くなっちゃった」


 部屋のドアの前で話しかけたが、やはり返事がない。

ここ半年くらい、こはくをまともに見ていない。

 自分がいない時に部屋を出て排せつや入浴はしている様なので、生きてはいるようだ。

 だが、どんな状態になっているか健康面がとても不安だった。

 三食欠かさず用意している食事には、いつもほとんど手をつけていな――


(え!?)


 

 足元に目をやると、今日出ていくときに作った料理のお盆と食器が置かれていた。それだけではない、作ったものを全て食べてくれたようだ。

 この半年間、こんなことは一度もなかった。驚きと嬉しさで目が熱くなった。

 お盆と食器の間にはメモが挟まっていた。


――今日のは美味しかった。また作って。

「こ、こはく、まだ起きているかな!? 分かった、お母さん、また同じの作るね!」


 お盆を両手で持ち、気持ちを落ち着かせるために深く深呼吸をした。


(リュウタのハズレシピで見たのを作ったのが多分きいたのね。私も自分で作ったの食べたけどアレ本当に美味しくて……え?)


 ここでアキナは、動画の企画を思いついた。

 今まではレナに言われるがまま動画を撮っていたが、自分からこんなものが撮りたいと提案してみるのも良いかも知れない。




 アキナは介護の仕事を辞めていない。

 短期間で売れはしたが、配信者は人気商売だ。今は沢山稼げたとしても明日には全く稼げなく事もあるだろうし、元々必要な金額が貯まり次第、配信は辞めるつもりでいるからだ。

 レナに、それを伝えたら勿体ないと強く反対された。今でも納得はしていないようだ。だが、説得することは無理だと諦めて、今でも同じ施設で一緒に働いている。

 食事休憩の時間がレナと一緒になったアキナは、昨日思いついた事をそれとなく伝えてみた。


「モンスターを食っちゃう動画っすか!?」

「うん」

「そんな迷惑系みたいなことはマジでダメっす!」

「め、迷惑系?」

「前、ちんやっちょっていう迷惑系の配信者が、毒のあるモンスター食って死にかけたんす。すぐにジン君が運んで治療してなんとかなったらしいんすけど」

「そ、そうなのね」

「問題はここからっすよ。商人は以前からダンジョンで迷惑行為を働く上に、金払いも悪い、ちんやっちょにムカついてたんっすけど、これきっかけでブチギレて。それでボコボコにして、闇金から沢山カネを借りさせて、それを自分の口座に送金させた挙げ句、身分証付きで個人情報をネットに晒して出禁にしたらしいんすよ」

「か、かなり過激ね」

「半分は噂だけどアイツの性格考えたら絶対やってるっす」


 ここまで話していてアキナは、ある疑問を抱いた。


「ちょっと待って! ゴンザレスが銀行口座持ってるの!? それに晒しっていったいどうやったの?」

「アイツ、ネットバンキングに口座を作ってんすよ。晒しはダンジョンの公式×(旧:Twittew)アカウントに紐づけされていない裏垢や捨て垢でやったみたいっす」


(えー! 私よりネットに適応してる)


「そ、そういえばパソコンが置いてあったわね」

「ジン君が言うには、金儲けの為に物凄い悪知恵が働かせて勉強したみたいっす。異世界の人って皆あんな感じなんっすか?」

「ちょ、ちょっと特殊かな……」

「それからモンスターを食おうとする奴は、迷惑系だってイメージが配信者にも視聴者にもついて、商人の奴も食う行為を禁止したっす。得体の知れない生き物を食おうなんてする奴は事件前からそんなにはいなかったっすけどね」


 “うらあか”と“すてあか”というものがなんなのかとても気になったが、これ以上話を脱線させたくないので、本題に戻ることにした。


「でも、その子は、どんなモンスターを食べたの?」

「2階層にいる魚のモンスターっすね。ほらでかいヒレを足みたいに使って歩くヤツ」

「フィンフォーカーを食べたの? 調理方法を教えてくれない?」

「調理なんかしてないっすよ。倒した奴をそのままガブっていったみたいっす」

「あちゃー。それじゃ毒に当たるわね。生きているのが奇跡よ。でも勿体ないわね。毒抜きして食べれば、すごく美味しいのに」

「なに言ってんすか? 毒抜きの方法なんて……」


 レナは言葉を詰まらせた。

 転移者のアキナは、モンスターの毒抜きや調理のやり方を知っていたとしてもおかしくない事に気づいたようだ。

 ここでアキナは、おばあちゃん家に立ち寄って持ってきた昔使っていた羊皮紙のノートを、レナに見せた。


「これ、あっちにいた時に私が使ってたレシピ帳なんだよね。これ動画で再現してみたいんだけどダメかな?」


 レナはしばらく考えた後、苦々しい表情を浮かべながら口を開いた。


「商人の奴が禁止にしてますからね。特別に許してやるからとか言って、無茶苦茶言ってきそうで怖いっす」

「じゃあ話だけしてみましょうよ。それで無理難題を言われたら諦めましょ」

「それがいいっすね」


 2人は仕事が終わった後、撮影ではなく交渉のためにダンジョンに行く約束をして仕事に戻った。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆



ご拝読いただききありがとうございます。

全く関係ないことですが、風邪を引いたみたいで今鼻づまりになっています。

最悪熱が出ても当面はまわせるほど書き溜めておりますのでご安心ください!

是非、明日も続きを読んでください!

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