15話 借金取りから逃げる男


「アキさん、おカネ厳しいなら車売った方が良いと思うんっスけど」

「うーん。ここ田舎だから、無いとどうしてもねえ……」


 レオン君とLINEを交換した後に、ダンジョンを出たアキナはレナを車で家までおくっていた。


「ってなんすか……これえええ!」


 助手席で先ほどゴンザレスと交わした契約書に目を通していたレナが、突然大声をあげた。


「ビックリした……。いったいどうしたの?」

「アキさん。商人のMCNに入っちゃってるんすけど」

「うん、MCNってなんなの? おカネがかからないみたいだから入っちゃった」

「Yawtuberの事務所みたいなもんっす。ダンジョン配信では今目立った事務所ないっすね」

「そうなんだ。でもタダだから良いじゃない」

「いや、確かに再生数でマージンとかはとらないっぽいっすけど、マジで損する契約させられてますよ」

「そうなの?」

「はい、ここなんか……」


 レナはYawtubeとダンジョン配信に関する相場の話をアキナにした。だが、ネットやSNSに疎いアキナはイマイチ、ピンとこない。


「うーん、私なんかじゃおカネ多すぎる位だと思うけどな」

「はあ……でもハンコは押してないからこの契約は無しっす。早速、明日突き返してくるっす」

「ええ! ちゃんと契約したのに、そんなの失礼じゃない」

「商人がゲスな事してるのが悪いから大丈夫っす!」



 24時間いつでも来れるこちらの世界の冒険者たちと違い、異世界の配信者に対してダンジョンが解放されるのは、毎日9時から22時までである。

 深夜に人がたむろする事による治安の悪化を懸念した異世界の自治体への配慮と、運営を手伝ってくれるゴブリン、ミニマム・ドレイクの体調管理を考慮してこの基準はもうけられた。


『ったく本当は24時間営業してえってのによ。ジン、てめえは飲まず食わずで疲れずに、ずっと働けるから大丈夫だろ』

『ハハ、勘弁してくださいよ。この後も配信者向けに明日の準備とかしなきゃいけねんですから』

『ったく俺がこんなに一生懸命働いてんのに良いご身分だぜ』

『ハハ……』


 アストラル・ジンは怒りと恐怖で引きつった笑顔を浮かべながら、内心で舌打ちをした。


(ざけやがって。てめえ週に3~4回だけ、ちょこっと顔出すだけじゃねえか)


『しかし、あの契約書は上手くいったな。どうやらアキはSNSやネットのことをよく分かってねえようだ。アイツの性格を考えて契約するであろうギリギリの部分をついたつもりだったが、こんなに上手く行くとは予想外だったぜ』

『後からなんか言って来るんじゃないッスか?』

『なーに、サインだけしてありゃ次元の穴が開いている日本って国の民法って法じゃ契約は有効になるらしい。しかもそれ知らない奴が結構多いんだよ。ハンコ押してねえから無効だって何回言われたか分かんねえ。ったく自分が住んでるところの法くらい分かれってんだよな。ギャハハハ』


(いや半年前、開いたばかりの異世界の法やこっちに無いネット関係の事を短期間で勉強したアンタがすごすぎんだよ。ゲスな事をする時だけ、とんでもねえ悪知恵を発揮しやがる)


 ゴンザレスの学習能力は驚異的だ。悪知恵に関してだけであれば知の魔神と呼ばれる自分ですら上回るかも知れない。そう畏怖を感じたその時だった。


『今日はここに泊めてくんねえか?』

『なに言ってんスか?』

『ダンジョンの外には借金取りがいるかも知れねえ。家に帰りたくねえ』

『アンタの債権者は皆色んな意味でやべえのばかりですから、いるの知ってたら直接ここに取り立てに来るッスよ!』

『この配信者フロアには、強力な結界と迷彩魔法を使ってるから、いくらあいつらでも見つけられねぇんじゃねえのか?』

『いや、あの人達ならこんなの簡単に見破るんで』

『そんなの分かんねえじゃねえか』

『分かりますよ。結界も迷彩も俺が魔法かけてんでッスから!』


 この様な押し問答が小一時間ほど続き、結局ゴンザレスは、ふるえながら家に帰って行った。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆



ご拝読いただききありがとうございます。

こうしてアキナはダンジョン配信者としての1歩を踏み出しました!

明日はtwitter、Youtubeコメント欄に加えて、2chも追加した配信者デビューしたアキナへの反応をお届けします!

楽しみにしておいてください!

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