14話 やっぱりダンジョン配信をすることにする

「この様なものしか用意できず、申し訳ござらん。ジンの奢りなので遠慮のう召し上がってくだされ!」

「はあ!? なに言ってんっスか!」

「ちゃんと給料から引いてるので安心するでござる」


 アキナ、レナ、助けた男の子とそのカメラマンは1階層受付の後ろにある来客スペースと会議室が合わさった様な場所に案内された。

 テーブルの上にはVberEATSを使って次元の穴の外から頼んだろう、ピザ、ハンバーガー、フライドチキン、牛丼といったジャンクフードがところ狭しと置いてある。

 なにやらもめているジン君とゴンザレスを無視して、3人の若者は色々な物にがっついている。

 アキナはそれを横目で見ながら牛丼の上に卵を乗せ、それを箸でかき混ぜると、淡々と口に運び始めた。


「アキさんの苗字て小葉(こば)っすよね? なつめって前の旦那さんと苗字とかっすか?」


 ピザを食べているレナが、口元からチーズを伸ばしながら話しかけてきた。


「違うわ。向こうにいたのは15歳から20歳の時で、その間に親が離婚したから苗字が変わったの」


 壁に顔がめり込んでいるジン君を横にして、ゴンザレスがフレンドリーな口調で話しかけてきた。


「失礼いたした。皆、拙者に問うべきことが多々あるでござろうから、食事の傍ら、遠慮なく聞いてくだされ」


「じゃあ、ウチから。アキさん聖女って事は異世界じゃ有名人なの?」

「拙者たちの世界では、聖女教という多くの信者を持つ宗教があるでござる。この宗教では世が破滅の危機を迎えた時、異界より聖女を召喚し、救いを乞うという教義があり申す。アキナ様は300年ぶりに召喚された4人目の聖女でござる」


(向こうで普通に知られてる事とも、違うこと言ってるじゃない)


 だが、全て正しく話すと、初めて聞く人には話がややこしくなりすぎるし、大枠の説明としては間違ってないので、このまま黙って聞くことにした。

 レナはさらに質問を続ける。


「なんでアキさんなの? ってか何十年前とかに異世界でなんかやばいことあった?」

「聖女として召喚される者の基準は定かでござらぬ。であるが治癒や補助の魔力が、こちらの世界では有り得ぬほど巨大な者を呼び寄せるのではないかと言われておる」


 アキナはここで、紅生姜を入れていない事に気づき手を止めた。その間もゴンザレスは答え続けた。


「何十年前ではなく十数年前ござるが、こちらでは魔族と人類の戦があったでござる。召喚されしアキナ様はそこで人類側で最も功績をあげたるパーティーに所属していたでござる」

「このダンジョンにもよくきて、俺たちをいじめてったッス」


 いつの間にか復活したジン君も、言葉を続けた。


「私からも良い? 皆は今どうしてるの?」

「皆と申されましても……中心におりましたのは始めの頃からいたアキナ様を含めた4人でござるが、多数のものが加わったり、一時離れたりなどし、総じて十数人くらいが参加しておりましたからな。解散後は各々がそれぞれの道に進み、それぞれの場で大きな業を成し遂げ、世の全ての人々から尊敬の念を集めたとしか言えぬでござる」

「1人だけ違うのがいるんッスけど、だいたいそうッスね」


 ジン君はゴンザレスによって、再び顔を壁にめり込まされた。


「皆さま他になにかないでござるか?」

「いいでしょうか?」

「良いでござる」


 先ほどの男の子が手を上げた。


「配信者仲間がダンジョンの外に企画で出ようとしたら、僕らの世界で入ってきた穴の前に戻されて結局出れなかったらしいんですけど、それはどうしてなんでしょうか?」

「それは皆さまが本来はこちらの世界に存在しない異物であるため、次元が不安定になっているこのダンジョンでしか存在できない事が原因でござる。人工的に魔法で異世界人を転移させるのであれば、拒絶されないように安定させる方法もあると聞き及んでおり申すが、聖女召喚以外の異世界人召喚魔法は、既にやり方が忘れられてしまったでござる」


 男の子の質問が終わり、場は静かになった。ゴンザレスは他に質問がない事を確認し終えると再び口を開いた。


「他に質問が無いようであれば、アキナ様にお願いがござる。某にも是非chのバックアップをさせて頂けぬでござるか」

「おあいにく様。私はダンジョン配信をするつもりがないの。向いていない事が分かったから」


 ゴンザレスはスマホを取り出し×(旧:Twittew)とYawtubeLIVEのスクショをアキナに見せてきた。

 


「う、嘘、なにこれ」

「これは少し前のものでござる。今は同一人物だと言って色んなSNSで話題になっておるな。6chでもスレがいくつも乱立しているでござる」


 SNSの事はよく分からないが、自分の画像や動画が至るところに出回っている事は確かなようだ。

 恥ずかしさで耐えきれなくなり、顔を真っ赤にさせて下を向く。


(ウイッグと伊達メガネを、つけてきて良かった……)


「この勢いでは恐らくYapooニュースにも恐らく載るでござるな」

(いやああああー!)


「これでアキナ様はダンジョン配信に向いていることが証明されたでござる」

「ちょっと、ええ !?」

「なにを嘆かれる? Yawtubeで稼ぐインフルエンサーとしては素晴らしいデビューでござる」

「インフルエンサーってなに?」

「……そこからでござるか」


 アキナは家計のためにダンジョン配信をしようと考えていたが、本来は人前で目立つことには抵抗がある性格だった。

 とはいってもこれだけ注目を浴びたうえに、レナも助けた配信者の男の子も協力してくれると言っている。

なにより風俗で働くより抵抗が少なく、必要なおカネも早く作れそうなので、やっぱりダンジョン配信をすることに決めた。

 しかしゴンザレスは信用できないし、何を考えているか分からない。


「アナタが私をバックアップしたい理由はなに?」

「拙者はその昔、ヘスペリアが魔族軍に襲われた時に、アキナ様とそのパーティーの方々に助けて頂いたことがあり申す。そのご恩を返したいのでござる。無論商人でございますれば、それにより利益を得ようとも考えており申す」


(あの時は沢山人がいたからなあ)


「という訳で、これがその契約書でござる。内容をよく確認のうえ、大丈夫であればサインを頂ければと思いまする」


 内容を確認する。

 契約書には自分に不利な事は一切書いていなかった。

 いや、お得なことばかり書いてある。

 なにか裏があるのかも知れない。

 しかし、家計が大変な今の状態で、これはとても魅力的だった。


「分かったわ。ボールペンを貸してくれるかしら?」

「アキさん、ちょい待ち! この商人は卑怯で、がめつくて最低の奴だってマジ有名なんっすけど! そんな奴の契約書にサインするなんてマジヤバすぎっす!」

「内容を確認したけど問題なかったわ」

「で、でも」

「それでは署名をお願いするでござる」


 アキナはボールペンでサインをした。



☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆



ご拝読いただききありがとうございます。

皆さんのおかげでカクヨムコンの現代ファンタジーで、なんとか72位に滑り込みました!

これからどんどん追い上げてくる作品が多いと思いますが負けずに頑張って参りますので、応援よろしくお願いいたします!

この小説が面白いと思って頂けましたら、執筆する励みにもなりますので、★とフォローをお願いいたします!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る