第56話 運命のリング

 教会内の祈りは突然止まり、中央の十字架の天窓の外の世界はまだ明るく美しかったが、礼拝者たちの瞳孔は蝕まれ、涙が溢れ続けていた。彼らは一斉に立ち上がり、祈りの壇上に跪いた創造主を覆い隠すように両手を広げて四角い隊列のように行進し、その後ろを無言で覆い隠した。


「憎たらしい罪人よ!あなたに神の怒りを見せなければならないようです!」


 信徒たちは悲鳴を上げながら頭をかかえ、黒い霧となって創造主の体に巻きつき、創造主の背中から一対の巨大な翼が展開すると、肉と骨がねじれる音が続いた。 凶悪な 3 つの血色の悪魔の目、体を覆う鋭い鱗、そして巨大な闇の力が全体を覆った。


 燃えるような感覚に目を焼かれた円沢香は、思わず両手で目を覆った。創造主の体内の暗い炎は雲に向かってまっすぐに伸び、火山のように燃え上がった。

 突然、まるで地上から聞こえてくるような、ぼんやりとした遠い声が円沢香の脳裏に浮かび、脳みそにひびが入りそうなほどの激しい頭痛に襲われ、膝をついて座り込んだ。


使!」


 体がひんやりとした感覚に包まれ、いつしかマリヅカは全裸で澄んだ池に浸かっていた。 周囲を取り囲む竹林は風に吹かれ、心地よい音を立てていた。霧と霧雨に包まれ、これが以前現れた光景であることに間違いはなかった。


 くそっ、今はここに来る時ではない瀨紫はまだ敵と死闘を繰り広げているのだ!


 今回は渦がなく、歩きやすかった。 笹の葉の香りを嗅げば、悩みなど忘れてしまうほど冷たくて爽やかだが、今はそんなことを楽しんでいる場合ではない。 霧をかき分け、彼は水の渦をかき分けながら、白銀色の長い髪をなびかせながら歩き続けた。 そうだ、


「などなど!話があるんだ!」


 女性が背を向けようとしているのを見て、円沢香は慌てて駆け寄った。 その結果、彼女の顔は柔らかいものに弾かれた。

 この感覚は……間違っているはずがない! 丸世佳は慌てて顔を遠ざけ、女性の雪のように白く豊満な胸に目を凝らした!


「おっと!なんで赤面してるの?私の相棒」


 霧が晴れ、柔らかな光の中で、円沢香はようやくその女性の顔をよく見た。 少し大人びた顔立ちだったが、


「花音、もう会えないと思っていたよ! どうしてここにいるの?」

「花音?【ゲームの黒獣】の呪われた境界にいたときの話かあ!そう、我が子よ、封印が弱くなった時こそ、


 花音の笑顔を見て、胸に秘めた感情が漏れ出た。 この女性、とても親しみがある。彼女を見ていると、目に見えない鎖が人の心を縛っているのを感じる。

 彼女はいったい何者なのだろう?彼女の口から出る言葉にはどんな秘密が隠されているのだろう?


 円沢香が質問しようとしたとき、花音の指が彼女の唇に押し当てられ、そして円沢香の白くて柔らかい手をそっと持ち上げた。


「まあ、指輪は信じられないほど明るく美しい光のパワーを放っているから、最近頑張っているみたいだね。 私が本当は誰なのか、指輪の正体は何なのか、訊きたいに違いないでしょう?そうだろう?」


 突然、花音の手から何らかのエネルギーが指輪に伝導されたのを感じ、指輪はかすかに明るい光を放ち、次いで円沢香の頭の中は、冬に温かいスープを飲むような温かい感覚に包まれた。


「あなたがこの世の運命に挑戦する覚悟ができているなら、あなたにいくつかの事実を教えなければなりません」


 指輪は突然、金色の光の輪に包まれ、輝く翼の束が浮かび上がった。この感覚は、【魔人】や【黒獣】の中の闇を浄化するときと同じだ! たまらない使命感だった!


!君の仲間は皆、それぞれの神器を持っているが、これは違う!真の救済だ!光と闇の交代ではない!」


 運命に抗う使命を引き受けた?世界を救うために自らこの世に生を受けたのか?何の冗談だ!みんなを守ろうとするのはまだ問題なのに、今度は世界を守るだと?


 にいにい、翔太、愛乃、自分も成長したし、みんなを守る覚悟と行動力はあるけど、運命に抗えなんてとんでもない。

 この間、自分に降りかかった出来事や、【圏外】から密入国してきたホームレスのはぐれ者たちや、もがき苦しんでいる人たちのことを思い出すと、円沢香は苦しくてたまらない。 家に帰りたい、兄のところに帰りたい。


 円沢香が泣きそうになったとき、一対の腕が彼女を包み込んだ。花音の頭が円沢香の頭に軽くのしかかると、円沢香の目の前に無数の映像がフラッシュバックし、さらに強烈な思い出が脳裏に浮かび上がった。


 空は燃え、砕けた黒い空洞から隕石が落下し、大地は震え、すべてが粉々に吹き飛ばされ、絶望と堕落による大惨事となった。

 無数の背の高い黒い影が無謀にも空を徘徊し、【放浪少女】に変装した魔法少女たちが大混乱を引き起こし、最後の生きとし生けるものが全滅した。


「どういうことなんだ?【ゲームの黒獣】の呪われた境界でこんなシーンがあったような気がする」

「坊や、君も感じているんだね。【ゲームの黒獣】は記憶を読み取ることで感情世界を形作るから、あの世界の終わりのシーンは本当にあったシーンで、記憶の奥底に刻まれているんだ。

 それが【終の夜】という黙示録ですべてが破壊される未来なのだ。 闇が世界を完全に覆い尽くし、世界の裏から来た悪魔の力がすべてを支配する」


【魔神】?【終の夜】?円沢香の脳裏には、だんだんと鮮明になっていく記憶が浮かんできた。しかし、それを思い出すのは、まだ氷の壁に隔てられているようだった。

 


「なぜメモリにこのようなイメージがあるのか不思議でしょう?急ぐ必要はない、後でわかることだ。この会議は終わりにしよう。

 私の封印は今まさに回復されようとしている。使


 円沢香が追いかけようとしたが、霧が立ち込める中、花音の姿はどこにもなかった。いったい彼女は何だったのだろう?なぜ彼女は【運命のリング】を自分に託したのか?あの未来の記憶はどうなっていたのか?運命に抗う道を選ぶのか、それとも兄のもとに戻る方法を探すのか。


 円沢香がそう思った瞬間、水は攪拌され、高速の渦となって渦を巻き上げ、彼女を底に吸い込んだ。

 息苦しさのような感覚の後、一時停止していた映像が再生されたかのように視界が鮮明になり、創造主が手にした黒い十字架を掲げて斬り下ろすと、瀨紫が攻撃を防いだ【妖刀村正】が激しく弾け、生臭い赤い血しぶきが飛び散った。


 瀨紫は倒れてもすぐに起き上がり、血まみれの傷だらけで足首を骨折していたが、それでも武器を手に取った。

 相手はとても強かったが、彼女は決して屈しない、弱い者は排除されるのだ!瀨紫が再び攻撃を仕掛けようとしたその時、円沢香が前に出た。


「何をしているんだ?正気か?盾になってもらう必要はない!」


 何も答えず、円沢香が指輪を指で押すと、光とともにまばゆい天使の羽が浮かび上がり、半透明の金色のロングボウが出現した。


 まさか!彼女がそんな神器を持っているわけがない!あの純度の高い光の力はどうなっているんだ!


 円沢香の目はますます見開かれ、光を通して創造主の体内に無数の黒い炎が地獄のシンフォニーのように泣き叫んでいるのが見えた。

 その中でも、 2 つの慟哭の炎は特に見覚えがあり、その感覚に間違いはない!


 円沢香の心臓は感動で破裂し、眉間にしわを寄せ、手にした見えない弓の弦は力いっぱい引き絞られ、希望と救いを込めた光の矢は創造主の胸に向けられた。


「なぜ友人の魂があなたの身体で苦しんでいるのかわからない、でも、何をしなければならないかはわかっている!私の力でお前を叩き潰してやる!魂を冒涜した代償を払わせる!」



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