第18話 邂逅

 世間はGゴールデン/Wウィーク真っただ中。

 本来なら暦通りに授業はあるのだが、教授が休みを取りたいが為に休講となり、長い連休になることが殆どだ。


 同じクラスのあおい飛鳥あすかは帰省。エレンは家族旅行へ。千晴ちはるはIT資格の講習会に参加。

 みなみは早くも「単位がヤバい!」と騒ぎながらも、「新しい服を買った」とか、「有名店のランチに行ってきた」などとSNSで写真を送ってくるので、きっとGWを満喫しているのだろう。


 そしてそらは、丘陵地帯の一角にあるカフェでアルバイトを始めていた。




 「テンちゃん。俺、チーズケーキも頼んじゃおうかな」


 同じクラスの吉野よしの茂雄しげお六ッ川むつかわ陽翔はるとと共に来店している。「はーい」と返事はしたものの、下の名前(しかもアダ名)で呼ぶとは馴れ馴れしい。大学でも”お調子者”と女子たちから陰口を叩かれていることに気付いているだろうか?

 ここでアルバイトをしていることを何処かで聞きつけてきたのか、2日連続で来店している。


 「あら、君たち、すっかり常連さんみたいね」

 声を掛けたのはカフェCielシエルの店長、宮元みやもと澄玲すみれだ。

 旦那さんが経営者で、澄玲さんが店長となっているが、旦那さんは他にも仕事をしているらしく、たまにしか顔を出さない。


 「本当はそらちゃん目当てだったりして」


 店長の言葉に「それ正解かも」と言う吉野。

 六ッ川が目を丸くして聞く。


 「お前、南ちゃん派だっただろ?」


 「いやぁ、そうなんだけど。テンちゃんのエプロン姿もいいなぁって」


 天は危うくチーズケーキを倒しそうになる。


 「それに、スカート姿もなかなか良いじゃない」


 「吉野君は人の外見しか見ないのね…」と天は呆れて言う。




 天はアルバイトを始めてからスカートを履くようになった。今まではスカートは気恥ずかしく感じて敬遠していたのだけど、マキシ丈のスカートなら脚が見えることもなく、服装のコーディネートの幅も増える。

 階段だけは気を付けないと、裾を踏んで転んでしまいそうではあるが…。




 チーズケーキをテーブルに置きながら、吉野に「連休なのに何処へも出掛けないの?」と聞いてみた。


 「昨日は六ッ川と映画に行ったんだよ。ヴィズニーの最新作」


 「そうだったの。今日も映画?」


 「いや。今日は大学に…」


 「大学? 講義にでも出るつもり?」


 ケーキを口いっぱいに頬張って喋れない吉野に代わって、六ッ川が答えた。


 「違うよ。大学の講堂で映画の撮影があるらしいんだ」


 「そうそう。それを見に行く。あわよくば新川しんかわ景子けいこに会えるかも」

 

 「えっ、新川景子って…」




 カラン

 店のドアベルが鳴り、二人の女性がカフェに入ってきた。

 一人は少し年配の、

 いや、その後ろにいるのは―———


 「えっ?」

 「うそ…!」


 店にいた全員がすぐに気付き、そして驚いた。

 新川景子本人だった。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る