第1話 眩暈

 先ほどまで見えていた青空が、急激に真っ黒な雲に覆われて行く。




 貼り替えたばかりであろう真っ白な壁紙に覆われたワンルームマンション。部屋には大小様々な段ボール箱がそこかしこに置かれている。段ボール箱は開封されたものもあり、その中身と思われる服やら生活雑貨が収納途中で放置されているようだ。


 この部屋へ越してきたのは、この物語の主人公”卯月うづきそら”。と書いてと読む。この春から大学へ通うために上京して、一人暮らしを始めることになった。

 引っ越しの荷物も片付け終わらない中、明後日に行われる入学ガイダンスの資料を広げて、新生活を夢見ていたのだ。



 憧れていた都会での生活。大学でやりたいことが色々ある。ゲーム好きが高じて情報工学系の学校へ入ったのだから、もちろん勉強も頑張りたいが、時間に余裕があるようならサークル活動やバイクを買ってツーリングにも行きたい。アルバイトもしないといけないかな。

 それと…、彼女ができたらいいな。


 妄想に花を咲かせていたため、部屋が片付かないでいた。

 引っ越しの疲れもあってか、少し眠くなってきたかも。

 明るく見えていた白い壁紙が、心なしか薄暗い色に見える。いや、実際に部屋の中が薄暗くなっていた。立ち上がって窓の外を見ると上空を黒い雲が覆っている。


 降ってくるかな…?

 外の様子も気になるが、荷物を片付けなくちゃ。薄暗くなった部屋の明かりを付けようとして振り向くと、窓の外から強烈な稲光が白い壁を青く灯し、自身の影を映し出す。と同時に腹に響くような大きな雷鳴に驚かされる。


 「うわっ!」




~~~~~ ~~~~~ ~~~~~


 雷を伴った急激な豪雨は、すぐに去って行き、街は再び青空に包まれていた。


 そらは違和感を感じていた。



 部屋の中は何も変わっていないし、雷による停電も起きていないようだ。

 それなのに、なぜか不思議な感覚がある。まるで自身を俯瞰しているような…。


 「疲れているのかな?」


 顔でも洗ってから、荷解きを終わらせてしまおう。そう思って洗面所へ向かう。


 「えっ!?」


 心臓が止まるかと思った。先ほどの雷の驚きの比ではない。

 顔を洗って見上げた鏡に、女の顔が映ったのだから。


 いや、これは…俺…?

 よく見れば、どことなく自分に似ていなくもない。女の姉妹でもいれば、こんな顔をしているのかもしれないが、俺は一人っ子だ。そして鏡に映っているのは自分の顔でないことはわかる。


 先ほどの、不思議な感覚はこれだったのか。

 それにしても、なぜこんなことに?

 これからどうすればいいのか?

 元に戻るのだろうか?


 目の前がぐるぐると回り、意識が遠のく。





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