早期引退勧告を受けた無能な魔術侯爵の次男坊――セカンドライフはもふもふ娘と怪力メイドの三人でのんびり世界漫遊の旅に出ます

羽柴

第一章

第一話 無能はいらない? そりゃそうだ

「君はクビだ。 ウェイバーくん」


 その一言で俺は魔法省第二安全課を半年でクビになった。

 理由はただ一つ、まともに俺が魔法を使えないからだ。生まれつき魔力をうまく練ることもできない。

 そんな人間がなぜ魔法省という場所に就職が出来たかって? 簡単な話だ。別に何か特殊な技能があるわけでも、秘められた力があるわけでもない。

 しかし俺はこの世で最強の武器を持っている。それは――親のコネ、だ!


 死ぬまでしゃぶろう親の脛と言わんばかりに、俺はいままで猛烈に親の美味しい脛を齧ってきたのだ。


 だがいくら脛を齧ろうとも、実務となると役に立たない者はどうしても役に立たない。

 資材運びや、事務作業のある第二安全課は国営の道路工事や区画整理が主な業務だが、結局のところ現場仕事がメインなのだ。

 人力で荷物を運んでいては日が暮れる。だから魔法で解決するしかないのであった。

 クビだと言われ正直ほっとしている。職場の同僚の冷たい視線にはもう耐えかねていた。我が家は魔導士として、名門中の名門であり、魔法省を束ねる三家の一つに数えられている。そんな家の落ちこぼれがこの俺、ウエイバー・ライラックなのである。


 これで最後だ。俺にクビを言い渡した室長に退職の挨拶をすることにする。


「いままでありがとうございます。室長、ところで? 退職金はでますよね?」


 その一言に、室長の怒りが爆発した。


 ――「はぁ……、あんな怒ることないのに」

 俺が荷物整理の後、魔法省を出てもまだ昼過ぎだった。

 誰にも退職の挨拶はしなかった。求められてもいないだろう。

 夏の日差しは強く、魔法省の黒い制服は熱を持ち汗で視界が霞む。

 着崩すことの許されなかった制服を俺は脱ぎ捨て、家の方に向かった。


 俺は自宅の豪邸へ帰ると、家の前で門兵に止められた。

 門の柱の両脇に立った大男二人は俺が帰ると、槍を交差させ帰宅を阻止したのだ。


「おい? なんのつもりだ? 主の帰宅を阻むとは?」


「本日より、あなたはわれらの主ではなくなりました。ご当主様の命により、お通しすることはできません。またこの書状をお預かりしています」


 大男は手紙を差し出しながらそういった。


 封蝋をしてある手紙、俺はそれを乱雑に開封する。

 そこには、簡潔に一族の恥さらしを追放する旨が書かれていた。

 一に、俺の口座は凍結したこと。

 二に、二度と家名を名乗らぬこと。この場でウェイバー・ライラックは死んだことする。

 三に、家名を名乗ったことが分かり次第、斬首すること。

 我が祖国カーネル王国の王都へのウェイバー・ライラックの出入りを禁じる。即刻退去せよとも書いてあり、どうやら本気で目の届く範囲に俺がいることが気に食わないらしい。手紙はそれだけではなかった。


 そのほかに幾何いくばくかの金銭と、手のひらサイズの薬箱、そして穴の開いた管。

 そして、現在治安が荒れている西の魔族領に掛かる大橋の近くにある街グローダンに行き、好きに生きよと書かれていた。


 どうやら俺は本当に追放されたようだ。

 動揺はない。いつかはこうなるだろうとは思っていたことだ。

 口座の凍結は予想外だったが、手紙に同封された金銭があれば数年は大丈夫だろう。

 俺は薬箱を開け中身を確認すると、黙ってその場を去ることにする。


 こうなっては仕方がない。無能は無能なりに好きに生きよう。

 兄や妹、それに幼馴染に別れを告げられぬのは悲しいが、今生の別れと決まったわけではない。

 魔法の使えない魔法侯爵家の次男に、貴族社会など重荷でしかなかったのだ。今はとてもせいせいしている。

 早めに貰ったセカンドライフを、俺は精々楽しもうと心に決めたのだった。

それがどんな形であってもいい。自由に生きるその為に。

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