第110話諦めさせるためには

高坂昌信「もし極楽寺の周囲を馬場や山県。それに真田の旗で埋め尽くされていたら、信長はどう出るでしょうか?」


内藤昌豊「多勢に無勢。即逃げる態勢に入る事になる。」


高坂昌信「一方、その全てが佐久間の旗印であったらどうでしょうか?」


内藤昌豊「佐久間は……。」


高坂昌信「連吾川に拵えた土塁に布陣しています。」


内藤昌豊「極楽寺に居るはずの無い佐久間が居る……。しかし佐久間は信長の重臣。何か不測の事態が発生しているのは確かな事ではあるが、様子を伺う事になるな。」


高坂昌信「信長は、将軍様に呼応し裏切った松永久秀を許しています。」


内藤昌豊「何故ここに居るのかの事情を聴き……。」


高坂昌信「何か不満に思う事があるのであれば……。」


内藤昌豊「出来る限りの事はするから持ち場に戻ってくれ。」


高坂昌信「翻意を促す行動に出ます。」


内藤昌豊「逃げ出すまでの時間を稼ぐため?」


高坂昌信「はい。ただ目的はそれだけではありません。極楽寺周辺は長篠同様山県が管轄していました。故に土地勘については問題ありません。怠りなく備えをすれば、脱出するのは不可能であります。しかし相手は信長。恐らくでありますが、包囲を盤石にしましても信長を捕らえる事は難しいと見ています。


 そのために必要なのが重臣佐久間信盛の旗印であります。織田信長から見て極楽寺の周りは安全地帯であります。我らがそこに到達するためには信長が仕掛けた連吾川の罠を越えなければなりません。突破は困難であります。仮に突破出来たとしましても時間は掛かりますし被害も甚大。とてもではありませんが信長の本陣に迫る事は出来ません。当初、私もその考えでありましたが……。」


内藤昌豊「酒井の動きを見て、鳶ヶ巣への道を探し当てた?」


高坂昌信「はい。極楽寺周りは手薄でありますし、信長も我らが無傷で攻め込むとは考えていない事でありましょう。極楽寺が攻められる恐れがあるとするならば、味方の裏切りしかありません。」


内藤昌豊「そこに重臣中の重臣である佐久間信盛が裏切り、備えをする必要が無いため何もしていない。信長と身の回りの世話をする者しか居ない極楽寺を狙われ……。」


高坂昌信「佐久間は、美濃尾張への抜け道を知っています。」


内藤昌豊「たとえ包囲を脱したとしても、無事。岐阜に戻る事は難しい。ならばここでと諦める……。」


高坂昌信「その可能性を少しでも高めるために、佐久間の旗印の輸送をお願いしたい。」


内藤昌豊「わかった。ただ断られたら持って帰るからな。」


高坂昌信「ありがとうございます。」

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