第102話まてよ?

私(武田勝頼)「喜兵衛。ちょっと良いか?」


武藤喜兵衛「御館様が呼んでいますので私はこれで。」


高坂昌信「また後で。」


武藤喜兵衛「お願いします。」




 高坂昌信独りになり…。




高坂昌信「酒井忠次はうちの何処を狙って来るのか……。信長は自分の家臣にその事を伝えていない。大岡からの情報が正しいのであれば、徳川家中でその事を知る人物も限られている。恐らく知っているのは信長と家康。実働部隊の酒井と奥平貞能。それに彼らについている者共のみ。


 心配していた川向うの山県の居る有海や同じく穴山の居る篠場野が狙われる心配は無くなった。あそこを狙うためには、酒井は我らが優位となる乾いた大地で戦わなければならない。加えてこれまで出していた囮にうちが乗らない事を知っている。やるのであれば我らを討ち果たさなければならない。そのために必要なのは兵の数を家康の部隊だけで用意する事は不可能であり、家康家中の者共がこの作戦に参加していない事がわかっている。実現させるためには信長の部隊も加えなければならない。となればあそこで信長が酒井を罵倒する事はあり得ない。


 あったとするならば、酒井がこの提案をした時のみ。もしそうであるならば良いのであるが、そのような事はあり得ない。


 長坂が言っていた事は何であったか……。長篠城を救援する事が第一。そして我らを退却させるもしくは連吾川へ引き入れる事を狙っている。と言っていたな。そうなると船を使って入城すると言う選択肢は採らない。一時的に兵糧を満たす事は可能ではあるが、包囲されている事実に変わりは無い。そうなると何処かの部隊を狙って来る事になる。手っ取り早いのは殿の居るここ医王寺の本陣であるが、そこに辿り着くためには寒狭川を越えなければならない。仮に越える事が出来たとしても内藤の居る岩代。更には真田の居る天神山。これらを避け背後に回る事が出来たとしても跡部や小山田が控えている。


 寒狭川では無く、城東岸を流れる大野川を遡る可能性もあるが、そこも大通寺山で馬場が控えている。酒井が用意している兵だけでは殿の命を狙うのは難しい。それに……。」




 最も到達困難な鳶ヶ巣山から全ての様子を伺い知る事が出来る。




高坂昌信「たとえ酒井が奇襲を仕掛けようとしても、長篠城の奥平貞昌が打って出ようとしたとしても、それらの動きを即座に察知する事が出来る体制が整っている。その鳶ヶ巣山に到達するためには川を遡らなければならない。穴山や馬場が捕捉すれば済む話である……。ん!?まてよ?」




高坂昌信「あっ!殿!!」


私(武田勝頼)「どうした?」




 翌日。




「放て!!」




の合図と共に戦闘開始。その場所となったのは……。

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