第100話何かある

馬場信春「高坂。先程から黙り込んでいるが、何か気になる事でもあるのか?」


高坂昌信「いえ。長坂様の考察。御尤もであります。ただ……。」


長坂釣閑斎「別に反論していただいて構わない。いくさの場は何が発生しても不思議な事では無い。可能性のある事はここで出しておく必要がある。」


高坂昌信「ありがとうございます。山県。」


山県昌景「どうした?」


高坂昌信「聞きたくない名前を出して申し訳無いのだが。」


山県昌景「奥平の事か?構わん。」


高坂昌信「ありがとうございます。確か奥平貞能は家康の所に居ると聞いているがそれは確かか?」


山県昌景「これは私の責任であるのだが、うちの軍律から長篠城の拡張に至るまで、奴の発言が考慮されていると見て間違いない。」


高坂昌信「今は何処に居る?」


山県昌景「大岡からの情報によると、酒井の所に居ると。」


高坂昌信「酒井は今行方知れずのハズであるが?家康の陣中に今、奥平は居るのか?」


山県昌景「ん!?」


長坂釣閑斎「なるほど。そう言う事か……。」


馬場信春「何かお気付きになられた事でも?」


長坂釣閑斎「そうだよな……。ただの八つ当たりのためだけに、信長の家臣並びに主君である家康。そしてその同僚が居並ぶ中、信長が他家の重鎮である酒井忠次を罵倒するような真似をするはずは無い。


 織田徳川陣営で長篠周辺の事を最も知っているのは奥平貞能。その案を受けた酒井が提示したわけであるのだから、駄目な案では勿論無い。局面を打開するに足る提案が為されたに決まっている。それは信長も理解している。」


跡部勝資「では何故酒井を罵ったのでありますか?」


長坂釣閑斎「酒井の提案を実行しない事を軍議に参加している者全てに知らしめるためである。」


山県昌景「何故であります?」


長坂釣閑斎「大岡のような事。我らに情報を売る奴が居るかも知れないから。もし酒井が罵倒された軍議の場で、酒井の提案が採用されたとしよう。その中に我らと通じている者が居た場合、間違い無く我らの反撃に遭う事になってしまう。それを防ぐため、敢えてあの場で酒井を罵った。」


馬場信春「では酒井が居ないのは?」


長坂釣閑斎「酒井は既に動き出している。奥平貞能も同陣していると見て間違いない。目的は兵糧の乏しくなった長篠城の救援並びに我らを撤退させる事。もしくは信長が仕掛けた罠に向かって我らを突っ込ませる事。これらを実現させるべく我らの何処かを狙っていると見て間違いありません。」


馬場信春「高坂。相違ないか?」


高坂昌信「長坂様。ありがとうございます。」

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