第96話見込み違い

内藤昌豊「長篠の兵糧庫を焼き落したのは大きかった。」


馬場信春「信長は長篠城に対し、鉄砲弾薬程では無いにせよ兵糧についても指示していた可能性がある。恐らくであるが、我らが抱いていた量よりもかなり多くの兵糧が運び込まれていた事が考えられる。織田が構築した持久戦辞さずの陣構えがそれを証明している。」


内藤昌豊「加えて長篠城の迎撃態勢も万全。どちらも攻める事が出来ないまま、撤退を余儀なくされる可能性が十分にありました。」


馬場信春「故に高坂、山県による兵糧庫の焼討の進言。並びに成功はこのいくさを優位に展開するに欠かす事の出来ない功績の1つである。」


高坂、山県「ありがとうございます。」


馬場信春「この事は信長にとって、大きな見込み違いとなっている事に相違ない。」


内藤昌豊「城の慌てぶり。名も無き鳥居強右衛門に岡崎までの使者を頼まなけばならなかった点からも見て取る事が出来ます。」


馬場信春「一見すると我らが不利な状況にある。城と後詰めに囲まれており、兵の数も劣勢。そんな中にあって、我らの方が有利となっている物がある。そう。長篠の兵糧である。もし長篠に新たな兵糧庫が城内部に建てられていたら話は変わって来るが、内藤の見立て同様。それはあり得ない。城内部は各自が手に持っていた分だけで尽きてしまう状況に陥っているに違いない。」


跡部勝資「そこで鳥居を用いれば?」


馬場信春「彼が我らの指示通りに言葉を発していれば城は落ちた。それは事実である。しかし鳥居の立ち居振る舞いを見る限り、彼は死を覚悟していた。我らの誘いに応じる時も変わらなかった。そのまま城の前に出したら、彼は間違いなく援軍の到着を告げたものと思われる。


 そうなってはたとえ信長が陣を構えたまま動かなかったとしても、城は耐え抜く選択を採る。そして信長の戦闘参加を促すべく、城にある弾薬を全て抱え。弾が尽きるまで我らに向け突進。局面の打開を図った可能性が十分にある。その時標的となるのは勿論、本陣に居る殿であります。今、殿を討たせるわけにはいきません。」


内藤昌豊「そうなりますと我らの戦略は?」


馬場信春「長篠の兵糧が尽きるのを待つ事にする。城の兵糧は、鳥居の報告を受けた信長も把握している事であろう。敵は必ず動く。そして必ず負ける。しかしそれに乗ってはならぬ。罠だ。連吾川に引き入れるための罠である。城からの兵も同様。鉄砲の射程圏に引き付けるための罠である。皆の者。各陣の備え。怠り無きよう。そして決して敵の挑発に乗る事が無いよう厳命する。」


一同「御意。」

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