第95話信長の狙い

山県昌景「これを見た我らが戦わずしてここを離れる恐れもありますが?」


馬場信春「信長はそれで構わないと考えていたのでは無いかと見ている。彼の目的は我らによる長篠城の包囲を解く事にある。ただ正面切って戦って勝てる保証は無い事を信長は知っている。ならば我らが近付く事が出来ない状況を作り、持久戦に持ち込む。後はうちと織田との経済格差。長陣に耐える事の出来る日数の差。当然、織田の方が長く留まる事が出来る。を利用して我らを退却に追い込む。そう考えていたのでは無いか?と。後は……。」


私(武田勝頼)「後は?」


馬場信春「信長の持つ発信力を活用し、武田に勝った事を天下に知らしめる。広報活動に勤しむ事になります。たとえ織田と武田が激突しなくても構いません。どれだけの費用が掛かっても構いません。ただ武田が長篠を攻め落とす事が出来なかった。そこに織田信長が居た。その事実だけがあれば十分であります。これまでのわずか2千で今川義元を斃したと言いふらしているあのいくさや、ほとんど総崩れとなる中、家康に救われた朝倉浅井とのいくさを見ればわかる事でありましょう。」


私(武田勝頼)「もし信長の誘いに乗った場合はどうなる?」


馬場信春「信長は三河にも鷹狩に来ていたと聞いています。当地も見ていると考えて間違いありません。恐らくでありますが今回の坂や土塁。更には柵までを実際に拵えた上、馬を用いての演習を行っていたのでは無いか?鉄砲の弾込めに掛かる時間も考慮に入れながら。その結果、導き出された物が今の陣地となっているのでは無いか?と見ています。」


私(武田勝頼)「突っ込むのは?」


馬場信春「危険極まりない行為であります。」


私(武田勝頼)「今後、信長が前進して来る可能性は?」


馬場信春「流石の信長もあれだけの陣を新たに拵えるのは難しいでしょう。加えてそれを行うためには信長は川を渡り、丘に登らなければなりません。そこには乾いた大地が広がっていますので。」


私(武田勝頼)「馬を活用する事が出来る?」


馬場信春「はい。故に信長もあそこに陣を構えたのでありましょう。今後、信長が出来る事は我らを挑発する事のみであります。乗ってくれば迎撃。来なかった来なかったで別に構わない。」


私(武田勝頼)「同じ事をこちらがやった場合は?」


馬場信春「信長は動きません。動くとすれば家康でありますが、三方ヶ原の経験がありますのでこちらも動きません。このまま時間切れを待てば良い。と考えていたのでありましたが……。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る