旅行先で目を覚ましたら武田勝頼になっていた私。どうやら自分が当主らしい。そこまでわかって不安に覚える事が1つ。それは今私が居るのは天正何年?
俣彦
第1話プロローグ
「海外を旅行するのはいつ以来だろうか。」
2020年の緊急事態宣言発令以来、自宅と職場を往復するだけの毎日。それどころか自宅に設置したパソコンを眺めるだけ日もあったか。それだけで給料が入るのだから。とも思うのではあるが、会う人と言えばいつもの顔ばかり。楽しみと言えば帰りのコンビニで買う晩酌の缶チューハイと、コロナ禍になってから見始めた動画配信のみ。私は何のために働いているのだろうか?
あれから3年。マスク無しで外に出られる時がやっと来た。しかし建物の中や密集した場所では注意は必要。自分が。と言うよりはもし自分が菌を持っていた場合、ほかの人を罹患させないためにも適宜マスクを着用する腹積もりである。
迎えた今年のゴールデンウイーク。溜まりに溜まった欲求を発散するべく、しかし思っていたより残高が増えていない通帳と睨めっこしながら海外へ赴く事にした私。予算の範囲内で。とは言えやる事と言えば現地の酒を飲むぐらい。別に日本でも出来るのでは無いか?そんな野暮な事はここでは言わない。1週間後にやって来る現実を忘れるべく私は、様々な店を梯子する事にした。アルコールが入れば言語なんか要らない。ただ酒を酌み交わし。笑い合えればそれで良い。3年前までは当たり前であったこの光景が今の私にとって。最高の贅沢だ……。
旅行も終盤。とある酒場に入った私に、グラス片手に近づく人が。
「一緒に酒が飲みたいのだな。」
とそのグラスを受け取り乾杯。そのまま飲み干した所で……。
気が付くと私は風呂の浴槽に居た。これでもかと言うぐらい氷の入った風呂の浴槽に。それまでの事は覚えていない。フト右に目をやるとそこには
「命が欲しければここに電話しろ。」
の現地語と電話番号と思しき数字の羅列。冷え切り感覚の無い中、受話器に手を伸ばし指定された番号に電話をする私。繋がった。今の状況を伝える私。それに対し、
「腰の辺りを確認して下さい。」
との電話口のアナウンスに従う私。そこであった事を伝える私。それに対し、
「落ち着いて下さい。あなたは今……。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます