マルブールの赤目烏と滅びの宝飾師
宮之森大悟
プロローグ
プロローグ
アルベリク・ブランシャールは皇紀参世紀末に生きた宝石商である。
半島三十年戦争の引き金を引いたとされる人物でありながら、皇国芸術教育の父とも称され、こんにちに至るまで毀誉褒貶に事欠くことがない。彼が優れた研究対象であることに異を唱える歴史家は少ないであろう。
また、歴史家でなくとも、宝飾ブランド『リアーヌ』や『ジロ』の名は、現代の人間であれば誰もが知るところのはずだ。言うまでもなく、これらはブランシャール宝石店が世界に誇るブランドである。有名芸能人や、一流の財界人などが、著名なイベント会場で着用し誇示する様を、メディアでご覧になった向きも多いかと思う。
近年、工業都市マルブールにある一軒の借家の壁の裏から、アルベリク直筆の手記が発見された。魔商と称される男がその手で綴った記録であり、無論のことながら、第一級の歴史資料である。
発見された状況から、当初は偽書の疑いも掛けられたが、筆跡や紙質、使用されているインクやペンを分析した結果、真筆であることが明らかとなった。
その内容について調査した我々は、これを現代語訳した上で『アルベリクの手記』として出版し、学閥向けに配布した。本書の内容は、この日記の内容を元にして書かれた戯曲である。
元は舞台用の台本形式であったものを、このたび、とある作家の手を借り、一つの物語として本にまとめ、一般向けに出版することとあいなった。機会を与えてくださった皇国出版の方々にはこの場で謝意を示したい。
現代風の仮名遣いで書かれた本書は、一般の方々にも読みやすいものになっていることと思う。
諸氏におかれては、是非この機会に本書を手にとり、このアルベリクという男の真実の姿に触れてみてほしい。そして、彼の人生の影に生きた一人の女性の存在を、光降り注ぐ舞台に引き出していただきたい。
──その女性の名は、ナタリー・ルルー。本書出版時点では、全く無名の宝飾技師である。
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