第7話 平和と戦い
「ご飯ですよー!」
「飯か・・・いったん止めよう」
「ふっ良いだろう。腹がへったしな」
朝早く、ロベルトと共に某はロベルトと軽く刃を交えて稽古した。
ルナどのの呼び声がしたので、朝ご飯を食べに小屋に戻った。
「うむ、旨い!」
朝はこの村で飼っている鳥の卵を焼いて『パン』という食べ物に野菜と一緒に挟んだ食べ物を食べた。
この世界は目だけでは無く、口でも初めてのものを某に魅せるのか。
「あとチチカムです」
「あ・・・チチカム」
チチカムが出てきた。
ツカサどのいわくこのチチカムは大変珍味で高級食材として世界中に出荷され、この村のエルフ達はチチカムで生きているそうだ。
トントン・・・。
朝食が終わると扉を叩く音がした。
アイネどのが扉を開けると、レミどのが2人の同い年くらいの男のエルフを連れて弓を持って立っていた。
「わたしたちも戦います」
3人とも気弱な感じだが戦おうとしないこの村から戦いを志願する者が現れた。
とりあえず中に入れた。
「この村は平和を愛して戦わないのではなかったか?」
「わたしたちが戦わなくなったのは、帝国と戦って敗れたからです」
「アカツキ帝国と戦ったのか?」
「100年前、私たちは小さくても国でした。そしてノム国と争っていました。そして帝国の軍勢がノム国の味方をして、わたしたちは敗れました」
「それでどうなった?」
「初代帝王はわたしたちの暮らしは保証してくれました。しかし国の領土は帝国に献上され、帝国が支配するテイチとして、そして忠誠の証としてこの村でとれるチチカムの売り上げの半分を毎年帝国に献上して、軍を持たないという約束をして今日に至ります」
「ルナどの、ノム国は帝国とどういう関係だ?」
「ノム国は帝国に味方してもらった代わりに、帝国に降りました。王を選ぶときは帝国の許しを得た者でしかなることができません」
そうか、するとノム国の王というのは御家人のようなものか。
「ノム国の王はアカツキ帝国にもの申すことはできんのか?」
「帝国に意見を言うときは他にも発言権のある王達と協力して言わないと、あまり効果はないと思います」
「2人とも、レミさんの話を聞くのだ!」
ルナどのと話をしていたらロベルトに怒られた。
「その100年前の話と今回の依頼がどう関係しているのだ?」
ロベルトがレミどのに尋ねた。
「3代目の時にわたしの父にある噂が流れました。帝国も3代目になりますと力が衰えはじめました。それを好機と見た父が独立を願うエルフ達と帝国に反対する勢力と共に反乱を起こそうと計画を立てたと」
「それで君の父上は?」
「帝国に反逆罪で捕らえられました。父は「計画など立てていない」と主張しましたが、獄中で病死したと帝国は発表したそうです。わたしが5歳の時でした」
「それは過去の話だろう。今回の依頼と何の関係があるのだ?」
繋がらない話にロベルトは首をかしげながら尋ねた。レミどのは一呼吸してから話を続けた。
「10日前、リザードマン達が「俺たちはお前たちの仲間が反乱を起こそうとした証拠を握っている。帝国に知られたくなければチチカムでもうけた金のうち帝国に献上する以外の分をよこせ」と言ってきました」
「そんな・・・」
「ひどい・・・」
「この世界でも野党は質が悪いな・・・」
「反逆者というのは事実なのか?」
「それはどうか分かりません。ただもし、それが本当でそれを帝国が知ったら・・・。おじいちゃんは怖くて自分たちは絶対に戦ってはならないと言い、そして・・・」
「代わりに我ら、冒険者に依頼したと?しかも表向きは、我らが別の者からの要望でそいつらを倒したと」
ロベルトの言葉にレミは頷いた。
「みんなは、帝国に疑われないように自分たちは戦おうとしないんです。でもそれもおかしいんです」
「どういう風に?」
「確かに戦うのは嫌で、怖くて皆さんに助けてもらいたい。でもだからといって、怖いのが理由で平和の中に逃げたくないんです!」
レミどのの言葉は正しい。某は武士のせいか、戦わない奴は価値はないと思っている。
戦いを恐れる奴は誰も守れないし、誰からも守られない。
「とりあずはこれで7対40になったな」
そう言いながら某はロベルトを見た。
ロベルトは承知した。
ルナどのとアイネどのも承知した。
「ところでその弓矢をちょと見せてくれ」
「あ、はい」
エルフの弓矢を見せてもらった。武士が使う弓に比べて小さく表面に模様が浮き出ていた。
外に出てその弓で矢を放つと矢は武士の弓以上に遠くまで飛んだ。
「後で、某の分も用意してくれ」
翌日、皆と共にエルフの弓を使って弓の稽古もはじめた。
「ところでルナどの。冒険者はどのように戦う?」
ルナどのに冒険者の戦い方を尋ねた。
「説明します!まず、冒険者は直接モンスターと戦う者と後方支援をする者とに別れ、直接戦う者は戦士が務め、後方支援をする者は魔術師が務め、まず魔術師が戦う前に戦士に魔法をかけます」
「魔術をかける・・・あの時の魔術か?」
ギルドハウスでルナどのをさらおうとしたオークが、未熟なくせになぜか強かった。
だが、ルナどのの魔法がかかるとそいつを倒すことが出来た。
「わたしの支援魔術は【疾風迅雷(ラピッドサンダーストーム)】です。身体能力が劇的に飛躍して風の如き、速さで動くことが出来ます!あのときのオークにかかっていた支援魔術は、めちゃ未熟でしたね」
「なるほど」
「そして支援魔術でパワーアップした戦士がモンスターと直接戦っている後ろで魔術師が呪文を唱えて攻撃魔術で支援します」
「そういえば浜辺で初めて魔術を見たとき、発するまで時間がかかっていたな。あれでは魔術師が、攻撃されれば危ういのではないか?」
「そのためにも戦士がしっかりとモンスターと戦って魔術師を守らなければならないのです。そして魔術師は戦士を魔法で守ります」
「あの3人のエルフ達にも魔術をかけるのか?」
「大魔術師にでもなれば複数の者にかけることが出来ますが、わたしはまだ未熟者ですので虎吉さまだけです!」
「そうか、お互い守らねばならんな」
「はい!」
冒険者の戦い方は分かった。
よし、この世界で望みを叶えるために戦ってやる。
「いったいどういうつもりだ!」
突然誰かの大声がした。
声がした方を見ると稽古をしているレミ達3人のエルフに数名のエルフ達が集まっていた。
某はレミ達のところに向かった。
「あんたらもどういうつもりだ!我々はこの依頼にはいっさい関わらないはずだ!」
年はいくつか知らぬが、中年顔のエルフが怒鳴っている。
なにゆえそんなに怒っておるのやら。
「この者達は自分の村を自ら守ろうとする勇敢な者達だ」
「それが問題だというのだ!良いか。我々がこうやって村を守っているのは決して戦わないからだ!」
よく分からんが聞いていて腹が立ってくる。
「こういう和を乱す奴が一番困るんだ。何にも分かっていない!」
ガン!
「分かってねぇのはお主だろうが!己が弱いのを棚に上げて、適当な理由で戦えないと言い訳して、誰かに守ってもらって、自分は知らん顔。その上、仲間が立ち上がるとそれを悪と決めやがって!」
やってしまった。
こいつの言っていることに我慢が出来なかった。殴られたエルフは鼻から血を流して信じられない顔をしていた。
周りは凍り付いてた。
「去ね!」
某の一言に、やって来たエルフ達は引き返していった。
某は後ろを振り向いた。
ルナどのの顔に嫌悪感が見えていた。
「・・・・・・えっ・・・と・・・」
何か言おうとしたらルナどのが背を向けて小屋に戻っていった。
「俺も君の意見に賛成だ」
ロベルトが同意してくれた。
「だが、彼女の崇高な思いは無視したくはないが・・・レミどのが戦うのは、やはりまずいのでは無いか?」
「う・・・む・・・」
レミどのは戦えない自分を情けないと思い志願した。その気持ちを某は汲みたい。
だが、確かにレミどのやルナどののような綺麗な人が戦で血を染めていくのは見たくない。
某と同じくロベルトも複雑な気分のようだ。
「わたしは戦います。・・・誰が何と言おうと・・・」
レミどのの強い意志を尊重した。
我らは共に稽古を続けた。
しかし、ルナどのの表情がもとに戻らない。
どうしよう。
「虎吉さま・・・先ほどの事なんですが・・・」
「あ・・・」
夜、リザードマンが夜討ちをしないかと交代で見張りをしていたときルナどのが辛そうにやって来た。
「すいません・・・」
「え?」
「あの時は、何も言えなくて逃げてしまいましたが、虎吉さまは間違っていないと思います。何も言わずに逃げてしまって虎吉さまに嫌な思いをさせたんじゃないかと・・・」
「い、いや・・・そんなことは無い!某のほうこそ、悪かった!」
「・・・わたし、虎吉さまをしっかりと援護します。頑張ります!」
ルナどのはそう言って小屋に戻っていった。
何か某とルナどのと溝を感じた。
某は何を間違えたのだ。
話し合いなど求めないものが己の平和を奪いに来た。奴らが一番、悪になるのはこちらが無抵抗の時。
故に戦う。
リザードマンが来るまで我らは稽古を重ね、某はロベルトと何度も刀と剣で稽古を重ねた。
そして5日目の朝。
「リザードマンが来ます!」
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