第6話 テイチ、アートリア
「あ、あれかテイチ、アートリアとやらは?」
ノム国の都の南側のカルセリ草原地帯にエルフという種族が住むテイチにある村アートリアがあった。
村にいるエルフとやらを見た。
エルフというのは一見すれば耳が長い以外は普通のほっそりとした人間にしか見えない。
だがルナどのいわく、エルフはか細い身体に似合わず寿命が人間より遙かに長いという。
「えっと、役所はここね」
ルナが入り口にある役所と書かれた小屋に入っていった。
「依頼の写しとギルドマネージャーからの保証書です」
役所の仕切りの向こうにいるエルフの男にルナどのとアイネどのが必要なものを渡した。
この依頼主はギルドマネージャーからの保証書も要求している。
ルナどのいわく『ギルドマネージャーの保証書』は依頼中と達成後も冒険者に約束を守って欲しい時に依頼者がギルド本部に依頼するらしい。
そして3人とも冒険者カードなるものを役人に見せた。某はそれを持っていないのでルナどのの『お供』となっている。
男は依頼書を見ると奥に入っていった。その間、我らは壁のそばに置いていた椅子に腰掛けた。
寺で僧侶が椅子に座っているのを見たことがあるが自分が座るのは初めてだ。
何か落ち着かない。
この椅子のせいか。
「馬が欲しいな・・・」
依頼を受けたとき、もう夜になっていたのでギルドハウスとやらは宿もやっていたので、一泊して次の朝に出立。
到着した今は太陽がもう少しで地平線に落ちようとしている。
馬さえあればもうちょっと早く到着することができた。
「俺もそれは同感だ。ナイトにとって馬は欠かせぬものだ」
「お、ナイトも馬が欲しいか!やはり戦いを生業とする者同士そこは同じか」
ロベルトと思わぬ所で意見が一致した。この者とは悪い雰囲気で始まったが、もしかしたら馬が合うかもしれん。
「馬にまたがりランスで突撃して敵を倒したい」
「ランスで突撃?」
突然意味不明な事を言い出した。
「そう、ランスだ!騎乗してランスで突撃する。これぞナイトの誇り!」
「馬に乗ったらまず弓だろう。矢も放たないでいきなり猪みたいに突撃してどうすんだ!」
「何だと!?」
弓という言葉を発したときロベルトの眉間にしわが寄った。
「弓とはなんと卑怯で低俗な!勇敢に突撃をしないで遠くからあのような武器に頼るとは、武士とは蛮族の極み!」
「なんだとてめぇ、武士を蛮族と言いやがったか!」
「虎吉さま落ち着いて下さい!」
ルナどのが某を止めようとしたが、某の怒りは治まらない。
やはりこの騎士とは馬が合わなかった。戦の常識である騎馬からの弓を卑怯で低俗と罵った。
この騎士とかいう奴は戦の心得も知らんのか。
「武士は弓と太刀を使って、蒙古を退けた!14万の大軍だ!」
そういった時、ロベルトの表情が変わった。
「蒙古を退け・・・ま、まさ・・・いやっ!」
「冒険者の方達ですか?」
喧嘩している所にフードとかいう着物で顔を隠した背の低い者がやって来た。
「いかにも」
某が答えた。
「依頼した者です。案内します」
フードをかぶった者は辺りを見渡しながら村の入り口を出て森の中に入り、少し進んだところにある屋敷まで我らを案内した。
我らは導かれるがまま中に入った。
「ツカサのロドです」
白いヒゲを生やした威厳のあるエルフが現れた。我らを真ん中の大きな文机の周りに置かれた椅子に座らせた。
「初めまして。わたくしアートリアのツカサの孫娘のレミと申します」
案内人がフードを脱いだ。現れたのは見たところルナどのより少し若いエルフの娘だった。
だがルナどのいわく、エルフの寿命は長いので100歳生きても容姿は15歳の時と何一つ変わらないそうだ。
「ルナどの、ツカサとは何だ?」
「ツカサは、帝国からテイチを治めることを仰せつかった者のことです」
すると、この娘は帝国に奉公する御家人の孫娘ということか。
「みなさま、チチカムをどうぞ」
レミどのが木の筒状の器を人数分持ってきた。器の中には液体が入っていてその中に双六ほどの大きさの粒がたくさん入っていた。
「ズズ・・・」
うーむ、不味くは無いが。
「チチカム最高~!」
ルナどのは大喜びだったが、某は飲もうとする度に、この粒を噛まねばならんのが気になる。
食べるのか飲むのかはっきりして欲しい。
「ツカサ、ロド。今回の依頼にはおかしなところがある」
ロベルトが尋ねた。
今回の奇妙な依頼。
それは依頼書には、どこぞの商人が依頼したことになっていたが現れたのはツカサ自身だった。
ギルドハウスの主が申すには、依頼人は確かに商人が出していたとの事だった。
「それには理由がありますが話すことが出来ません。しかし報酬はしっかりと払います。どうかお助けください」
「盗賊はどれくらいいるのだ?」
ロドどのは話そうとしないので某はとりあえず敵の数を尋ねた。
「40匹ほど」
我らの10倍の数か。
10倍以上の蒙古とも戦ったことはあるが、やはり数において不利なのは事実だ。
考えながら、小屋を見渡していると弓を発見した。
「お主らはリザードマンと戦おうとはせんのか?」
ロドどのに他の者に頼る前に自分たちで退治しないのか尋ねた。
「わたしたちは弓を使って狩りをすることはあります」
「リザードマンも弓を持っているのか?」
「いえ、彼らは弓を持ちません」
その返答に勝機を見いだした。
「それならば敵を弓で射貫けばよい。相手が弓を持っていないなら、なおさらこちらに有利だ!」
「わたしたちは平和のため戦えません。それで冒険者の皆さんにお願いしたいのです」
平和を理由に戦えないのか。
我らに微妙な空気が流れた。
「あの・・虎吉さま・・・今のうちだったら断ることもできますよ」
ルナどのがそっと耳打ちしてくれた。
退くも兵法とは言うが。
「ルナどの、怖いか?」
「いえ、怖くありません」
「おい、ナイト。お主は怖いか?」
「ロベルトだ。ナイトを馬鹿にするな。アイネさま!」
「はい」
2人もためらうことなく承諾した。
「我らが戦うよ」
その言葉にロドどのとレミどのが喜んだ。
「ありがとうございます!リザードマンを退治してくれたら、レミを」
「レミどのがどうなるのだ?」
レミどのはうつむいていた。
「素晴らしいエルフの男に嫁がせることができます!」
うつむくレミどのの側でロドどのが笑顔で言った。
「レミはもう15になります。リザードマン達が花婿がやって来る道に潜んでいるせいで花婿が来れないのです。だが、リザードマン達を退治すればレミの前に立派なエルフが夫としてやって来ます!」
「・・・さよか・・・」
「リザードマンを退治したあなたは勇者として、たたえましょう!」
「・・・さよか・・・」
話は終わり、我らは村の離れの丘にある客人用の小屋に泊まった。
「なんだこの柔らかさ!?」
フスマ(掛け布団)しかかけて寝たことの無い某は、はじめて見たベッドというものに感激した。
「わたしがこの村の食材を使って料理を作ります。ルナさんも手伝って下さい」
「はい!」
ルナどのとアイネどのが料理を作った。色々な具材を鍋に入れて煮たクラムという食べ物だった。
「お、これは旨い!」
柔らかく煮込まれた肉や野菜が桜色した不思議な汁と共に喉を伝い胃袋へと落ちていく。
先ほどのチチカムに比べ、このクラムなる料理は胃袋を掴まれた。
食事がすむと、某は稽古のため外に出た。
山のような大きな月が草原を照らし、その草原の向こうにとてつもなく大きな森が見えた。
「虎吉」
ロベルトも騎士の剣を持ってやってきた
「蒙古に勝ったというのは本当か?」
「ああ」
「・・・少しだけ負けを認める」
「どういう意味だ?」
「俺がこの世界に来たのは蒙古に負けたからだ!」
ロベルトは拳を握りしめた。
「俺は負けた時、死にたいと思った。そんなとき、アイネさまに出会った。アイネさまはとても美しく、高貴なお方で俺はアイネさまを守護聖人と思っている」
「守護聖人?」
「その人のように清らかに生きることで、神の加護を受けるのだ」
武士で例えるなら、弓矢八幡という武運の神として我らに崇められている八幡神か。
つまりアイネどのはロベルトの八幡神。
で良いのかな。
「アイネさまは狂いつつあるこの世界を救おうとしている。俺はアイネさまに力をかしてこの世界でナイトの強さを証明する!」
戦に負けたようだが、闘志をみなぎらせる眼を見ると馬が合わんとはいえ、騎士も戦う者だ。
ナイトの戦い方を少し認めようか。
「だが、負けを認めても弓は認めない」
このやろう。
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