大団円・鬼狩り紅蓮隊、都に帰るの事(その二)
「んが……」
ようやく金平が昼寝から目を覚ました。だらしなく開いた大口の
「ぐはー、良く寝た。ん?お前今誰かと話してなかったか?」
「いいえ……」
「ふーん。まあいいや。んじゃ、行くか」
と何事も無かったように下山の準備を始めた。頼義はそんな彼の姿を呆れたように笑う。
「なんだよ気持ち
彼女に笑われて金平はなんとなくバツが悪くなって話題を変えようとする。
「……ところでよ、結局俺たちが倒したのは『
「さあ、果たしてどちらだったのか。そもそも、どちらがどちらであったかなどは、
「あん?どう言う意味だ?」
「……
「はーん、一緒に一つの身体を使ってるうちに魂までゴッチャになっちまったってか?」
「そういう事。『彼』もまた自分の記憶が『良門』のものなのか『忠常』のものであるのかわからなくなっていたのでしょう。あるいは自分が『良門』と思い込んで本体である『忠常』が話していたり、逆に分身である『良門』の方が自分を『忠常』だと思い込んでいたり……」
「……焼け跡に死体が残ってたんだろ?『鬼』だったら死体なんざ残らねえよなあ。理屈は知らんがアイツらは死ぬと真っ黒な炭の粉になる」
「ええ。だからつまりあの死体は……
「…………」
「よしましょう。『彼』が何者であれ、これ以上事を大きくしないのであれば今我らが手を出すいわれもないでしょう」
「もし、またあの野郎が良からぬ事を企んだなら?」
「言うまでもありません。斬ります」
事もなげにそう言って
「あとは『
金平は死んだ渡来人の長である
「……彼は、願ったのでしょう、遠い自分の故郷である王国の再興を。どこであっても、どのような形でもいい、かつて祖先が築いた繁栄の都市を、この地上のどこかに築こうと。どのような手段を用いてでももう一度と」
「へっ、それで最期があのザマじゃあ野望もクソもねえな。長生きした分だけ哀れなもんだ。最後の最後まで『アレは儂のもんだ』って喚き散らしながらおっ死んじまいやがって、救われねえ」
「そうね……ただ、彼は知らなかったのよ」
「何をだ?」
「彼らの一族、『ハッティ』と呼ばれた人々は自分たちの王国が滅んだあと、長い……本当に長い年月をかけて少しずつ少しずつ世界に散らばって行った。それこそ何千年という時間をかけて」
「おう」
「その中にはね、羊太夫の
「氏名を?」
「そう……『
「はあ!?なんだと!?」
話半分に聞いていた金平はその名を聞いて急に真顔になった。顎が外れんばかりに大口を開け、目を見開いて驚いている。
「秦って……
「そう」
「……マジか……」
金平は絶句するのも無理はない。秦氏はこの国において最も古くから入植してきた渡来人の部族であり、
そもそも、村上帝が記した日記である「
「
「そう、『ハッティ』はとうに築いていたのよ、自分たちが望み、求めた『王道楽土』の
「そっか、そうかあ……」
金平は呆然と遠くを見るような仕草で呆然としていたが、突然我に反り、
「で、なんでお前はそんな事を知ってるんだオイ?」
「そりゃあ……彼らの祖である『
そう言って頼義が目を開き、「八幡神」のその青白く光る目で金平を見つめた。
「わあっ!っと、テメエま〜た性懲りも無く出てきやがってこの野郎!……あ?テメエが手引きしただとお!?」
「そうだ、『私』が彼らを招き入れ、技術と文明の伝播の手助けをしたのだ。『私』が人間の姿で、この国の帝として統治していた時にな」
「か〜っ、まったく、どこにでも顔出してきやがるなテメエは!?ヒマなのか?ヒマ人なのかテメエは!?」
「曲がりなりにも『神』である『私』に向かってそこまで言う阿呆はお前くらいのものだぞ小僧。まったく、
「ああ?なに言ってんだテメエ、テメエは『源氏』のご先祖さまなんだろうがよ?なんで『
相変わらず金平はこの「神様」に対して辛辣である。多分に私情が混ざっている。
「ふん、まあ聞け。『私』が『八幡神』として最初に祀られていたのは
「な……!?」
「ふふん、その『香春神社』は三つの霊山からなる聖域だがな、そのお山のうちの一つはその名も『
「…………」
「……だ、そうです」
目を閉じて『源頼義』に戻った彼女の頭を、金平がパコーンと音を立てて叩いた。
「いったあーーーーーい!!!!何するんですかバカー!!主君の頭を叩くとは言語道断、手打ちにしてやるそこに直りなさい金平!!」
「うるせーバカー!!そんなに簡単に乗っ取られてんじゃねえよこのガキんちょが!!」
「乗っ取られたわけじゃないもん!!ちゃんとお話ししてお譲りしたんだもん!!なによまた人のことガキんちょ呼ばわりしてこのうすらデカちん!!」
「なんだとー!?」
「なによー!?」
二人の喧嘩声が比叡山……かつて
「やすかた、やすかた」
と鳴いている声が聞こえた。
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