下総千葉郡千葉妙見社・頼義、忠常、一騎打ちの事
群がる
が、骸骨兵は倒しても倒しても、いくら七星剣がそれらを炭の粉に還してもその度に新たに地面から生まれ、また頼義たちに襲いかかる。
「うおおおおおおおおおお!!!!!!」
坂田金平が咆哮を上げて
頼義はその隙を逃さず七星剣の光龍を忠常たちに向かって飛ばす。二人の「千葉小次郎」は怯む事もなく襲いかかる光龍を払いのけ、その攻撃をかわす。が、その光龍たちの攻勢に合わせて勢いよく飛び込んできた頼義の一頭を完全には避け切ることができなかった。
「くっ!?」
小次郎の片割れが左目を押さえて後退する。先程
「貴様ァッ!!」
激昂して小次郎が叫ぶ。が、頼義はなぜかそちらの「小次郎」には目もくれず、もう一人の方の「小次郎」にだけ注意を傾け、刃を向けていた。
「おいっ、向く方向が違おう!お前の相手は俺だ!なぜこちらを向かぬ!?」
重ねて侮辱を受けたと感じたか、片目の方の小次郎がさらに怒りの度を増して頼義に叫んだ。だが頼義は一向にこちらの「小次郎」には気にも払わず、ひたすらにもう一人の方の「小次郎」に対して剣を振るっていた。
「貴様あぁっ!!」
「おおっと!」
怒りに任せて剣を突き立てようとする小次郎を金平の剣鉾が立ち塞がった。
「オメエの相手は俺だ
「!?そういう……事かあっ!!」
片目の小次郎が金平の剣鉾を払い上げてさらに突進して頼義に向かおうとする。一瞬バランスを崩した金平の巨体の陰から抜き打ちで何者かの一刀が小次郎に向かった。その剣を辛うじてかわした小次郎は再び距離をとって忌々しそうに叫んだ。
「
金平の背中から幽鬼のように細々とした気配の
「邪魔立てするか雑魚ども!ならば
小次郎が手にした太刀を大振りにして金平と光圀に襲いかかる。周囲の骸骨兵も小次郎に従って二人を取り囲んだ。
「おう上等だこの野郎、やれるもんならやってみやがれゴルァ!!行くぜおっさん!!」
「おっさん……」
こんな状況でも金平に「おっさん」呼ばわりされることの理不尽に納得がいかないのか、渋い顔をしながらもそれでも再び鞘に納めた愛用の太刀を存分に振るって迫り来る使い魔の襲来から頼義を守る。先程のような無念無想の境地は既に遠のいていたが、それでも技の冴えは一向に衰えること無く、次々と骸骨兵を薙ぎ払い、小次郎の剣戟を防いで行く。
その間、頼義はもう一人の千葉小次郎と幾度も刃を交えていた。細身の
忠常はこの年若い盲目の少女がこれほどの剣技を振るう事実に驚愕していた。頼義もまたこの由緒正しいとはいえ一地方貴族の身に甘んじていた男がこれほどの剛力と剣技を備えていたという事実に舌を巻いていた。互いが互いを見くびっていたわけでは無い。ただ共に己の予想以上に相手の剣技が上回っていたがために、二人の交戦はいつ果てるとも無く続いた。
それでも頼義は迷うこと無く忠常に向かって七星剣を振るった。
そう確信した頼義は、初めから狙いを平忠常ただ一人に定めていた。彼さえ討ち果たせば、分身である千葉小次郎もまたこの世に留まることは叶わないはず。残された分身があと何人存在するか知れぬが、この忠常本体を倒しさえすれば残された分身たちも道連れに黄泉路へ送り返すことができるだろう。少なくともこれ以上「千葉小次郎」が増えることは無い、頼義はその一点に賭けた。
「はあっ!!」
頼義が七星剣の光龍を放つ。七星の光は再び光の龍となって忠常に襲いかかった。忠常はそれでも一つ一つ確実にその光龍を打ち返して行く。頼義は手を緩めること無く
「
と高らかに叫ぶ。その瞬間頼義の手に空中から発した白雷が集まり、身の丈ほどもある大弓が手中に突如として現れた。それはかつて頼義が「八幡神」と合一した時に彼の者より譲り渡され、「玉藻」と名乗る妖狐「白面童子」の半身を吹き飛ばした、「鬼狩り」の聖弓だった。
頼義はすかさず「龍髭」の大弓を
「南無八幡大菩薩、我に七難八苦を与え給え!!」
頼義の祈りにも似た絶叫と共に、光の矢は「龍髭」の大弓から放たれた。
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