下総千葉郡千葉妙見社・千葉小次郎、鬼狩り紅蓮隊と対峙するの事
その場にいた全員が氷の塊を飲み込んだかのような重い感情に押し潰されて行った。金平がこの寒空に脂汗を流しながらゴクリと唾を飲み込む。今、この男は何と言った?
犯した?犯したと言ったのか?実の姉を?その手で?
「くくく、この身は我が甥の身体、かの身は遠き縁類の身体、肉体的な繋がりは他人の
「…………!!」
頼義は顔をしかめる。穂多流は顔を青くして口元を押さえた。まだ年若いこの子にとって、今の小次郎の話は半分もその意味は通じていないかも知れない。それであるならばまだいくらか救われようものだが、それでも今この男が語ったことがどれほどおぞましく悲惨な事であるかはこの年端もいかぬ少年にも十分に理解できた。
「俺は理解した。自分が人間としてのあらゆる
自らの言葉に奮い立ったのか、上気した顔を震わせて恍惚とした表情を見せる小次郎に対して、頼義の態度は意外なほどに
「哀れな……まことに、哀れなヤツ」
「……なに?」
頼義の言葉に小次郎が色めき立つ。今の言葉を侮蔑と取ったか、小次郎の目に怒りの炎が宿るのが見える。頼義はその小次郎の忿怒の表情に面と向かって静かに言葉を続けた。
「そこまで己の心を真っ黒に塗りつぶさねば、お前は鬼になり切れなかったのか。悩み、泣き、苦しみ、無限の
「貴様……!!俺を、この俺を愚弄するか!!この俺に人間としての情なぞもはや無い、いや、そもそも初めから持ってなどはおらぬわ!!この身を復讐に捧げた時、すでに俺は『鬼』となったのだ!!全てを喰らい、全てを犯し、全てを殺し尽くす、第六天の魔王になあ!!」
「ならば来い、鬼よ。その怨念、我ら『鬼狩り紅蓮隊』が貰い受ける……!!」
「やってみろ人間!!源氏の子よ!!」
小次郎が
「…………!?」
次の瞬間現れたモノに、金平も穂多流も驚きの声を上げた。
「貴様らの相手なぞこれにて十分、さあ
小次郎の声に呼応するかのようにして地面から這い出してきたのは、何十体もの人骨の兵士たちだった。それらは一様に錆びた刀を手に引っさげ、見た目に反して滑らかな動きで素早く頼義たちを急襲した。
「こ、こいつは……まさか、さっきの……!?」
金平の叫びに小次郎が笑いながら答える。
「いかにも、我が姉滝夜叉姫の、文字通り骨髄にまで達した恨みと憎しみ、その全てをかたどった我が姉の骨片より生まれし
たちまち何十という数の
その腕がことごとく叩き折られ、虚しく宙を舞いながら真っ黒い炭の粉へと変じて行った。
「
今叫んだのは頼義だったのか金平だったのか、それとも小次郎だったのか。気がつくと、頼義たちと
「ああ?光圀、今さら貴様が何をしようという?鬼にもなり切れず、さりとて
小次郎の罵倒とともに
「!?」
今のそのあまりに見事な手際に、金平も小次郎も目を見開いて驚きの表情を見せた。
(
確かに化け物たちが襲いかかるまでは光圀の太刀は鞘に納まったままだった。それが次の瞬間にはすでに太刀筋は弧を描いて襲撃者たちを通り抜けていた。抜いた太刀の気配が、
「光圀、貴様……」
小次郎が声を振り絞ってそれだけをかろうじて呟く。
「……達したか光圀。
小次郎の怒声に光圀は静かな面持ちのまま答えた。
「否。全ては虚しいだけよ。義も無く孝も無く忠も無い。この身にあるのはただ剣のみ。もはや
初めて光圀は小次郎の目と正面から向かい合った。
「
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