第26話 条件
突然、王の間にビンデとルーカスが姿を現した事にアムストロング、センスたちは驚きの声を発した。
「やっぱり、魔法使いだったか」
ミターナがビンデに詰め寄ろうとして、剣の先に怯えて下がる。
「何やつ?いつの間に?」
十数人の黒装束が二人に向かって剣を突きつけるが、縄を解いてもらったルーカスが剣を奪い取り、瞬く間に倒してしまう。
一同の動きが止まる。ルーカスが剣を構え、威嚇をする。
「ノースランド・ビンデって者だけど、一つ聞かせてもらっていいかな?」
一同の動揺しているの中を落ち着いた声で、ビンデは話し始めた。
「あんたたちが用のあるのは、国王や国のお偉方なんでしょ?だったら、関係ない連中は今すぐ解放してくれてもいいじゃない?」
「悪いがそれは出来ない」
アムストロングはきっぱりと言った。
「なぜ?」
「この戦いは聖戦だ。この場にいる者を解放したら、この先、曲がった情報が外部に漏れるやもしれん。全てが終わるまで、解放する訳にはいかない」
「つまり、自分たちのしていることが疚しいと認めているって事?だから、ここで起きた事を外部が知るのはまずいと思っているの?」
「ノースランド君と言ったね?」
センスが話しかける。
「我々は正しいことをしている。ロス王にこのまま国を任せていれば、国は亡ぶ。それは君もよくわかるだろう?だから、我々は立ち上がった。国の為に、国民の為にだ。しかし、宮殿内には、事態を知らない兵士たちもいる。その者たちは、命令に従い、王を守ろうとするだろう。我々は同士討ちをしたくないのだ。我々が国王を処刑し、サウズ・スバートを統治するまでは余計な混乱を招きたくない。君たちもそれに協力してくれないか?」
「つまり、全員を口封じするってことだよね?」
「そこまではしない。しばらくの間、牢屋に入っていてもらうだけだ」
「ふーん」
ビンデはグルムングと目が合うとグルムングは目を逸らした。
「ノースランド、余を救うのじゃ」
ロス王は二人の兵士によって、両肩を掴まれ、力で、床に跪かされる。
「エントラントと手を組むの?」
ビンデはそれを無視して聞いた。
「そうだ」
センスは頷く。
「じゃあ、ユアル・サリナスがサウズ・スバートを支配することになるの?」
「ん?……いや、まさか。彼らとは今後、同盟国となり、国交を始める。そして、サウズ・スバートは王制を廃止して民主国家になる。国民が国のトップを決めるのだ。素晴らしいと思わんか?」
「そう上手く行くかな?」
ビンデはルーカスを見た。
「ユアル・サリナスは戦争国家だ。常に資源がないのを他国から奪って大きくなった国だし、今までどの国とも対等に同盟を組んでいない。エントラントも属国だしね」
「我らは別だ。彼らは、サウズ・スバートの力を恐れている。あくまでも同盟を望んでいる」
アムストロングは言った。
「内情が混乱しているような国を恐れているかな?大昔ならいざ知らず、現在のユアル・サリナスはサウズ・スバートより文明が進んで、まともに戦えば、勝てないんじゃないかな?それを軍部も大臣も分かってないなら、この国は本当に終わってるね」
「なんだと?」
センスとアムストロングが同時に声を上げる。
「奴等が恐れていたのは余が居ったから。余が居ったので今まで攻めてこれなんだのだ」
ロス王が、ビンデたちを見上げて訴えた。
「それもどうですかね?……まあ、それは置いといて、とにかく、この反乱が上手くいくかどうか?正直、危なっかしいと思うんだよね。あんたたち、ユアル・サリナスに騙されているんじゃない?」
ビンデはグルムングを見た。
「違う、私はただの行商人だ。そんな大それたことが出来るはずがない」
グルムングは懸命に否定する。
「キサマ、さっきから言いたいことをぬかしおって。邪魔だてするなら、お前も処刑せねばならんくなるぞ」
アムストロングが手を挙げると、兵士が剣を構え、ビンデたちににじり寄る。
「……聞く耳なしか。王様。もし、この窮状を救うことが出来たら、わたしの願いを聞いてくれますか?」
ビンデはロス王を見て聞いた。
「ああ、よかろう、聞いてつかわす。なんなりとな。今すぐ余を救うのじゃ」
ロス王は大きく頷いた。
「殿下、この者に助けを求めるとは……」
ミターナが情けない声を上げる。
「そんなことをさせるか」
「ちょっと待って」
ビンデは両手を前に差し出して、制止を願った。
「僕と王様の話を聞いてから判断してもらえませんかい?」
自然、兵士たちの動きが止まった。
「それでは僕の願いをいいます。まず、ここにいるすべての者の罪を問わないこと。そして、彼らの要求を、一部を除きすべて呑む。どうですか?」
ビンデはロス王の目を見て言った。
動揺が、兵士たちの間からも漏れる。
「殿下、そんな要求を呑んではなりませぬ」
ミターナが金切り声を上げた。
「えっ?いいんですか?このまま行くとあなたたちは確実に処刑されてしまいますよ。それなら条件を飲んで、救われた方がよいと思いますが……」
ビンデの言葉にミターナは息を飲んだ。
「一部とはなんじゃ?」
ロス王が忌々し気に聞いた。
「王制はそのまま。ロス王にはそのままの地位で居てもらう」
「バカな。それでは何にも変わらんではないか」
センスが叫ぶ。
「いや、全然違いますよ。あなたたちの要求が通るのですから。しかも罪に問われずに。これなら争うもなく、ユアル・サリナスに支配されることもない。どうです?すべてが丸く納まるでしょう」
ロス王はうなだれるように頷いた。
「わかった。罪に問わん……そち達の言い分も飲もう」
「だってさ。どうする?」
アムストロングはキッとビンデを睨んだ。
「とんだ茶番だ。お前には、王の傲慢さと利己的な性格を分かっていない。約束を守る訳がない」
「約束は守る。約束する」
無感情にロス王は言葉を連ねる。
「フンッ。かつて、あんたが言ったことが守られた試しがあったか?デートラインで死んでいった兵の家族への保障も支払われていない。税は年々上がるのに生活は苦しくなるばかり。不作の農村では、何の援助がなく、今も生死の狭間を彷徨っているんだ。こんな国にした王を、誰がこれ以上、信じられるというのか?」
「確かにその通り。俺もいろいろと文句がある。でも、ここで王制を廃止して、国王を殺せば、国が変わるという考えはどうかと思う。せめて、国民に是非を問う事をしてもいいんじゃないか?先走り、勝手にエントラントやユアル・サリナスと手を組んでサウズ・スバートを無くしてしまう方がよほど罪が重いぞ」
「失くしはしない、生まれ変わるのだ。本当の意味での民主主義が始まるんだ」
ビンデの言葉に、センスが叫んだ。
「ヤツの御託に惑わされるな。所詮、魔法使いだ。まやかしの存在。構わんから早いとこ殺ってしまいなさい」
グルムングがけしかけるように手を振る。
そのときである。王の間に続々と援軍の黒装束の兵士たちが入って来た。
「よし、かかれ」
アムストロングが合図を送ると黒装束が一斉にビンデに向かってきた。
ビンデは兵士たちの攻撃を躱しながら、ルーカスの陰に隠れる。ルーカスは信じられない強さで兵士を倒していくが、それでも兵士の数はどんどんと増えてゆく。
「何をしておる、ノースランドよ。余を助けよ」
ロス王がビンデに向かって叫ぶ。
グルムングがどさくさに紛れ、テラスの先に立ち、懐に忍ばせた手筒に火をつけた。
それは花火で、上空に打ちあがると合図となり、王宮外の空き地で待ち構えていた馬車の荷台の布が取り払われ、大きな筒状の花火が現れた。その筒に火を付けて、大砲のような花火がグララルン・ラード遥か上空に打ちあがった。
グララルン・ラードの市民は、夜空を彩る花火の光に呑気に歓声を上げた。
玉座で戦っていた者たちも上空に視線を奪われる。
セッツは衣装を脱ぎ捨て、マントを被ると例の奇妙な男に変装した。そして、魔法の絨毯の切れ端を取り出し、地面に引くと、それに正座で乗り込んで移動を始めた。
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