第9話 お座敷遊び

 ドラマや映画の中でしか見たことがない、芸者さんとのお座敷遊び。

 ホストとゲスト、合わせて十五名様ぐらいの小じんまりした接待のお部屋でした。


 先に来店していたホストの幹事さんが、せっかく芸者さんを呼んだんだから、踊りや唄の鑑賞以外に、お座敷遊びもぜひしたい。

 もうすぐホストも到着される間際になって言われました。


 私ではお返事できませんので、ベテランの仲居さんにご報告。

 すると、やはり『遊び』の打ち合わせまではしていなかったようでした。

 控室では、お部屋に呼ばれた芸者さんが三味線を軽く爪弾いて、既に音合わせをしています。

 

 ベテランの仲居さんは少しだけ困った顔になりました。

 そして、「余興で何か出来ないか、ねぇさんに聞いてきますので」と言い、立ち去られた。


 芸者さんに確認します、じゃないんです。

 姐さんに聞いてきますので、なんて粋でした。咄嗟に口には出来ませんよ。

 さすがはベテラン。

 肌がゾクリと粟立ちましたね。これぞ料亭といった貫禄がありました。


 程なく戻っていらしたベテランさんは、野球拳と金毘羅船々こんぴらふねふねぐらいなら大丈夫だと、幹事さんにご報告。

 私もなまのお座敷遊びを見るなんて、当然初めて。

 この時は仲居になって本当に良かったと、感激しました。


 控室から芸者さんと舞妓さんもお部屋にいらして、ベテランの仲居さんとホストの幹事さんと打ち合わせを始めます。

 そんな時、舞妓さんが踊りを披露する『舞台』として、板間に敷かれた緋毛氈ひもうせんの端っこを、私は踏んでしまいました。


 すると、舞妓さんの顔つきが一瞬にして変わりました。

 めちゃくちゃ恐い顔で睨まれました。もう殺意に近いぐらいの目の色です。すぐに謝りましたけど、あの目は今も脳裏に鮮明に焼きついています。

 すみませーんと、土下座したかったぐらいです。

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