第3話 料亭の化粧事情

 仲居として働き始めて、先輩からも支配人からも「ちょっとお化粧が薄いかな」「もっと口紅を赤くしたら?」と言われました。

 私はOLしか経験のない社会人ですので、「えっ?」と思いました。

 会社では無駄に化粧がケバイと悪口を言われるOLはいても、薄いと叱られるOLはいませんでした。


 数奇屋造りの古い家屋でしたので、照明も当然薄暗い。

 化粧が薄いと顔がぼけてしまいます。


 しかしながら、今の化粧の何がダメで、どうすればいいのかが、わからない。

 私はタカシマヤの化粧品売り場に行きました。

 そして化粧のプロフェッショナルの販売員さんに事情を話し、私の顔にもTPOにも最適な化粧を教えて欲しいと頼みました。


 目が大きくて目力がハンパない自覚がある私の場合、目元に凝ると宝塚歌劇団みたいになりかねない。

 販売員さんは「お仕事柄、華やかさの中にもキリッとした印象も加えた方が、仕事がデキる女に見えますよ」ということで、アイシャドウはブラウン系のグラデーション。

 アイラインはしっかり引きますが、マスカラは控えめ。

 アイシャドウにはキラキララメを仕上げに乗せます。アイシャドウにラメなんてつけたのは初めてです。


 目元の化粧は控えめにした分、リップは派手なローズ系。

 こちらも上唇にグロスを乗せます。


 どうやら着物に負けない華やぎは、キラキラと、しっとり艶感が決め手のようです。


 私は販売員さんに奨められた化粧品一式を購入。

 翌日、言われたままにお化粧をして出勤したら、仲居さん方に、どよめきが。私に何事が起きたのかと。

 

「やっと、お化粧してきたの?」

「あんた、今までスッピンだったじゃん」


 とりあえず、この濃ゆいメイクは仲居さんや支配人から歓迎されました。ですが私、ちゃんと化粧してました! そこまで非常識じゃありません!

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