24 姉妹、共闘を提案される
この世界に存在している三つの【
特性や強度、個性として比喩表現的な「色」ではなく、視覚的な「色彩」が。
藍色の【
真紅の【
黄金の【
【
この世界に存在する全てに宿っているが、それを効果的に運用したり活用するには、一定以上の能力が必要だ。
【
個人による強弱はあるものの、それを発現させるのが、それら戦士たちのステータスとなっていた。
経験と本能で覚醒させる者が多く理論立てが難しいため、脳筋の証明とも言われているが。
【
主に神職や、それらに属する『
とある理由から、この世界で唯一ナディのみが覚醒している【
同じくとある理由で、唯一レオノールのみが覚醒している【
それと厳密には違うが、ヴァレリーの【
それら【
しかし【
事実、誰かさんが子供の教育のためにと、とある自筆の書籍をプレゼントした某辺境都市の貧民街にいる子沢山な家庭では、全員が三色のうちのどれかを発現させていたりする。
貧民街在住だからか、全く周知されていないし本人たちもよく分かっていないようだが。
最初に【天装魔法】を発動させたときに発現した光色は、【
そして文字通り横槍を入れられたため、実験を妨げられてブチ切れたナディが次いで発現させた光色は赤紫色。【
「【
効果が違う【
「【
新たな強化魔法を発動させる。
「【
そして同じく真紅と蒼白の刃が出現して翼となった。
その数、三十六対。よって背で展開している刃は、計七十二枚。
「ふうん。やっぱり全能力強化の【
自身の周囲に翼の刃を縦横無尽に走らせ感覚を試し、一人頷くナディ。
その見たこともない強化術式を目の当たりにした金髪碧眼の美丈夫は、意味が分からず絶句していた。
対してレオノールは、その新たな強化を見て「さすおね」と言っているのはいつものことだ。
「よし。さっきのはノリと勢いで【
横槍には業腹だったが、思い付きがうまくいったため途端に機嫌が良くなる、実に単純なナディである。
それと、出てくる知識がアレなだけに、やはり彼女はそちらの属性の者であった。本人はきっと断固として否定するだろうが。
そんな常識外な能力を発現させて、ちょっとアレなネーミングをしてテンアゲになったナディは、背に宿る【
それにより真紅と蒼白の光が乱反射し羽毛が舞い散るような効果をもたらした。
(ふふん。やっぱり
とても良い笑顔で満足げである。どちらに転んでも、ソレにこだわるナディであった。
そんなことをしているうちに、ブレスの暴発で悶絶していたタルボ・アウルムが持ち直した。そして苛立たしげに咆哮を上げる。
「ちぃ! 持ち直しやがった! もう一回やるからフォローしろ、ゼナ!」
「えぇ~、待ってよぉマティくん。あの娘、それされると迷惑っぽいわよぉ~」
「いやンなわけあるか! あれはオレですら単騎で倒せないレアな階層主だぞ! それにか弱い女子は守らなければ……」
「マティくんはぁ、女の子なら誰でもいいのぉ?」
「いやそういうことを言ってるんじゃねーって!」
「どーだかぁ。わたくしのときだってぇ、出会って三秒でプロポーズしたでしょう? なによぉ、このエッチっちぃ」
「バ! こんな時におま何言う!?」
フォローするはずが、なぜか痴話喧嘩になり始める二人。
それを無視し、高く舞上げって滑空し加速したナディは、真正面から突っ込んだ。
それを迎撃するため、タルボ・アウルムは再び喉を膨らませる。
「や、べぇ! 間に合わねぇ!」
「あらぁ?」
鬼気迫る表情で歯噛みする美丈夫と、その隣から顔を出した金髪緑眼の森妖精の美女が見えたが、今のナディにとってはどうでも良かった。
タルボ・アウルムが、咆哮と共に膨大な衝撃波を吐き出した。それは宙にいるナディへと、大気の減衰率を無視して迫る。
「【
ナディは、避けない。真正面からそれに突っ込んだ。その様を見ていた美丈夫は何かを叫んでいたが、咆哮と何かが弾ける破砕音に掻き消された。
かくして、ブレスに真正面から突っ込んだナディは、その場に真紅の【
「うーん、やっぱり【
呟きながら、対象が消滅したとばかりに勝利の雄叫びを上げるタルボ・アウルムの背後でそう呟くナディ。咆哮がうるさくて誰にも届かなかったが。
「さて、もういいかな……て、うるっさいわね」
調子に乗ったのかアガったのか、続けて吠えるタルボ・アウルムの背後で【
「咲き誇れ。【
七十二もの真紅と蒼白の刃が飛び回り、氷と炎の斬撃が繰り出される。
認識の外から突然放たれた圧倒的手数の斬撃に曝されたタルボ・アウルムは、自身を刻むそれらに驚愕と苦痛の悲鳴を上げた。悲鳴というほど可愛いものではないが。
「あーもー、クッソ硬いわね! やっぱり超越強化じゃないとスッパリいかないか。でも――」
後頭部を切り刻むナディにやっと気付き、巨体を震わせながら振り返る。そして体躯に反して小さな両腕を振り上げ、ナディを叩き落とそうとした。
「【
だがそれより早く、【
「ああ……お姉ちゃん。お姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃん。
行動すら封殺する圧倒的で理不尽な攻撃を繰り出す姉を、前世も今世も含め初めて目の当たりにしたレオノールは、両の頬を押さえてウットリと見つめていた。
「今はそれでいい。今から、ここから、私はまた、強くなる! そう、
そう自分に言い聞かせ、心に誓うナディだった。ちなみに、戦闘に夢中でちょっとした本音が駄々漏れているのには気付いていない。
あとそんなことをせずとも誰かさん相手なら、ここのところ連戦連勝なのだが。
セーフエリアから出て来た美丈夫は、全長二十メートルを超える階層主に単騎で立ち向かい、圧倒している光景に暫し呆然とする。
だが真紅の弾丸が放たれた辺りで我に返り、何かの琴線に触れたのか一気にテンションが振り切れた。
「おおぅ、すげぇすげぇ、すげぇ! すげぇぞ! あれは【
そんな解説的独り言をしながら、まるで少年のようにキラキラした目でナディの戦闘に魅入る。
隣にいる森妖精の美女はそれを見て、やれやれとでも言いたげに溜息を吐く。だがその曇りのない眼差しが彼女の琴線に触れるらしく、頬を赤らめてクネクネし始めた。
「しょうがないですね~、マティくんはぁ。でもでもぉ、これくらいの戦闘はぁ、なかなかにないのですよぉ。マティくんが興奮するのもぉ、分かるんですよねぇ……」
戦闘に魅入り、獰猛な笑みを浮かべている美丈夫にそんな呟きを零しつつ、だがナディが振るう二振りの小太刀が目につき、首を傾げた。
「あららぁ? あの娘が持ってるのってぇ、もしかして【凍花】と【灼花】じゃないですかぁ~? 父上がお熱を上げていたぁ、あの薬師さんの持ち物なんですよぉ~」
そして不穏なことを言い始める。ナディに聞こえたら、何はともあれ全力で逃げるだろう。
ナディが繰り出す二刀と七十二もの【
苦痛に絶叫しながらも反撃を試みるが、その全てが放たれる【
その反撃が徐々に減り、やがて力なく悲鳴を上げることしかできなくなった頃、
「は! いけね、手助けしねぇと!」
我に返った美丈夫がそんなことを言い始めた。なぜその結論に至ったのかは謎だが、ともかく。
真紅のウィングドスピアを振り回して構え、口元を吊り上げて笑いながら、全身に【
「あららぁ~? ダメなのですよぉ、マティくん」
それをのーんびりとした口調で、頬に片手を添えた呆れ顔で「ふぅ」と息を吐いてから制止する美女な森妖精。もちろん、全然できていない。
「オラァ! 行っくぜー! 【
練り上げた【
体勢を低くし、強化された身体能力を全開にして突撃し――
「【
――ようとして、最高潮に高まった術式をレオノールにキャンセルされる。
強化状態ならそのまま高く高速で跳び上がって突撃するはずだったが、強制的にキャンセルされためわりと高く跳ね上がってから着地しただけであった。
その挙動に、美女な森妖精は一瞬キョトン顔をしながら首を傾げ、ちょっと面白かったのか口元を押さえてクツクツ笑い始めた。
「あ、く、おま! 笑ってんじゃねぇ!」
「ごめ……でもでもぉ、なんかぁ、面白くてぇ」
「全然面白くねぇわ!」
「『オラァ! 行っくぜー!(キリッ)』ぴょーん、すたーん。ブフゥ……」
ついには、表情と声真似をしてから隠そうともせず、尻餅を付いて足をパタパタさせながらケラケラ笑う始末である。しかも泣くほど笑って最後には咽せていた。
対して笑われている美丈夫は、顔面を強化しているのではないとばかりに赤面しながら歯噛みする。
「窒息するほど笑ってんじゃねぇよボケ妖精! それとテメェ! オレの見せ場の邪魔すんな!」
そして空中で観戦中のレオノールに文句を言い始めた。完全にイチャモンである。
「そっちこそ邪魔をしない。ここはお姉ちゃんの見せ場で実証実験中。全然困っていないから『ぴょーんすたーん』は動かない」
「誰が『ぴょーんすたーん』だこんガキ! ……あれ?」
吠える大型犬のように唸りながら言う美丈夫だが、何かに気付いてレオノールを繁々と見つめる。
「オメェ、似てるな?」
そして自身の記憶を探るように、首を傾げて思案する。それにちょっとデジャヴったレオノールは、
「この世にはよく似た人物が三人はいる。珍しいことじゃない」
とりあえず話を逸らして終わらせようとした。なぜなら、彼女自身も現在進行形で感じていたから。
この美丈夫が、えっちな誰かさんによく似ていることに。
「いや、よく似たっつーか、瓜二つだが……」
だが効果はなかったようだ。仕方なく、レオノールは最終手段に出た。
「いい大人が成人前の少女をナンパ。当たり前に引く。これは通報案件」
「いやナンパじゃねーわふざけんな! ……ってゼナ! なんでオメェまで盛大に引いてんだよ!」
「マティくん、
ひどい冤罪である。だが効果的であり、思惑通りに痴話喧嘩を始めた二人を見てほくそ笑むレオノール。悪女の才能が開花し始めていた。
ちなみに美男美女揃いの森妖精の体型は、男女問わず良く言えばスレンダーで、悪く言えば貧相である。ガチムチや豊満な体型は存在しない。それは同種の海妖精にも言える。
それでも、「だがそれが良い!」と声高々に言うヤツはわりと多い。
そうして痴話喧嘩をしているそれらをよそに、ついに倒れるタルボ・アウルムの真上に【
「舞い落ちろ。【
集中させた【
その破片は花弁のように見えたとしても、やはり刃。降り注ぐままさらに切り刻んだ。
それにより断末魔を発することもできず、ついにタルボ・アウルムは力なくその巨体を横たえた。
そして迷宮の魔物の例の漏れず、その姿を消して行く。ドロップしたのは――
「……うん、分かってた……」
出現した金色の特大魔結晶と、金色の丈夫な皮革品、牙と爪、そして骨格の一部を目の当たりにして露骨に肩を落とすナディであった。
「そりゃあね、ここまで全然出なかったらいくら私でも分かっちゃうわよ。でもね、一縷の望みってあるじゃない。今まで出なくても低確率で出るときだって、あると思うの。出るか出ないかの二択でここまで出なかったら、もう理解できるわよ」
俯いて呟きながら、それでも戦利品を残らず回収する。たとえ自分に利がなくとも、落ちたそれに罪はないから。
「お姉ちゃん……」
ナディの隣に着地したレオノールが、悲痛な表情で何を言いかける。だがそれがどんな言葉でも、今は慰めにならないのを理解しているがゆえに、それ以上は何も言えなかった。
すごく深刻そうに悲痛になっているが、食材、特にお肉が出ないのを悲しんでいるだけな姉妹である。
「おおー、すげぇな! あのタルボ・アウルムをオレの援護があったとはいえ撃破するとは! やるなぁお前!」
そんな悲痛な表情をしている姉妹に、すんごく明るく朗らかに声を掛ける。
「オレはマティアスってモンだ。【
二人のお通夜な空気に気付かないのか、それとも単にそういうのを気にしないのか、異性を確実に見惚れさせる笑顔でそう言うマティアス。
だが二人に、そんな顔面偏差値は通用しない。なぜなら、常にお互いを見てそういうのに慣れているし、何より次元が違う魔王さまを知っているから。
そんなわけで、二人はいい笑顔で話し掛けるマティアスを完全にスルーしてセーフエリアに入った。
スルーされたマティアスも、きっと疲れてそれどころではないのだろうと一人で納得して頷き、続いてセーフエリアに入る。
構造がやっぱり同じなセーフエリアにはそれなりに冒険者たちがいて、疲れているのか入って来たナディたちを一瞥しただけですぐに休息に戻っている。
「おい、腹減ってねぇか? オレはマジックバッグ持ってて保存食じゃない飯を持っているぞ。なんなら分けてやろうか」
そんな中、無駄に元気なマティアスがナディとレオノールに話し掛け続ける。
「マティくん、二人は疲れてるんだからぁ、そんなに話し掛けちゃダメだと思うのぉ」
「は? そうか? だが疲れてても飯は食わないといけねぇだろ。それに、こいつらはこの先オレらと一緒に深層を目指すんだから、世話を焼くのは当然だよな!」
「いつからそうなったのぉ? わたくし聞いてないよぉ」
「おう、今言った。大丈夫だ問題ない。オレがいれば百人力だ!」
「そもそも二人は了承していないと思うのぉ。もうマティくんってばぁ、いつもいつも一人で勝手に決めるの、良くないよぉ」
「オレにはリーダーシップがあるからな。当然の結果だな!」
勝手に決めているマティアスであった。二人にとってはまさしく寝耳に水であるのだが、そんな戯言の相手をする気も起きない。
独断で色々決めちゃっているマティアスを完全に無視して、魔法障壁で接近を拒んだ上に遮音結界を構築するナディ。
そして【
「おやすみ、レオ」
「おやすみなさい。お姉ちゃん」
とりあえず、睡眠を取ることにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます