第41話「そんなお母さんが、私は大好き!」

海斗君が部活の練習が休みとなった日の放課後……


私は、颯真君、遥、海斗君を連れ下校。

4人で私の自宅へ向かっていた。


颯真君を、お母さんに顔合わせさせ、

5人全員でラスボス『お父さんの攻略作戦』を練る為だ。


……1か月前とはガラリ状況が変わっていた。


これまでの経緯、そしてランチを共にするようになって、

クラスメートは勿論、校内中に私たちが付き合っている事が認識されつつあった。


なので一緒に下校しても、何も言われないし、

当たり前みたいに、自然にスルーされていたのだ。


遥、海斗君はいつも通り。

まあ、このふたりは今まで何度も、私の自宅へ遊びに来ていて、

お母さんは勿論、お父さんとも仲が良い公認のカップル。


でも私には、


「凜! 男子と付き合うなんて、全然早い! お前はまだまだ子供だ」


とか、しかめっ面で何度も言う。


「父親なんて、そんなものよ」


と、お母さんは笑っていた。


話を戻すと、一緒に私の自宅へ向かう颯真君は少し緊張気味。

いつもの颯真君じゃない。


海斗君が、


「おお、颯真君、どうした? 緊張しているのかい?」


「あ、ああ、海斗君。ちょっと……どきどきするんだ」


「あははは、分かる! 分かるぞ! 俺が初めて遥の家へ行った時の事を思い出すなあ」


などと笑い、硬くなった颯真君の肩をぽんぽん叩いて、勇気づけていた。


そして、


「何、緊張してるんだ? 今日は彩乃ママだろ? まだまだ! 前哨戦だよ! ラスボスとの!」


と、いたずらっぽく笑った。


遥も、


「颯真君! 情けないわよ! しゃきっとしなさい! 胸を張って堂々と! 男は度胸、女は愛嬌って言うでしょ?」


と先日宣言した通り、『姉』の如くふるまう。


「くっそ! ふたりとも! おぼえてろよ!」


と、颯真君は苦笑。


おみやげに買った洋菓子が入った手提げ袋を、気合を入れるように、

ぎゅっと持ち直した。


強気な遥と、笑顔が優しい海斗君を見ていると、

男は度胸、女は愛嬌ってもはや死語、真逆だと思うけれど……


まあ、良いかと、私は颯真君を励ます。


「大丈夫、颯真君、リラックスだよ」


「ああ、悪い! 好きな女子の親御さんに会うなんて、生まれて初めてでさ。すっかりチキン野郎になっちまった」


「大丈夫! 私の大好きな颯真君は強いんだもの! いつも私を守ってくれるから!」


私は、精一杯の笑顔で元気づけた。


すると、颯真君は超シンプル!

単純明快に変身!


「よし! 凛ちゃんに元気を貰った!」


しゃきっとして、本当に元気良く歩き出した。


そんなこんなで、私の自宅、扉の前。


4人全員で並んで立っている。


私の励ましで、一旦は元気が出た颯真君。

さっきほどではないが、ほんの少し表情が硬い?


遥が完全に『姉』キャラ。

いたずらっぽく笑い、颯真君をからかう。


「もしも、颯真君ひとりで、凛の家を訪ねたら、ピンポンダッシュ確定だねっ!」


「うっさい! 俺は絶対に逃げないよ」


と、颯真君、遥へ「べ~っ」と舌を出し反撃。


そして軽く息を吐き、笑顔で私へ、


「凛ちゃん、俺は大丈夫だ。いつでも、お母さんを呼んでくれ」


と頼んで来た。


「了解!」


返事をした私は、カメラ付きインターフォンのボタンを押した。


『は~い』


……すぐ返事があった。


お母さんだ!

多分、私たちの到着を待っていたのだろう。


私は即座に返事を戻す。


「お母さん、帰ったよ。3人を連れて来た。インターフォンのカメラモニターに映っているでしょ?」


『うん! 映ってる! 今、行くよ!』


私の返事に対し、お母さんも元気な声で応えてくれた。


……颯真君との恋愛の進行状況は、タイミングを見て、お母さんに話している。


べらべらべらと、何でもかんでもではなく、要点のみを伝えていた。


世間にはそういう場合、娘の恋愛を聞きたがるお母さんも、存在すると聞いたけど。


しかし、私のお母さんは基本は放任主義。


私から相談を受ければ親身にはなってくれるが、

基本的には「自分でやりなさい」の突き放しタイプ。


私は段階的に、シンプルに伝えた。


颯真君といろいろあったが、上手く行って付き合う事となった。


遥にスマホで撮って貰った、颯太君とのカップル写真を見せ、

「彼が颯真君」と教えた。


そうしたら、

「へえ、颯真君、かっこいいね!」と褒めてくれた。


「颯真君ファンのクラス女子たちと上手くやっていけそうだ」と伝えたら、

「良かったねえ」と喜んでくれた。


たった、こんなやりとりだけ……


じっくり相談したのは最初だけだ。

でも……深い愛情が伝わって来る。


そんなお母さんが、私は大好き!


つらつら考える私であったが、

……………………しばし経って、扉が開けられた。


開けられた扉の向こうにお母さんの笑顔があった。

……満面の笑み。


「皆さん、よくいらっしゃいました! 話は後で、さあ! どうぞ中に入ってください!」


声を張り上げ、お辞儀をしたお母さんは、

明るく私たちをいざなったのである。

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