第27話「恋は戦いよ、頑張れ、凛!」

午後5時40分を少し過ぎ、私は自宅へ戻って来た。


何か、自分でもにこにこ、うきうきしてるって、はっきりと分かる。


「たっだいまあ!」


「あら、お帰り……ずいぶん、遅かったわね。どこかへ寄っていたの?」


「あはは、ちょっとね。ごめんなさ~いっ!」


朝とは全く違う雰囲気だと、お母さんにも分かったのだろう。


「凄く、にこにこして、何か、あったの? 凛」


と、たずねて来た。


対して、私も、


「うん、あったよ! いろいろとね!」


と、朗報ろうほう曖昧あいまいに答えた。


「へえ? いろいろと?」


お母さんは、『良い事』があったと感じたのだろう。

柔和な表情になった。


お母さんには、応援して貰ってる。

私の初恋を応援して貰っている。


お母さんと遥は味方だ。


ふたりには、今日あった事を話さないといけない。


遥には後で、必ず電話をするけれど、まずはお母さんから!


全て話さないといけない。

喜んで貰いたい!


こういう時は、まず結論から言おう。

そう、私は決めた。


「報告します! お母さん、上手く行ったのよ! 私の初恋!」


全く余計な言葉はなく、私は単刀直入に言った。


「え!? は、初恋が上手く行った!? な、何それ!?」


私の単刀直入な報告を聞き、さすがに大いに驚くお母さん。

まあ……そうなるわね。


「お母さん、少し長くなるけど、最初から話すね」


と、私は今日あった事を話し始めた。


相原亮あいはら・りょうさんの事は当然話してなかったから……

補足説明も入れながら。


「へえ、相原さんって、海斗君の友だちが凛にお誘いを?」


「うん! ……それでね」


私は続きを話した。

相原さんが、断っても、強引にランチの同席を頼み込み、

私と話したいと言った事を。


「それで?」


「うん! その時、颯真そうま君が間に入ってくれたの!」


「お~! 白馬の王子様が、満を持して登場って事ね!」


「うん! そう! 颯真君、私が断っているから、無理を言わないでって、相原さんを止めてくれたのよ」


ここで少し脚色。

丁寧な話し合いというよりも、少しお怒りモードな颯真君は、

身体を張って止めてくれた。


一歩間違えばケンカになっていたかも……しれない。


そして、相原さんと海斗君に対する、遥の大激怒もあった!


でも、そこまでリアルに話さなくて良いだろう。


「話し合いの結果、相原さんはね、私、遥、海斗君に対し、ちゃんと謝って引き下がってくれたの」


「へえ! それで、それで!」


話の経過、顛末が気になるらしく、お母さんは先を聞きたがった。


「私、10年前と同じく助けてくれた颯真君にお礼を言いたくて、校内をさがしたの! ……でも、どこにも居なかった」


捜し疲れて、学食に不時着し、颯真君の取り巻きクラスメート女子に尋ねて……

体調不良で颯真君が早退した事。


早退の様子を職員室に行って、担任の里谷先生に聞きに行ったが無駄足になった事。


遥に慰められ、励まされ……また、明日と切り替えて、帰宅。


その帰途、自宅近所の公園で、颯真君に偶然、再会した事。


お母さんは、私と颯真君の偶然の出会いに驚いている。


「わあ、凛! 凄いじゃない! ロマンス小説か、恋愛ドラマみたいっ! 貴女、間違いなく持ってるわよ!」


間違いなく持ってるって、運?


これまでならば、そんなの絶対持ってないと断言したけれど……


今日の私は違う……かも。


「それで……颯真君といろいろ話した。……彼、体調不良で早退したんじゃなかった」


「え? 颯真君が体調不良で早退したんじゃなかったの?」


颯真君が、公園でバスケットボールをしていたとか話していないから、

お母さんは、そう聞いて来た。


私は更に話を続ける。


「うん! お母さん、どうしてかっていうとね!」


颯真君が10年ぶりに、この街へ帰って来て、

まずは私と再会する事を楽しみにしていた事。


そして子供の頃の思い出をたどりたかった事。


結果……颯真君は、

私には、まるで奇跡のように再会する事は叶ったけれど……

いろいろあり、あまり話せなくてもどかしかった事。

再開発された街に、颯真君の想い出は、跡形も残っていなかった事。


そんなこんなで結構、颯真君には結構なストレスがたまっていた、そんな時……

相原さんに強引に誘われていた私を助け、人の恋路を邪魔したとか、

余計な事をしたと後悔した事。


自己嫌悪に陥った颯真君は、そのまま学校に居たくなくて、

体調不良だと偽り、早退してしまった事。


そして私と出会い、ふたりきりで、お互いの本音を言い合い……

わだかまりが、すっかり解けた事。


結果、素直になった私たちは、付き合う事を決めたのだ……


「ええっと……そんな経緯なんだけど。もっと話して、お互いの事を知ろうとも話したよ……以上だね」


という事で、私の話は終わった。


上手く話せたかな?

お母さんに、ちゃんと伝わったかしら?


と、不安だったが……


「凛! ベストな説明よ! お母さん、よ~く、分かったわ! 10年温めていた貴女の初恋が遂にかなって良かったわね! 本当におめでとう!」


と、お母さんはにっこり。


そして更に言う。


「それに今夜なら、ちょうど良いわ」


「え? お母さん、今夜なら、ちょうど良いって?」


今夜だと、ちょうど良いって、どういう事だろう?


「うん! お父さん、今夜は仕事で遅くなるって言ってたから、お夕飯食べたら、お母さんと、作戦会議をしましょ!」


ああ、そういう事か!


でも、作戦会議って?


「お、お母さんと、作戦会議?」


「ええ! 颯真君はもてるし、取り巻き女子がたくさん居るんでしょ? このままだと、いろいろあると思うわ」


「あ!」


そうだ!

自分の幸せばっかり、気になって……その先の結果がどうなるか、

深く考えていなかった。


「凛、貴女と颯真君が交際するって知ったら、取り巻き女子たちと、絶対に、ひと悶着もんちゃくあるわよ」


「う、うう……確かに!」


お母さんの言う通りだ。


このまま私と颯真君の交際をオープンにしたら、トラブルが起こる可能性は高い。


「お夕飯食べて、お母さんと作戦会議をしましょ! その後で、颯真君と遥ちゃんに電話するのよ!」


「そ、そういう段取り?」


「ええ! きっと上手く行くわ……励ますだけで、保証は出来ないけれどね」


「え!? 励ますだけで、保証は出来ない!?」


うっわ!

持ち上げられて、思い切り落とされた!


でも、こうやって親身になって、相談に乗ってくれるお母さんはありがたい!


母であると同時に、姉のように近しく感じるな。


「ええ、当たり前! 以前もそう言ったでしょ? 凛と颯真君の恋なんだもの。ふたりで頑張って問題を解決しなさい。お母さんはアドバイスするだけよ」


うん!

お母さんの言う通り!


私と颯真君で何とかしなくちゃ!


「だよね! 分かった!」


私が大きな声で返事を戻すと、


「うん! 恋は戦いよ、頑張れ、凛!」


と、お母さんは、にっこり笑って励ましてくれたのである。

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