第15話「そうそう! 女子っぽく、私ツエー!」

相原亮あいはら・りょうさんって、どんな人なのか、私は全く知らない。

気になるって言われても、困る。


私は、初恋に決着をつけると決めたのに。

自分磨きを頑張っているのに……


それに私の事を知らないのに気になるって何?

海斗かいと君は相原さんと気心が知れているみたいだし、人柄を保証してくれたし、

聞けば、悪い人ではないみたいだけど……


でもでも!

よくよく考えてみたら、知らないのは、初恋の相手? 颯真そうま君も一緒だ。


10年前のあの時、話しただけ。

私を忘れずおぼえていてくれただけ……


颯真君の事を私は何も知らない……

同じクラスだから、挨拶くらいはするけれど。


颯真君にとって、私はワンオブゼムのモブキャラに過ぎない。


10年ぶりに再会した颯真君とのやりとりが、私の心にリフレインする。


「いやいや、多分、初めましてじゃないよ」


「え!?」


「多分、初めましてじゃないよ」って、どういう意味なの!?


「成る程。君が山脇凛さんなのかあ。良~くおぼえてるよ、俺!」


「え!? えええええ!!?? よ、良~く、お、憶えてるって!? な、何!?」


「ああ、そうさ、もう一度言うよ。俺と君。初めまして、じゃない」


「私と貴方が、初めまして、じゃない? 何ですか、それ?」


「実は俺さ、凛さんとは、以前にった事があるんだよ」


「ええっ、貴方が!? 以前に、わ、私とった事がある!? まさかあ!?」 


「いや、本当さ。ただ万が一間違っていたらごめん。……おぼえているかな?」


「えええ? 憶えているって、何を?」


「ぼくもさ、迷子になった事あるんだよ」


「え!?」


「その時、ここのお姉さんに助けて貰った」


「………………………………………」


「だからさ、お願いすれば絶対に大丈夫だよ! すぐにお父さんとお母さんが来るよ!」


「な!? ええええええ~~っっ!!??」


「あ、あ、あ、あの時の!!!」


「おう! ショッピングモールの事をおぼえていたかい? 10年前のあの時、君は係りのお姉さんへ名前を言っただろ?」


「え、ええ!! い、言ったわ!!」


「君の手をひいて、係りのお姉さんの所へ連れて行ったガキンチョが俺だよ。迷子になった山脇凛さん!」


そしてあの時、言えなかったひと言が……お礼をついに言った。


「お、岡林颯真おかばやし・そうま君、た、助けてくれて……ありがとう!」


そうしたら、


「おう! 任せろ! お安い御用だ。また何かあったら、助けてやるよ!」


と、優しく言葉を戻してくれた。


でも、それは単なる社交辞令なの?


「だが、凛ちゃんとの思い出は凄く大事だ。それで何か言う奴がいたら、俺は絶対に言い返す。断固抗議する」


あの時の思い出を大事にしていると、颯真君はきっぱりと言い切ってくれた。


……つらつらつらと、授業中でも考え込み、思い悩む私。


そんな私を見かねて、はるかは、学校帰り、

ハンバーガー屋さんで、美味しいデザートを食べて帰ろうと、誘ってくれた。


「凛、あんまり考えすぎない方がいいよ。ちょっと気分転換しよ!」


「あ、ありがとう、遥。でも、いっつも私に付き合ってばかりじゃ海斗君に悪いよ」


「全然、構わないって! どうせ、海斗は午後練だから!」


……最近のハンバーガー屋さんは、各店、美味しいデザートを出している。

値段もリーズナブルで、私たちは大歓迎。


私と遥は、好きなものを頼み、コーヒーとセットにし、

はじっこの席に陣取じんどった。


今日はあえて、コーヒーに何も入れないブラックコーヒー。

少し苦いけど、甘いデザートとマッチして、とても美味しい。


りん!」


「ん? 何? はるか


「陸上部の相原さん、びっくりだね?」


「う、うん……私、どうしたら、いいのか」


「そうだよね。気持ちをかき回されちゃったよね? せっかく、颯真君との思い出、決着つけようと思ったのに」


……やっぱり、遥は私の事が分かってる。

友だち、いや、親友ってありがたい!


「でも……」


「でも? なあに? 遥」


「凛は最近キレイになったよ、すっごく」


「え?」


「元々、可愛かったけど、本当にキレイになったよ、間違いなく」


「あ、ありがとう。褒めてくれるとすごく嬉しいけれど、そ、そうかなあ……」


「そうだよ! 絶対にそう!」


「でもでも、自分じゃ全く分からないし、自信なんか、相変わらず、ないし……ただただ頑張るしかないと思って……」


本当にキレイになった……

なんてほめられた事などない。

大いに戸惑う私。


「凛……自分磨き、頑張っているから……ちゃんと、結果が出たんだよ」


「結果が……」


「うん! 凛! 自信をもって! さっきの海斗じゃないけど、凛の事は親友の私が保証するよ!」


……嬉しい!

められて、素直に嬉しい!


ありがとう! はるか


やっぱり人って、められて、のびる。

やるぞ!

と思って、前に一歩、二歩、進めるんだ!


「遥、ありがとう! 私、もっともっと頑張る!」


「うん、私も『自分磨き』頑張る。りんみたいにバージョンアップするんだ!」


遥の軽口かるくちに、私も釣られる。


「あはは、遥ったら、バージョンアップって、PCソフトみたいだよ」


「はは、確かに! じゃあ、ビルドアップ!」


「ええっと、ビルドアップって、英語の授業で習ったよ、構築こうちくするって意味だっけ?」


「ううん、ボディビルのビルドアップ!」


「もう! 私、たくましくなんかなってないって」


「うん! 凛は相変わらずスレンダー、でも、心がビルドアップした。強くなって外見はキレイになった。だから心身とも最強に近づきつつあるよ」


「最強? じゃあ、俺、ツエーって事」


「そうそう! 女子っぽく、私ツエー!」


ちょっと、古いけど最後はラノベ言葉で締め、私は元気を取り戻したのである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る